第12話 忠孝仁義

「不味い」


 紅茶は大不評だった。


「紅茶のひとつも満足に淹れられないの? 特別に私が手ずから淹れてあげますから、そこで『待て』しときなさいな」

「む……」

「悔しかったらきちんとできるようにおなりなさい」




 嫌味のたっぷり入った紅茶を飲んでいると、


わたくし


 麻璃亜が物騒な話をはじめた。


「我が南天城みなみあまぎは国の魔道を統括する名家なのだけれど、先代の父上は行方不明、母上は病に冒されているの。他家からすれば、現当主小娘一人を潰すだけで覇権が握れる大好機ビッグチャンスというわけ」

「ほう」


 冗談じみた話だが、麻璃亜は至って真面目だ。


「屋敷は多重結界が施されているから余程のことがない限り大丈夫。だから駄犬、貴方は登下校中と校内で、私を護るの。いいこと? それが貴方の仕事」

「わかった」


『お嬢様! 護りは我のみで十分ですぞ!』

「ガールードがいないと私が困るわ。この駄犬はただの囮時間稼ぎよ」

『成程。そういうことでしたら納得でございます』


「汚ねえ話だ」


「囮の話? 悪いわね、駄犬。私のために、死んで」

「いや、汚ねえってのは麻璃亜サマの話じゃない。麻璃亜サマみたいな女の子を狙うクズ共のことだ。――約束する。俺が護ってみせる」


「駄犬……」


『ほざけ! お嬢様を護るのは我よ!』

精々せいぜい死なないように励みなさい」


 有難いお言葉をどうも。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る