第三話

エルデネとカンタローザーの国境沿いに3人を乗せた車が止まっている。


「遅いわね・・・エルデネ着いてから行けばいいのに・・・」

「野ションも取材の醍醐味なのな〜」

「まさか・・・、大きい方かしら・・・」


「ミーナさん!ナーミさん!!ちょっと来てください。無いです!アレが無いんです!!」


外から聞こえてくるミケの慌てた声。ナーミがため息をつきながら車から降りた。


「やっぱりね・・・。紙くらいちゃんと準備していきなさいよ。・・・・・・えっ!!」


車の脇でカメラを構えているミケ、その先に見える光景に反応したナーミの異変に気付きミーナも車を降りた。二人の故郷、カンタローザーにそびえるフラクタル鉱山の一角が見事に三日月型に抉られている。


「なに?あれ・・・」

「ぽっかりなくなってるのな・・・」

「いや〜綺麗になくなってますね!」

「エグるような反り勃ちなのな・・・」

「ちょっとミーナ・・・」

「え?」

「そ、それにしても幸先いいわね!さっそくひとネタGETよ!!」


その時だ。


ピュ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ドッバ〜〜〜ン!!!!!


3人の背後、エルデネの街の上空に大きな花火が炸裂した。


「綺麗なのな〜ナーミ」

「うん・・・ミーナ」

「うぉぉ〜!エルデネ名物エレメンタル花火!はじめて見たっす!テンション上がってきた〜」

「まだ誰も取材に来ていないはず!チャンスなのな!」

「大急ぎでエルデネにむかうわよ!」

「了解っす!!」



エルデネに到着した3人は魔王イラに会うため魔王城へ向かった。

街は年に一度の感謝祭に沸く人々であふれかえっている。

“エルデネ感謝祭実行委員”と書かれたハッピを着た男が大きな声で街ゆくひとびとに声をかけていた。


「さぁさぁ皆さん。今年もはじまる感謝祭名物大食い大会!会場はこっちだよ〜」


活気にあふれた街の雰囲気にのまれたミケがせわしなく動き回り、ずらりと並ぶ屋台をあちこち覗いては手元に蒸しイモやホットミルクを持って二人の元へ戻ってくる。


「なんかテンション上がるっすー!」

「ミケくん、遊びに来たんじゃないんだから・・・。これは取材よ取材!」

「わかってますって〜ナーミさん」


そう言いながら、たっぷりバターが塗られたホクホクの蒸しイモを口元へ運ぶミケ。

一緒にソレをつまんでいるミーナ。ミケがハフハフしながら二人に言った。


「なんか今年の大食い大会はチャンピオンの三連覇かかってて見ものらしいっすよ〜」

「面白そうなのな〜。行ってみるのなー!」

「ちょっと〜!遊びじゃないのよ〜!」


人混みを縫って大食い会場へ向かうミーナとミケを、すこし笑みを浮かべながら追いかけるナーミ。



「さぁ、今年も始まりました!『エルデネ名物大食い大会』。さっそく出場者を紹介しましょう。『さすらいの違法運転手エスコ』まだコカトリスの石化治療中だが参戦!度胸が半端ない!!」


客席に向かって、張り出た立派なハラをポンと叩くエスコ。


「いいぞ〜違法運転手〜!やってやるのな〜!」


いつの間にか客席の最前線まで潜り込んだミーナが、声援を送る観客にまぎれて野次を飛ばす。


「続いては、『我らが炎壁守備隊の隊長ロキ』去年大会準優勝!雪辱を今年は果たせるか!!この戦いに勝ったら、結婚する。そんな死亡フラグ全開の情報も届いております!」


「うぉ〜隊長頑張るっす〜!応援してるっす〜!」

「あんた誰よ!!なんでそんなに馴染んでるのよあんたたち・・・」


なぜかロキに感情移入しているミケや、いつの間にかタイミングよく観客の拍手を煽っているミーナに呆れながらも会場の雰囲気を楽しんでいるナーミ。


「さぁそしてこちらがニューフェイス。『魔王イラ様の嫁候補。魔管補佐官アン』」

「魔王イラ様の嫁候補・・・だと・・・?」


一瞬でナーミの顔が取材モードの鋭い表情へと変わる。

目にもとまらぬ速さでポケットから手帳とペンを出し、イラとのキスを司会にバラされあたふたするアンと怒るメリスのやりとりを瞬き一つせず手帳に記していく。


カァーーーン


ゴングの音とともに大食い大会の火蓋は切られ、ひたすらフライドコカトリスを口元へ運ぶ選手たち。白熱する勝負の中、早々に席を立ちコカトリスを揚げているパブロの前に立つエスコ。


「オレと・・・やらないか?」


エスコの一言に会場全員の時が止まった・・・。


男女の恋愛がノーマルな魔界アルドラマにおいて、同性愛者はマイノリティとして長年抑圧されてきた。しかし近年、メディア・ネットワークの発展により、様々な性のカタチが広く知られることとなり、アルドラマ都心部を中心に性の多様性が認められつつある。その一助となったのが、BLと呼ばれる男性同性愛小説の密かなブームであった。ブームを広めたBL好きは自嘲するように自らを腐女子(腐男子)と呼び合った。

そしていまここに、ひとりの女が男達のやりとりを熱く見つめていた・・・。


「やらないか・・・だと・・・?」


一瞬でミーナの顔が萌えた表情へと変わる。

目にもとまらぬ速さでポケットから手帳とペンを出し、呆然とする揚げ場のパブロと熱い視線を送るエスコの無言のやりとりを瞬き一つせず手帳にスケッチしていく。


ミーナ&ナーミのペンが走る!

アンとメリス、戦うオンナたちの攻防を情緒的に記す文章。

パブロとエスコ、熱いオトコたちの魂の会話を描く腐女子絵。

二人の手帳が埋められていく!!


そこにふらっとやってきたイラを見つけ、司会が絡んだ。


「おおっと!イラ様、この戦いどう見ますか?いや!むしろこの戦いでどちらを選ぶおつもりですか?!」

「はぁ?選ぶって・・・」


ビキビキーーン!!


ナーミが圧倒的なスピードで、ペンをマイクに持ち替えイラを捉える!!


「魔王イラ様、MBC女子アナのミーナ&ナーミです!」

「なんと!イラ様に取材だ〜!」

「イラ様、聞いてましたよ!出馬宣言早々に“美人秘書”と“魔管”との交際スキャンダルですか!?」

「はぁ??ちがうちがう、はっはは・・・助けて」


殺られる・・・。ナーミの殺気のようなジャーナリスト魂を感じイラはそそくさと会場から逃げ出した。


「いくよ!!」


ミケの首根っこを掴み、全速力でイラを追いかけるミーナ。



「くっ・・・。逃げ足の速い魔王ね・・・」


イラに撒かれてしまったナーミが悔しそうに今の出来事を手帳に記す。


「はぁ・・・はぁ・・・。あれ・・・?ミーナさんは?」

「きっと、嫁候補二人の大食い対決の行方をみとどけてるのよ。恋の行方と勝負の行方は記事にリンクさせられるからね」

「さすがミーナ&ナーミ!双子のコンビネーションえぐいっす!」


そこへ後を追ってきたミーナが合流した。


「ねぇ!見たあの二人!!ウチ感動しちゃったよ〜」

「え〜そんなすごい戦いだったんですか?!」

「で、どっちが勝ったの?美人秘書?それともマヌケ面の魔管?」

「ん?なんのこと?」

「大食い大会・・・?」

「あーそれは知らないのな」

「えっ!なにがそんなに感動的だったんすか?!」

「あんな愛の告白はじめてみたのな」

「あぁあの隊長、プロポースしたのね・・・」

「あんな大勢の前で『俺とヤらないか?』って!!」

「そっちかーい!」

「くぅぅぅぅ痺れるぅ!あのおっちゃん、足を石化させながらコカトリス揚げてるおっさんに告白したんなよ!スルーするおっさんを煮えたぎるアツアツの視線で見続けたのな!」

「“揚げもの”だけにね・・・」

「あなたが振り向いてくれるまでここで待ち続けるぜ俺は。と言う硬い意志なのなよ〜!」

「“石化”だけにね・・・」

「寛容になってきたとはいえ、こんなクソ田舎であんなカミングアウトするなんてすごい勇気なのな!おっさん達の恋万歳なのな〜〜!!」


息を切らせながら熱く語るミーナにドン引きのミケがナーミに小声で言う。


「ミーナさんてガチの腐女子なんですね・・・。あと、さりげなくクソ田舎って・・・」

「ミケくん、今日のことは早めに忘れてね・・・」



夕暮れ時、ミーナのBL妄想もやっと収まり3人は車内でイラを直撃するため、魔王城の前で張り込みをしていた。そこへ現れた大食い大会の優勝トロフィーと副賞の星芋一年分を抱えたメリスに、噂の真相を探るべく取材を敢行する。花嫁候補の核心に触れる回答こそ得られなかったが、アンとイラのキスの噂にうろたえるメリスの挙動の怪しさをミーナ&ナーミは見逃さなかった。



アンと魔王イラが普通の仲ではないことを確信したミーナ&ナーミは翌朝まで魔王城前で張り込んだ。しかし、結局イラが戻ることは無く、徒労に終わった張り込みにミーナが嘆く。


「あ〜あ、こんなことならコカトリスのおっさん達を追うんだったのな〜」

「どこに需要があんのよ!」

「何かが始まる予感しかなかったんだけどな〜」

「まぁいいわ!魔王イラの花嫁候補なんてなかなかのスクープよ」

「クソ田舎魔王の恋路なんて誰も興味ないのな〜」

「またクソ田舎って言った・・・」

「おっさん達の恋よりましでしょ。でも、なんか決定打に欠けるのよね・・・」


手をこめかみに当てて悩み込むナーミ


「あっ、あれ昨日の秘書さんたちじゃないですか?」


ミケの指差す方向には、メリス、イラ、パブロ一家に見送られるアン達の姿があった。


「むっはーん!コカトリスのおっさん発見な〜!!!」

「ミケくん、魔王の表情が撮れる位置に車止めて!」

「了解でーす!!!」


イラ達から見えない様に車を止めたミケはカメラを構えた。ミーナは双眼鏡でその様子を覗く。ナーミは録音用のガンマイクを向けて様子を見守っている。


「久々の外の取材は楽しいのなぁミーナ。昔を思い出すのな〜」

「え?あぁ、そうね・・・」

「あ〜〜〜〜っ!あのおっさん妻子持ちな!!」

「ミーナうっさい!」

「こ、こ、これは禁断の恋なのな・・・」


完全に妄想の世界に入り込み体を震わせるミーナから双眼鏡を奪い、イラ達の様子をナーミが覗いた。


「ふふふふふ。ふははははは。よく分かったわ・・・」

「ナーミさんも妄想ですか・・・」

「ちがうわよ!あんたも表情見てたらわかんない?恋のデットヒート・・・」

「え・・・」

「恋のトライアングルバトルは始まったばかりなのよ!!」

「え・・・。ダサっ」

「なんて?!」

「いえ、なんでもないです!つまり、三角関係は継続ってことですか?」

「そう言ってるでしょ!!」

「・・・あの。そろそろ戻らないとデスクに怒られるとおもうんですが・・・」

「ミケくん・・・」

「はい・・・」

「あの魔官補佐官を追うわよ!!」

「えぇぇぇぇぇ!!」

「記者の勘が追えって言ってるのよ!ミーナ&ナーミのジャーナリスト魂見せてやるわ!!」


アンたちを追い国道を走ってゆく3人を乗せたバン。

ミケは呟いた・・・。


「ミーナさんが腐女子で・・・ナーミさんが粘着質・・・と」

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