第七話 『殲滅兵器シリーズ』
「イラ様・・・おっぱいをすってください」
「おまえなぁ・・・言い方ってもんがあるだろう!」
先ほどから、デスホッパーを『エレメンタルバースト』させた紅蓮に輝くまさしくエルデネの牛、といった乳牛の『おっぱい』を吸うか吸わないかでもめている。
魔王城にはエルデネの民たちが“
ロキも意識を取り戻しアンの勇姿を子供たちに話している。
「ロキのおっちゃんを背中にしょって、もうひとりかついだの?!すげー!」
「あぁ、それにあの牛を操ってデスホッパーを木っ端微塵にしちまうんだからとんでもねぇ魔管さんだよ、アンさんは!」
「すげー!それに、今イラ様におっぱい吸わせようとしてる!」
「あぁ半端ねぇぜ、まったく!」
わけのわからないところを感心されているアン。
メリスがその不毛なやりとりに介入してくる。
「イラ様、アン補佐官が言うようにこの牛のエレメンタル純度の高いミルクを飲めばエレメンタルが戻るやもしれません!」
「コップに入れて飲んで効果がなかったんだからないだろ・・・」
メリス&アン「だから!おっぱいから直接摂取するのです!さぁ!はやく!」
イラは二人の圧に押されてしまい渋々、牛のおっぱいを直接飲むことになってしまった。
んぐ・んぐ・んぐ・んぐ
んぐ・んぐ
エルデネの民たちが固唾を呑んでその様子を見ている・・・。
「どうすか?イラ様・・・」
「ほら、ぐわーっとなんか来ちゃいません?ぐわぁ〜っと!」
「・・・うん、ホッとする味だな。美味い!ってなんも起きんわ!」
すごく残念な顔をする、メリスとアン。
エルデネの民たちまで、ため息をつく。
その様子をずっと階段に腰掛けてみていたDD。
「間も無く来ますよ」
全員が思ったことだろう、『冷静か!』と・・・。
・・・ヴィィィィ
デスホッパーの羽音が障害物のない穀倉地帯の大気を震わせ響いてくる。暗闇で姿は見えないがとてつもない数に増殖していることだろう。エルデネの街が蹂躙されてしまう・・・。もう策がない。
民たちは、各々静かに魔王イラへ祈りを捧げている。
「俺は魔王・・・失格だ・・・」
「失格・・・聞き捨てなりませんね、魔王に失格になる資格などありませんよ?」
DDがイラに歩み寄る。
「あなたの言う失格とはなんなのでしょう?それとも・・・なにか魔界公職選挙法違反に問われるようなことがあったのでしょうか、だとすれば魔管として見過ごせませんね」
「オレは・・・」
DDは魔王城の中心に建っている円柱をコン・コンと叩き、ふむふむと品定めをしている。
「こちら、もしかして”始祖”を打ち滅ぼしたという“殲滅兵器エキゾートス”ではありませんか?随分と錆びついてますが。こちらでデスホッパーを殲滅してはいかがです?殲滅兵器だけに・・・」
「・・・(いまのボケたのかな?)」
空気を察したアンが追い打ちをかける!
「はははーは、殲滅だけに!・・(上司に尽くすボク!)」
「DD、イラ様のエレメンタルが使えない状態で可能なんでしょうか?」
メリスさん冷静か!と突っ込みたいが、まさにそのエレメンタルがないのにどうするんだろう。
「では、なにか他に策がおありですか?黙ってここでやり過ごしますか?」
DDの言葉に黙ってしまうメリス。
「俺のエレメンタルがたとえ、『1』しかなくても俺はやる!」
パァァーン!
コボルトのフレア婆さんがイラの背中を思いっきり叩く!
「いってぇ!なにすん・・・」
「それでこそ、魔王様じゃ!ほら!みんなボサッとしてんじゃないよ!このでっかいの、みんなで倒すよ!」
「お、おーー!!」
「フレア・・・みんな・・・」
エルデネの民たちが一つになり、棒倒しが始まった!
一万年前、”始祖”を打ち滅ぼすため七名の使徒に与えられた神器の一つ“エキゾートス”。神器は各地の魔王が代々一つずつ管理しているものだが、エキゾートスは長年使われることなくエルデネの魔王城の中央柱となっていた。エレメンタルを何倍にも増幅させる主砲だったと伝え聞くが、誰もそれが起動してるところなど見たことがない。まさに伝承そのものだ。
「オイサー!オイサー!!オイサー!!!」
エルデネ特有の掛け声で、民たちが一丸となって魔王城の柱『殲滅兵器エキゾートス』を“
「オイサー!オイサー!!オイサー!!!」
「あともうちょっとじゃ!がんばれ!!」
「オイサー!オイサー!!オイサー!!!」
ふと、メリスがDDを見た。
「あの・・・殲滅兵器の使用は公職選挙法違反にあたりませんか?」
「さすが、私の元優秀な部下だけありますね」
「もう、他に方法がないのでしょうか?」
「忘れてしまいましたか?あなたが魔管を退管する時に私がいった言葉を?」
「『目的にたどりつく為に考えつくせ』・・・です」
「はい。少し今に合わせて言い換えましょう。『目的にたどりつくまで考えつくせ』です」
「はい!」
「倒れるぞ!!!!!」
ズゥゥゥゥーン!
半壊した魔王城の瓦礫が砲台のようになり“殲滅兵器エキゾートス”がエルデネの街道を狙う。しかし、穀倉地いっぱいに広がるデスホッパー達は、横に広く展開しながらこちらに向かってきている。例えイラの残り少ないエレメンタルで運良く数発撃てたとしても、全部を駆逐することなんて到底無理に思えた。
縄が引きちぎれそうになるほど力の限り引っ張ったアンは、床に大の字で倒れていた。もうすぐ朝になる・・・。
徹夜してしまった上に丸一日動きっぱなしで眠気も疲れも限界だった。
そんなアンをのぞき込むように、声をかけてくる男がいた。
「お疲れさん!聞いたぜアンちゃん!大活躍じゃねぇか!」
「パブロさん!」
「よそもんのアンちゃんにここまでやられちゃ俺らエルデネっ子が格好つかねぇ、俺らにもちょっとは格好つけさせてくれい」
「パブロさん??」
そういうとパブロと数人の農夫たちは、トラックに乗って出ていった。
メリスがホバーバイクに乗って出ようとしている。
「メリスさん!みなさんは、どこへいくんですか?」
「アン補佐官、デスホッパーの群れを誘導して街道に集めるんです。そのため我々が、囮になるのです」
「そ、そんな!ダメですよ!イラ様が悲しみます!!」
「アン補佐官、大丈夫よ私も死ぬ気はないから。こうみえても私優秀なんですから。だから・・・お願いしましたよ、後輩」
メリスは誘導部隊とともに街道へ出ていった。
眠いとか疲れたとか言ってんじゃない!ボク!
考えろ!今ボクができることを考えろ!
バカなりに考えろ!
あ・・・
あの時バスの中で・・・
今まで感じたことのないような
ザワついた“何か”が・・・
ボクの中へ流れこんできて・・・
それが何かは分からないけど
その“なにか”をボクはいま・・・
殲滅兵器エキゾートスの底部分は、何重にも巻かれた線が中心に向かって渦を描いていた。フラクタル鉱石を高度に圧縮した『糸』だ。とても脆いフラクタル鉱石をここまで自在に圧縮することは現代の技術でも不可能だ。
まさに神器。失われた技術で製造された痕跡がうかがえた。
その中心に、イラの持つピッチフォークの柄の部分を差し込む・・・と言うことまではわかる。教科書に書いてあった程度の知識だが・・・。
「なにも反応しないな・・・ヒネってみるか?」
鍵をあけるように柄をヒネってみるイラ。
キィィィィィィィン!
高周波音が鳴り響き柱の先がさらに延びた?!
柱は、三段階に伸び各々の連結部分が回転し始めた。
「動いた!!」
イラは渦に触れてみた・・・
体内にある『エレメンタル』が急速な勢いで吸い出される!
これは“あいつ”の手に触れた時の感覚だ!
気を失う前に手を離した。
途端、砲身の先端からまるで昼間のような明るさの一本の閃光が遥か彼方先の空を爆発で真っ赤に染めた。
デスホッパーの群れにぽっかりと大きな穴があいてるのが爆発の光で見て取れる。
「たった・・・これだけのエレメンタルで・・・」
エルデネの民たちはみなこの光景を目にして希望が湧いた。
「助かる!助かるぞ!」
でも・・・
オレのエレメンタルはもう残っちゃいない『0』だ。
また・・・
顔を上げると“あいつ”がそこにいた。
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