第09話 燕雀鴻鵠

 飼いイヌとしての仕事がはじまった。あの日、麻璃亜の自宅――執事やメイドがいそうな豪奢な洋館だったが人の気配はなかった――まで彼女を送り、翌朝迎えに行き、今こうして鞄持ちをしている。


 麻璃亜と連れだっての登校。

 校門を抜けるなり、校内は騒然。



「魔女が狂犬マッドドッグ手懐てなずけた?」

「付き合ってるってマジ?」

「どっちから告ったんだ?」

「しらねーよ馬鹿! どっちからでもこえーよ!」

「占いってこれからもやってくれるかなぁ?」



「ふふ、素敵に騒がしいわ」

「ご機嫌だな」

すずめさえずりを聞くののも鴻鵠こうこくの楽しみのひとつ。毎日では耳障りですけれど、たまには悪くないわ。駄犬にはわからない?」

「他人事に賑やかなこった、とは思う」

「他人の揉め事に首を突っ込んでばかりの狂犬の言い草とは思えませんわね」


 と、麻璃亜はわらう。


 返す言葉も無い。

 俺は揉め事に首を突っ込むタチの人間だ。そして正しいと信じる方に加勢し、場合によってはというか殆どの場合喧嘩に発展する。


 気付けば狂犬マッドドッグと呼ばれていた。


 俺は俺の正義にって動いているつもりだったが、周りは暴れているだけと解釈した。それはいい。他人にどう思われようと、俺は俺のやり方を変えたりしない。


 そんな生き方を始めた契機きっかけを俺は思い起した――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る