初めての


「ちょっとそれ出してみ?」


 すずりが仕方なさそうに言った。

 拓が胡座をかいたままゴソゴソとデニムのボタンを開けて下ろし、湯気立つ程のホリデイを露わにした。


「少し楽になりました」


「そりゃ、こんなにデカかったら痛かったでしょうね」


 すずりが荒ぶる巨砲から目を逸らさずに同情した。


「よく知らないんだけど、男の人って朝とか、そうなるんじゃないの?」


「なった事ないです」


 拓が正直に言った。


「こんなに大きくなった事なんかない」


「参ったな」


 すずりが正直に言った。


「とりあえず良かったじゃない、おめでとう。ビデオで見てきた男の人達と同じになったって事でしょ」


「すごく苦しいです」


 拓が自分自身だけのビートを刻む分身を見下ろしながら言った。

 すずりは「じゃ、後は一人で適当にやって」と言って車から降りてしまおうと思ったが、目にした拓のデイダラボッチがあまりに巨大で完璧な形をしていた為、興味がそそられた。それは確かに、数週間前に店ですずりが悪戦苦闘した際には、全然ピクリともしなかったのだ。古今東西、すずりが知る限りのありとあらゆる技巧を尽くしたにも関わらず。


 モニターにはすずりが上になって盛大に腰をグラインドさせている場面が映っていた。車のエンジン音に混じって、微かに自分の甘ったるい声が聞こえてきた。監督に言われて「甘えるような声で、大きく」「足は大きく開いて、見せつけるように」と指示されたところだ。全然気持ち良くなんかなかった。


「小野寺君、それ自分で処理できる?」


 すずりが小声で聞いた。


「つまりその、自分で擦って出すの」


 拓が自分で手を添えて、上下に動かした。


「そうそう。ティッシュは ──ここか」


 サッサと数枚取って、すずりが拓に押し付けた。

 規則正しい音が続く。拓の息も詰めたり、吐いたりして上がってきた。


「頑張れ、頑張れ」


 すずりが小さく手拍子をして拓と拓の拓を応援した。

 拓のデイダラボッチはパンパンに張り詰めてはいるものの、ファイナル・ディストネーションを迎えるには至らない。


「もっとこう」


 すずりが見兼ねて、拓の手の上から触れた瞬間、大爆発した。


「あっと」


 慌てて箱から出した分厚いティッシュを先端に被せ、そこに受けた。ずいぶんと長い迸りで、拓は息を荒くし、無言で身体を震わせた。


「お疲れさん。君はもう立派な大人だよ、良かったね」


 すずりはポンポン、と拓の肩を叩いて熱いティッシュを丸めた。手慣れたものだった。ゴミ袋らしきものが見当たらないので、それを拓の前にそっと置く。


「じゃ、おねえさんは行くよ。今日は何というか」


 すずりが立ち上がって、白バンから降りた。未だに身動きが出来ない拓の背中に向かって言った。


「何というか、とてもいい日だった。佐田が帰ってきたら、君もお風呂に行くといいよ。綺麗に洗うんだ。とっても、綺麗にね」


 去るすずりと、銭湯から戻ってきた佐田と鉢合わせた。


「いやぁ、いい湯でした。寒いと風呂が染みてしみて、もうたまらんすわ」


 ホカホカの佐田がすずりに言った。


「小野寺君が、大人になったよ」


 すずりがニヤリと笑顔を見せて、すれ違った。


「え、どういう?」


 すずりは立ち去った。

 車内に戻ると、イカ臭かった。


「うわお前! 拓何やってんだ!」


 動けない拓の目の前にはホカホカに丸められたティッシュも置いてあった。


「そんなお前……ついにヤっちまったんだな」


 拓の背中に抱きついて、佐田が叫んだ。


「うう、羨ましいー!」






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る