娯楽の伝道師として異世界に召喚されたのでとりあえず肉欲レズハーレムを作ろうと思います

砂塔ろうか

第1話 無知な女の子がいたから色々教えたい

 神暦3500年、魔法文明はこれ以上の発展を望めない、という段階に来ていた。銀河全体を繋ぐ人工霊脈ネットワークはあらゆる人々と人外存在を繋ぎ、満ち足りた社会を構築した。

 しかし一方で、魔法――神より人が賜わった力には人の背負った大罪の大きさによってその力が減衰するという性質が存在した。

 清貧と高潔に彩られた文明社会――そこに徹底して欠落していたものはそう、娯楽である。

「我々は、堕落しても良いのではないか」

 銀河中を支配する13機関の一つ、ハイステリオス連合王国高官アソビスキーが発したその提言は、銀河中に大きな衝撃を呼んだ。

 今どき、魔法を自力で使用するものなどいない。大半の魔法は自動化されている。堕落しても、文明の崩壊を招く段階はとうの昔に過ぎ去っていた。


「……というワケで、我らがユートリア魔法国は魔法の存在しない第3765観測世界から異世界人を召喚することを閣議決定したのです」

「ふぅん。なるほどねぇ」


 ――さっぱり分からん。

 裸一貫で召喚された女――ナツは内心で理解不能の判を押しつつ、とりあえず鷹揚にうなずいてみた。

 ナツは部屋の中に視線をさまよわせる。真っ白で清潔な印象の部屋だ。神々しさすらある。中央にはキングサイズのベッドが鎮座していた。というかそれ以外なにもなかった。

 ナツはベッドの上に全裸のまま腰かけて、眼前の少女――神官か何かだろうか――に続きを促す。


「とりわけ、怠惰で傲慢で強欲で淫猥で大食いで怒りっぽく嫉妬深い――つまり魔法の適正がゼロどころかマイナスの人間がいいということになり、あなたが喚ばれるに至りました……ですがその、正直驚いています」

「ん? 何が?」

「いえ、あまりにも……その、お美しい方だったので……もっとこう、ケダモノのような方が来るものとばかり」

「いやケダモノって」

「実は私、一生慰みものにされるのだろうな、と親しい方々と今生の別れすら済ませてきたところでして」

「ガンガン言うなあ。……んで、私は何すりゃいーの? 元の世界に5人くらい私の女がいるんだけどさ、あの子ら私が突然いなくなってパニックに陥ってる頃だと思うのよ。私抜きになると第三次世界大戦を引き起こしてでも正妻の座を掴みとろうとする女ばかりだからさ、なるはやで戻りたいんだよね」

「おお! 『はぁれむ』というものですね! 肉欲と頽廃に塗れた酒池肉林! ケダモノの楽園!」

「いや、そんな鼻高々になって言うことでもないでしょ。なんなのそのテンション」


 ――あと失礼だな。

 ナツが眉をひそめると神官らしき服装の少女は照れた様子で、


「いやあ、実は異世界からケダモ……失敬、お客様を迎えるにあたって観測可能な範囲で私も勉強させていただきました!」

「へえ。そうなんだ」


 ナツは少女の体を舐るように見る。

 詳しい事情はさておき、どうやら少女はこちらの文化に合わせるつもりがあるらしい。そう判断した。

 ――揉み心地の良さそうな胸、ムダ毛のない肢体。滑らかな肩から首筋にかけてのライン。服の下から見え隠れする鎖骨は挑発的だ。華奢な脚、程よく肉のついた太もも、小さな足。足の指がきれいな形をしている。隅々まで舐め取りたい。

 ナツはその豊富な経験から、服の上からでも裸身をエミュレートする能力に覚醒していた。そんな彼女が見たところ、少女の身体は極上だ。

 極上なのは身体だけではない。少女の精神性、無垢さ、そういったものがナツの嗜虐心を刺激する。

 幸いにも、ナツが今いるのはベッドの上だ。いつでも始められる。


「……ええと、それで本題なのですが、」

「ああ、分かってるよ。文明発展の協力をしてほしいとかなんとか……そんなところでしょ?」

「すごい! よく分かりましたね!」

 そこに若干の他意を感じつつも、女はスルーする。

「最初に文明発展が頭打ちになっただの何だのと言ってたからね、そんくらいは察せる」

「じゃ、さっそく――」

「その前に」


 少女を呼び止める。


「私が元いたところでは、契約の前に信頼関係を深めることが重視されていたんだ」

「はあ……?」

「ああ、こっちこっち。私の隣、そう、そこに座って」

「あの、つまりどういうことでしょうか」

「……本当に分からない?」


 さりげなく少女の滑らかな手にナツは自分の手を重ねる。声は低く、色っぽく。相手を試すように。


「ごめんなさい、観測したといっても、魔法適性値を大幅に下降させるようなことは統御神性マテリアによって禁じられていまして……」

「つまり、知らないことのが多い?」

 こく、と少女はうなずく。

「いいよ。それじゃあ、」

 ナツは怯えたふうに震える少女に耳元で囁きかけた。

「私が教えてあげる。あなたの知らないコトぜんぶ」

「あ、あの……この、ぞくぞくっとするのは、一体……?」

「言葉で説明するよりさ、」

 ナツは無垢な少女をベッドの上に押し倒した。握る手の力に力が込められている。無意識に抵抗しているらしい。

 そんなところも可愛らしいと、さらに囁きかける。

「まずは体で、たっぷりと味わって」


 未体験の感覚に、少女は脳髄がとろけるかと思うほどの強い快楽を味わった。

 ナツはテクニシャンである。声の周波数、吐く息の強さを絶妙に調節し、脳に快楽を流し込むことなど造作もない。

 少女は未知の快楽に抗えなかった。未知であるがゆえに恐怖を覚え、しかしそれ以上の心地良さに抵抗する気力を喪失してしまう。

 娯楽に乏しいこの世界にASMRなど存在するはずもない。もとより、少女に抗うすべなどなかった。


「どう? きもちいーでしょ」

「……、は、ぁ、……こ、これが、きもち……いいって、こと……です、かぁ?」

「こんなのは、まだまだ序の口。もっともぉっと、気持ちよくできるよ」

「あ、あの、……その」

「ん?」

 すっかり紅潮した少女は涙目になって問う。

「『げぇむ』、というものはしないのでしょうか?」

「ああー。ゲームね……うん。娯楽といえばゲームだよね。たしかにそうだ」

「そ、その……これ以上続けると私、死んでしまいますので……ほ、本日のところはまた別のこと、を――ひゃあっ!」

 不意を打って耳に息を吹きかけると、少女は飛び跳ねた。


「おおー。面白い反応を……ん?」

 少女の姿を見て、ナツは首を傾げた。脱いだ様子は一切なかった、なのに、少女は下着同然の格好になっていた。

「あれ? ねぇ、服は? なんかもうちょっと、着込んでなかったっけ」

「あ、これは私が卑俗に堕ちつつあるということですね」

「卑俗に堕ちる」

「着る人の体型とイメージに合わせて形を変える魔法繊維を使用していますから、魔法適性値が下降すると――俗になるにつれて、こんな風に、どんどん布面積が減っていくんですよ」

「え。なにそのエロ漫画にありそうな設定……あれ、じゃあ私の服は?」

 ナツは間違いなく、この世界で一番魔法適性に欠ける人間だ。ということはつまり、

「はい。私たちと同じ服は着れません」

 少女はにこやかな笑みで言った。

「ケダモノじゃん!」

「ですが、『はぁれむ』は全裸が正装なのでしょう? いつでもどこでも『はぁれむ』できて都合が良いではありませんか」

「うーん。そこまでの痴女じゃないつもりなんでけど……え? それじゃあ街とか出歩けなくない?」

「なぜです?」

「ん。だって服が……」

「確かに奇異な目で見られるかとは思いますが…………問題があるのですか? 全裸で公衆の面前を歩いてはいけないという戒律があるとか」

「戒律、とかじゃあないけどさあ……」


 ――参ったな……さすがの私でも公衆の面前を全裸で歩くのは初体験だぞ。


 念のため、これがプレイの類でないことを確認するためにナツは少女の顔を窺った。

 どこまでも無垢な瞳が見つめ返す。

 視線を少し下に向けると、服が元にもどりつつあった。つまりもとの純潔さを取り戻してきているということだ。ナツの懸念するような、よこしまな考えなど抱いているはずもない。

 ――ていうか、裸で歩いてもなんとも思われないってことはこの世界、性行為が完全に廃れてるのか?

 エロエロになればなるほど布面積が減る服が普及してるくらいだ。その可能性は大いにあるだろう。


「……行きすぎた科学は魔法と見分けがつかないって言うけどさ……これは逆だね」

 ため息をつく。

 ――どうやら、この世界は単純に竿役わたしに都合のいい世界というわけではないらしい。

「ま、いいか。なんとかなるでしょ」

「どうしたんですか?」

「んーん。なんでもない。それよりそうだね、親交を深めるためにゲームをしようか」

「やったぁ! で、なにをするんですか?」

「そうだね……乳首当てゲームなんてどうかな? 目隠しして相手の乳首を触った方の勝ちってルールなんだけど」

 ナツは至極爽やかな顔で提案した。

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