ハーフ・チェンジ

彩霞

第1話 挨拶

 その日、アメリカのフロリダ州にある、エイミー・ジェンキンズの家を訪ねてきたのは、一組の日本人の夫婦だった。


「ハロー。ようこそ、いらっしゃいました」

「ハロー、ジェンキンズさん。お招き下さりありがとうございます。本日はどうぞよろしくお願いします」


 出迎えた家主に英語で挨拶をしたのは、白い半袖のシャツを着た夫のほうだった。事前にもらった書類には四十歳になっていたはずだが、二十代に見える。東洋系の年齢は見た目では判断しづらい、とエイミーは微笑みながら思った。


「こちらこそ、よろしく。ヤマギシさん」

「良ければ、ケンとお呼びください」

「オーケー、ケン。私のこともエイミーと」

「分かりました」


 エイミーは彼に手を差し出して軽く握手した後に、隣に戸惑いながら佇む妻の方を見る。ケンより少し年下の三十八歳だったはずだが、やはり彼女もその歳には見えなかった。エイミーよりも十歳程度下のはずなのに、それよりもずっと若く見える夫婦に対し、彼女の中でまるで自分の子どものように守ってやらねばという庇護欲が不思議と掻き立てられる。

 エイミーはふふっと面白そうに笑いながら、妻の方に挨拶をした。


「ハロー、リナ。私はエイミー・ジェンキンズ。エイミーと呼んでね」


 エイミーはそう言って手をリナに手を差し出す。彼女の名は、夫のケンと同じように送られてきた書類で確認済である。そして、リナにもエイミーのことを事前に伝えてあるはずだが、彼女は自分の手の中にある「エイミー・ジェンキンズ」と書いてあるメモを何度も確認しながら、「こんにちは……エイミーさん」とたどたどしい英語で挨拶をした。


 エイミーはリナの精一杯の挨拶を見てにこりと笑うと、彼女に一歩近づいてハグをする。


「えっ? えっ?」


 戸惑うリナに、エイミーは日本語で優しく言った。


「本当に、よく来てくれたわ。ありがとう」


 リナは自分に分かる「日本語」で話してもらえていると気づくと、ゆっくりであるがエイミーの耳元で応えた。


「こちらこそ、招いて下さりありがとう……」


 期待よりも不安の大きい声を聞き、エイミーはもう一度強く抱きしめてからリナを離した。


「日本語、お上手なんですね」


 驚いたケンがエイミーに言うと、彼女は困ったような笑みを浮かべながら「まあね」と答えると、ドアを大きく開いた。


「さあ、どうぞ入って。話をしながら甘い物でも食べましょう」

 エイミーはウインクをすると、彼らを家の中に招き入れた。

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