バケモノセカイ【RE版】
渡貫とゐち
第1話 少年と少女
~まえがき~
お久しぶり、今作は復刻掲載となります。
当時、読みやすさを重視して作っていましたので、文章は最新作と比べるとシンプルになっています。
その分、ストーリーもシンプルで分かりやすいでしょう……たぶん。
細かい部分をいじったアップデート版です、楽しんでいただけたら幸いです。 渡貫とゐち
~ おわり ~
「バケモノセカイ~猿の王国~」
人間は生物との生存競争に負けた。
喰う者と喰われる者の関係性は逆転し、ピラミッドの最下層へ人間は押しやられた。
都市は大陸ごと破壊され、人口は百分の一まで減少する。
支配権が一瞬で移動する、大きな世界の転換期からおよそ百年――――
強さだけを求めて進化した生物は、半球を覆う大陸に棲む。
弱肉強食の世界は、生存競争を過激にさせていく。
支配者から引きずり落とされた人間は、人工物の激減により参加することができなかった。
だが、百年間の敗北によって、人間も進化を遂げる。
そして。
人間という枠から飛び出した者を『ハンター』と呼び。
世界を支配する生物群のことを『バケモノ』と呼んだ。
#
「――はぁ、はぁ、はぁッ!」
鋭利な葉が集まる草むらを両手でかきわける。
防御面に秀でている繊維を使った生地で作られた服でも、傷は無くならない。
ぴりっ、と、また一つ、傷が増えた。
――白髪の少女・ウリアは、連続する痛みに顔をしかめる。
だが、歯を食いしばる。
止まれば痛みの限界を越えてしまうだろう。
大木が並ぶ森林の中でも、間隔の狭い僅かな隙間を選んで通る。
自分の姿を相手に見失わせる意図があるのだが、姿は消せても匂いは消せない。
方角を誤魔化せても、匂いで辿られてしまっている。
「っ、――しつこいッ!」
追ってきているのは分かるが、相手の姿が見えない。
自分で見晴らしの悪い場所を選んでいるのだから、自業自得なのだが。
相手に見つかりにくければ、自分も見つけにくい。
自慢の武器も、視界が晴れていなければまともに機能しなかった。
(……外に出れば待ち構える事で狙いを絞り、矢を撃てる……。一発勝負だけど、眉間に一発でも撃ち込めば即死になる!)
行動を決め、光が八割も差し込まない森林の先を見る。
上からの光はほぼないが、前からは見える。
……とは言え、微かな光だ。
糸を針に通すような小ささだ。
それでも見えた。
傷が増えても関係ない。
転びそうになっても体勢を立て直す事なく、勢いそのままに転がって、森林の外に出る。
急な光に目が眩む。
飛び込んできたのは青い空と海。
黄色い砂浜。
転んでも地面が砂なので、ちょうど良いクッションになった。
直射日光が、ただでさえ輝くように見える白髪をさらに輝かせる。
勢いによって、服にしまっていた長髪が流れ出る――
振り向いた際の回転によって大きくなびいた。
「さあ、きなさいっ!!」
短いスカート越しに見える腰のラインに取り付けた弓を、留め具を無視して取り出す。
明るい青紫色のメタリックなデザインの弓矢だ。
羽を広げた
同じく腰につけた円筒の中から矢を一本出し、弓に
目の前に狙いをつけ、片目を瞑る。
集中力は最大。
森林の入り口に向け、視界を狭める。
真っ暗でほぼ見えない森林の奥から足音。
……近づいてきている。
弓の弦を引く。
力を込めた。
あとは離すだけ。
そして、音がやむ。
「…………え?」
無音の中に発生する圧力。
風圧だけが先にきて、ウリアの白髪を真後ろになびかせる。
遅れてやってきた巨大な塊が、少女の体を完全に捉えた。
枠内の中心地点にいるので、八方のどこへ避けようとも間に合わない。
気づくのが遅過ぎた。
とは言え、予想などできやしない。
未知の相手と戦うのに、不意を突かれない事はない。
相手は『バケモノ』だ。
準備万端でも不十分。
彼ら相手に、こちらが有利に働くような仕組みは通用しない。
「ッ――」
言葉も出ずに、迫る塊がウリアの全身を叩
#
ん?
――意識はある。
叩かれた感覚もない。
あるのは浮遊した感覚。
その後の、地に足がついていない不思議。
ぎゅっと目を瞑っていたウリアは、ゆっくりと目を開ける。
すると、視界が高く、見晴らしが良かった。
空も海も、広範囲がよく見える。
「さっきの一撃、当たってねえよな?」
と、声が上からかかる。
景色に見惚れていたウリアは、はっとして上を見る。
黒髪の少年だ。
銀色の
というか、直射日光が銀色のジャケットに反射して少し眩しい。
自分の髪の事を思えば、言える立場ではないのだが。
「…………誰?」
「こっちのセリフだよ。ひとまず、気づいたなら下ろすぞ」
下ろすぞと言われてから、自分がお姫様抱っこをされていた事に気づく。
憧れるシチュエーションではあるが、状況が状況なだけに感情が揺れる事はない。
すとん、と、こっちが許可する前に下ろされた。
ここは大木の枝の上。
地面までの距離は意外とある。
五階分……くらいか? 普通に高い。
見下ろせば、さっき自分に迫っていた巨大な塊が、手の平に収まってしまう。
「あれって……」
上から見れば、近過ぎて分からなかった塊も理解できる。
あれは腕だ。
茶色い体毛に覆われている。
膨らんだ腕はやがて萎んでいき、高所からでは分からないほど、小さく細くなっていく。
米粒くらいの大きさに見える『バケモノ』が、森林から出てくる。
きょろきょろと辺りを見回し、頭を掻いている。
ウリアを探しているようだが、見失ったらしい。
匂いを辿られたらすぐにばれてしまいそうだが、意外にもそんな展開にはならない。
見えるバケモノは興味を失い、森へと帰っていく。
安堵したのはウリアではなく少年の方だった。
「はあ……。ひとまず、あいつが馬鹿で良かったな」
大木を背もたれにして寄りかかる。
少年がウリアを見た。
「一応、匂いは残さないように一瞬で動いたけど、中にはそれでも匂いを掴む奴がいるからな。最悪、普通にここまでくる。あとはやる気次第だ。あいつは執着があまりなくて、考えないタイプだったから撒けたけど、違う奴だったらもう少し探してた。追ってくるかどうかは別として」
――で、と、少年が区切る。
「お前は一体、なにを言って怒らせたんだ?」
「……なによ、それ。出会ってから落ち着いて話す第一声がそれ?」
ああ、それもそうか――と少年は頷く。
「聞きたい事があったんだ。お前が、『女』、なのか?」
はあ? と思わず声が出る。
見て分からないのか、という常識は通用しなかった。
「…………女、だけど」
「へえ、初めて見た。俺さ、俺以外の人間、見た事がねえんだよ」
おかしい。
いくら人類が少なくなっているとは言え、人間を初めて見る人間なんているのだろうか。
「写真とかでは薄っすらな。話はよく聞いてる。こうして実物を見るのは初めてだ。やっぱり細部は違うけど似てるな。鏡みてえだ」
そこまでは似ていないだろうとツッコミたい。
それだと瓜二つ以上じゃないか。
「はいはい。そんなにいきなりテンションを上げられてもこっちが困る」
ウリアが呆れる。
あの一撃から救ってくれた相手だ。
どれだけの実力者なのか期待していたが、ただの世間知らずの子供だった。
自分の目的に利用はできなさそうだと考え、ここで別れる事を決める。
「あー、助けてくれた事は感謝するわ。ありがとう。でも、もういいから、放っておいて」
つん、と視線を逸らす。
「そっか。でも、大丈夫なのか?」
「なにが?」
「ここ、結構高いけど、下りられるのかなあ、と」
木の枝から下を見て、ごくりと唾を飲み込む。
ウリアの身体能力なら、下りられないわけではない。
だが、さっきの逃走劇と戦闘で体力は万全ではない。
一つのミスでも命取りになる環境で、手負いのまま挑むのは中々の度胸がいる。
こんなつまらないところで死んでももったいない。
自分には、やらなければいけない事があるのだ。
「…………頼っても、いいの?」
視線を向けずに頼んでみる。
少年はウリアの躊躇った気持ちを知らずに、のん気に返す。
「別にいいよ」
少年はすぐにウリアを抱え持つ。
二回目のお姫様抱っこに、今度もドキリとしなかった。
そんな余裕はなく――
少年が、ウリアを抱えたまま枝の上から飛び降りた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます