第08話 奇々怪々


『ええい! お嬢様に近づくな不埒者めが!』


 声は南天城みなみあまぎの――麻璃亜まりあの羽織っている聞こえてきた。


「ガールード、おやめなさい。駄犬が怯えているでしょう」

「び、びびってねえ!」


 突然布地が喋ったら吃驚びっくりするだろ!


「虚勢もそこまで行くと立派ね」

「そ、そのは一体なんだ?」

「このは母上が魔力を込めて編んでくださった私の守護者ガーディアンなの」

「カーディガンがガーディアン?」


 なんだそりゃ。


「ふふ、酷い冗句じょうくよね。馬鹿みたい」


 ぼやきつつも愛おしそうに麻璃亜は年季の入ったカーディガンを撫でている。


  喋るカーディガンにさっき見せた炎。

  本物ガチって事か。




 ……俺みたいなまがい物とは違う。




 撫でられているカーディガンガールードはというと、


『我の出自など良いのですお嬢様! 即刻その不埒者からお離れください!』


「そうはいかないわ。私は駄犬の飼い主になったの。世話はきちんとしないと。そこらでお漏らしされては飼い主の沽券こけんに関わるわ」


「誰が漏らすか!」

「脱糞しても後始末の面倒はみません。そのつもりで」

「漏らさないっての!」

『小僧! お嬢様に無礼な口を聞くな! ただではおかんぞ!』

「衣料品に許してもらうつもりはねえ!」

『なんだと貴様!』

「やんのかコラ?」


「おやめなさい。貴方達、あるじの命が聞けないのかしら?」


 麻璃亜の低く冷たい言葉の圧に、俺とガールードカーディガンは揃って黙り込むしかなかったのだった。

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