歯車

勝利だギューちゃん

第1話

妹がいた。

そう、いた。


正確には、いるはずだった。

でも、いない。


「もし産めば、母の命が危ない」

そう医者から言われて、泣く泣く・・・・


当時、僕はまだ幼稚園児だったので、詳しくは知らない。

後から、聞かされた。

性別も、わからない。


ただ僕が、勝手に妹と思っている。



『お兄ちゃん』

「君は?」

『妹だよ。お兄ちゃんの』

「本当に、女の子だったんだ」

『お兄ちゃんが、そう望んだんでしょ?』


笑みを浮かる少女。

歳は、17歳くらいか・・・

無事に生まれていたら、その歳か・・・


時々思う。

今の僕の命を、この子に与えらえたらと・・・


『お兄ちゃん、それは責任転嫁だよ』

「手厳しいな」

『お兄ちゃんは、私と違って、存在してるんだから、自分から消したらだめだよ』


なぜか、嫌な気はしない。


『お兄ちゃんには、私の分もたくさん経験してほしい』

「たくさん?」

『私が、感じることのできなかったこと、体験できなかったこと。』

「ああ」

『お兄ちゃんには、たくさん経験して、体験してほしい。そして・・・』

「そして?」

『いつか、こっちで私と再開できたら、たくさん遊んで』


遊んでか・・・

これは、文字通りの意味だろう。

いかがわしい意味ではない。



たまに夢に出てくる。

その時の会話。


出てくるのは、僕が人生に疲れた時。

決まって現る。


『お兄ちゃん』

「何?」

『お兄ちゃんは、好きなんでしょ?』

「何が?」

『女子高生の制服姿。これからも、この格好で着てあげるから』

「おばさんお、制服姿なんて、見せる暴力だ」

『それは、全国の女性を敵に回すよ。安心して、私は永遠にこの歳だから』


こういったやり取りも、心が癒される。


『お兄ちゃん、ところで・・・』

「何?」

『いい加減、私の名前考えてくれた』

「やだ。めんどい。あいつにつけてもらえ」

『あいつって』

「俺の弟。つまり、お前のもう一人のお兄ちゃんだ」

『やだ。お兄ちゃんがいい』

「じゃあ、お前のパパかママにつけてもらえ」

『やだ。お兄ちゃんたちの名前を見てると、センスがないもん』


ほっとけ

 


『今決めて、お兄ちゃん』

「どうして?」

『呼ぶとき困るでしょ?』


確かにそうだが・・・



「わかった。命名してやる」

『本当?わくわく』

「期待されても、困るが・・・」

『いいから言って』


僕は、その名前を口にした・・・


ジリリリ


目覚ましがなる。

そこで、目が覚めた。


「久しぶりに見たな。あいつの夢。名前は・・・なんて言ったっけ?」


そこだけ記憶から零れ落ちていた。

きれいに・・・


他は覚えているのに。


部屋のドアが勢いよく開く。

制服姿に身をつつんだ妹がそこにいた。


「お兄ちゃん。もう7時だよ」

「なんだ。瀬梨か・・・。いつも、元気だな」

「博也お兄ちゃんは、もう起きてるよ」

「俺は、低血圧だ」

「理由にならない。気合いだよ。気合い」


瀬梨に、ベットから引きずる降ろされる。

目が覚めた。


「じゃあ。早いところ。ごはん食べて」

「親父とおふくろは?」

「まだ寝ぼけてるの?パパとママは、もういないじゃない」

「そうか・・・そうだったな・・・」


あれ?

何だか変だ。


まあいい。


でも、本当におかしい。


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