第四話 『宣誓書にサイン』

“ボク”は・・・

もう何回この“ユメ”を見たことだろうか・・・


こいつに・・・

%€てのエレメンタルが

融合・・た時

あの日£Ⅱ・失われた日々

が・・・蘇る£▲/・・・

・・・

あとは・・その€:@を待つ

だ・・け・・・



不思議だ・・・

いつもより少しはっきりと声が・・・

きこえる。


『・・・アンおねぇちゃん!』

「ふぇ?え?!」


突然、ベッドに女の子が飛び込んできた!

目をあけると・・・

あのバスで“火苺ヒイチゴ”をくれたチカちゃんがボクに抱きついている?


「チカちゃん?!どうしてここにいるの?!」

「だってここ私の家だもん!」

「え?あの怪しい・・・いや、パブロさんがお父さんなの?!」

「あやしい?」


昨晩、エルデネで宿を取れなかったボクはヌードルの縁でパブロさんの家に泊めてもらうことになったわけだが・・・。家族がいるとは言ってたけど、パブロさんがチカちゃんのお父さんだったなんて・・・。

つくづくボクは縁に恵まれてる。


まぁ、とにかく今日が魔管・・・、補佐官初仕事なわけです!

顔を洗って気合いを入れなおすぞ!


あれ?

赤い・・・髪が赤い?

ボクの白銀の髪の毛が・・・

髪を洗ってみたが、まるで落ちない。

まったくもって記憶がない・・・。もしかしてヌードルのせいか?!


「あら染めたの?赤い髪も似合ってるわね。ほら、朝食食べていって」


チカのお母さんがひょっこり顔を出して優しく笑う。


「おねぇちゃん、似合ってるね!」

「うん・・・。ありがと、はは・・・」


とりあえず、赤い髪問題はおいておこう・・・。


事故の後、心配はしていたけど、チカちゃんとお母さんに怪我がなくて本当によかった。

今朝、パブロさんからボクの話を聞いたお母さんはとても驚いて、もちろんバスの中の出来事を聞いたパブロさんも相当驚いたみたいです。


パブロさんにも挨拶をしたいけど、どこにも姿が見当たらない。


「あのひとなら、もう朝早くから仕事に出かけたわよ。さぁ食べちゃって〜」


分厚い“トトロップの木”でできたリビングのテーブルには、質素だけど温かいお母さんの手作りの朝食が並んでいる。


ホクホクに蒸されたイモに、エルデネ特有の甘いバターをたっぷり塗って口いっぱいに頬張る。熱く蒸されたイモを頬張りすぎて何も喋れなくなってしまったボクをみてチカちゃんとお母さんが笑う。


思わず感じた団欒に

なぜか、ボクはちょっと嬉しくもさびしい気持ちになった。


外は雨。

この雨で髪の色が落ちないかな?

そんなバカなことを考えながら、“火苺”の畑をボクは駆け下りて行った。


ゴォォーン・・・

ゴォォーン・・・

ゴォォーン・・・


時計台の鐘の音がエルデネの朝を知らせている。

明方から降り出した雨が霜を溶かし、ぬかるむ石畳の中央広場。

夜はひと通りが少なかったこの通りも、今は朝市が開かれ賑わっている。

漂ってくる美味しそうな匂いに後ろ髪を引かれながら、アンは魔王城を目指した。



「こぉこが!エルデネの魔王城ぉ!!」


とは・・・


正直思えないほど古くてちょっとびっくりしました・・・。


「魔王城・・・、ほんと?ここであってますか?」


と何度も道ゆくひとに尋ねたくらい。


ふつう『魔王城』っていえばもっと豪華で雄大できらびやかで、ほら、どーん!とした感じを想像するじゃないですか!?


「7分遅刻ですよ」


ボクが、魔王城の前でひとり騒いでるところを上司の獣耳DDさんに発見されてしまいました!


「す、すいません!ご挨拶遅れました!本日より着任いたします補佐官のアン・・・です!」

「・・・では行きましょう」


襟を正してシワを伸ばし、髪を整え深呼吸。

ちょっと遅刻しましたが、今から初仕事が始まるわけです!


「入ります!」


倉庫みたいな魔王城にはメリスさん、そして・・・魔王イラ様。


「遅くなり失礼しました。本日はよろしくお願いします!」


メリスさんの冷たい視線が突き刺さる。


「補佐官が一番最後ですね!」

「ずいまぜん・・・」


ちらっとイラ様をみると、笑顔で返された。

恥ずかしい・・・、初日遅刻なんて。


DDは一瞥し


「魔王イラ様。補佐官が到着しましたので、魔王選挙の宣誓書にサインをお願い致します。アン補佐官、書類を出してください」

「あっ・・・選挙資料?!」

「どうしました?」

「すいません!昨日のバスに炎がこうドーンときて、で、その後ドーンてなって、そこから・・・その・・・すいません無くしました」


長い沈黙で気まずい。

燃えちゃったことにしちゃおっかな?


メリスさんのながーい、ため息


「昨日の“事故”で紛失したみたいですね」

「ゔぅ、ばい・・ずいまぜん」

「それは弱りましたね」

「ええ最悪ですね」


「あ、あの、ボクはどうしたらの良いでしょうか?」

「普通にクビでしょ。公務員なんだから」


そ、そんな言い方無いでしょメリスさん!

ボクたちヌードル仲間でしょ!?


「大事故だったんですよ〜燃えちゃったのかな〜はは・・・」


「失礼します!」


“炎壁守備隊”の隊員が部屋に入ってくる。


「昨晩の現場で、おそらく選挙に関係するものが発見されたのですが・・・」


目の前にしっかりと“炭”になった黒い塊が・・・。

わずかに「選挙」の文字が読み取れるが90%は消失していた。

もちろん、ボクのモバイルも黒い塊です。


「では、書類は私が再度作成いたします。どこか部屋をお借りできますか?」

「こちらご案内します」


メリスとDDは、そう言うと部屋を出て行った。


部屋にはイラ様とボク。

再び、長い沈黙

イラ様がなにかをこらえてる・・・・


「はははは、お前昨日からなんかおもしろいな」

「・・・喜んでもらえて光栄です。ゔゔ・・・」

「ごめんごめん。ちょっと時間がかかりそうだし・・・、どうだちょっと出ないか?」


「はい?」


メリスに部屋を案内されたDDは、

燃えてしまった選挙書類を鮮やかな手さばきで作っていく。

DDの元部下というだけあってメリスも慣れた手つきで選挙書類をまとめていく。二人の間に言葉は必要なく、あ・うんの呼吸で作業は進んでいく。


ガチャ、バターン、ガチャ、バターン!


そこに、廊下から騒がしいドアの開閉音が近づいてくる。


「メリス、こちらを」

「はい?」


メリスに『魔王総選挙出馬宣誓書』を渡すDD。


ガチャ!


「すいません!イラ様がお出かけになると言うので同行して・・・」

「では『魔王総選挙出馬宣誓書』に署名をもらってきてください」

「は、はい!」


DDの手は止まらない。

メリスから『魔王総選挙出馬宣誓書』をひったくるとアンは飛び出していく。


バターン!


「大丈夫なんですか?」

「サインぐらいもらってくるでしょう。彼女でも」



イラ様の後を追ってボクは魔王城の車庫へ。

中にはクワやスキやカマといった農作業の道具から、トラクターやコンバイン、脱穀用の大型機械まで、ここは魔王城というより農作業小屋だね。

ん?そこに、ひときわ大きな筒のようなものが・・・


ホバー型軽トラックの運転席に乗り込もうとしているイラ。


「イラ様、こちらにサインください」

「・・・運転しながらできないだろ?」


イラ様を助手席へと押し込み、ボクは運転席に座り宣誓書を突き出した!


「イラ様、ここにサ・イ・ンください!!運転はボクがします!」

「お、お前、運転できるのか・・・?」

「も、もちろんです!教習所には何度も何度も通いましたから!」

「え?何度も?」

「では行きます!!捕まってください!そしてサインください!」


何度も何度も落っこちて、補佐官任命式前にようやく取得した免許がここにきて役立つなんて!これは仕事してる感あります!


「わ!ぶつかる!」


車庫の城門を突き破って外に勢いよく飛び出していく軽トラ。


「もっとゆっくり走れ!飛ばすな!」

「ちょっと黙っててください!気が散るので!道はこっち?!こっちで合ってます?!そして、サイン書いてください!」

「書けるかー!!」


街道を抜け、緑の草原に飛びだし道無き道をゆく!

途中、コケーと鳴きながら飛んできた野生コカトリスの大群と併走する軽トラ。ぶつかりそうになるたびに悲鳴を上げるイラ。


「サイン書かないと目つぶって運転しますよ?」

「やめろ!書くよ!またズレた!左右に動かすな!まっすぐ走れ!」


イラは助手席でサインを書こうとするが爆走する軽トラの振動で上手く書けない。こうして・・・ようやくふたりは“コボルト”に到着した。



酪農畜産場“コボルト”は、エルデネの官民が運営する酪農を主とした農地・畜産場である。“エルデネ牛”や“ワイルドボア”、“コカトリス”など様々な家畜がここで飼育されている。そして、魔王イラはここの所長でもあった。


「ほら、書いたぞ」


ペンがズレ、ぐちゃぐちゃの宣誓書。サインの箇所に書かれた名前がまるで読めません。これじゃ、間違えなくDDさんとメリスさんに怒られる。


「こ、これじゃあ読めませんよ〜」


にやりと笑ったイラは手を振りながら牛舎の中に入っていった。

アンはぐちゃぐちゃの宣誓書をもう一度見た。


“コボルト”の牛舎には乳牛種のエルデネ牛がずらっと並んでいる。搾乳の時間を待ちわびた牛たちは、いまかいまかとモーモー鳴いている。たくさんのスタッフが搾乳器“ミルカー“を担いで牛舎を走り回ってる光景にアンは目を輝かせる!


「ここは!まさかミルク飲み放題!?」


「そんなとこに突っ立ってたら邪魔になるぞ」


“ヤッケ”を着たイラが牛の下に潜って“ミルカー”をつけている。


「魔王自らやるんですか?!」

「はぁ?魔王とか関係ないだろう、乳絞るのに」

「いや、そういう意味ではなく・・・」


搾乳作業をじっとみつめるアンの視線に気づくイラ。


「ほら、飲んでみるか?搾りたて」

「え!いいんですか!?やったー!」


搾りたてのミルクのなんとも言えない暖かさと甘さ!


「美味しいです!」

「ははは、そりゃよかった。ほらお前もやってみろ」


イラに教えてもらいながら、牛にミルカーを装着させるアン。

牛から湯気がでている気がする。ミルクもホットミルク並みに暖かい。


「すごく暖かい!」

「おかしいな?いまオレのエレメンタルはほとんど無いはずなのに?」

「エレメンタルがあるとなにか違うんですか?」

「あぁ、オレが搾乳すると熱で殺菌する必要がない。エルデネ牛は火のエレメンタルを持ってるから、触れるだけで共鳴して温度があがるんだ。炎壁で空っぽになったと思ったのに、1日たって回復してるのかな?」

「やっぱり、魔王ってすごいですね!」

「ははは、なに言ってんだおまえは、ほんとおかしいやつだな」

「ところで、ずっと牛の股の間からこちらを見てるあちらのお婆さんは?」


牛の股の間に隠れるように背の低いお婆さんがこちらを見ている。


「イラ様!そのような方がいらっしゃるのであれば、なぜこのフレアに一言いってくださらんのじゃ!フレアは悲しいですじゃ!さぁこのフレアにお嫁様を紹介してくださいまし!」

「違う!勘違いするな!こいつは城からついてきただけだ!」


フレア婆さんは、イラ様の乳母だった方でいまはコボルトでイラ様の代わりに運営を手伝ってるらしい。とんでもない勢いで勘違いしてるようでしたが、こんなやりとりを見てると魔王もふつうの優しいひとなんだなと思いました・・・。


っと、全ては一旦忘れて!昼ごはんです!サインをもらうはずだったのですが一旦それも忘れて!お昼ごはんです!ここで食べ溜しておかないとボクお金がないのです!はい!無一文です!搾乳したり牛に餌やったり掃除したりなぜか魔管のボクが、いや補佐官のボクがしっかりと労働したのですからご飯だけはしっかりと!しっかりと!食べるのです!


イラは、アンの食べっぷりにみいってる。解釈一つだが呆気にとられてるともみれる。スタッフも面白がって次から次に食べさせている。笑い声の絶えないお昼ご飯となった。


「ほら、いくぞ」


お腹がパンパンで草原の牛をぼーっと眺めてるボクに声をかけるイラ様

軽トラへ乗って街へ戻ることになった。帰りはもちろん・・・。

運転させてもらえませんでした!!



街のはずれにある施設。軽トラで運んだ大きな鍋に入ったミルクスープとパンを配るイラ。たくさんの人が集まってくる。


「これは?」

「こ、これは、作りすぎて余ったから食べてもらってんだよ」


みんなそれぞれにお礼を言っておいしそうに食べている。


「ふふ、魔王らしいですね!これは!」

「魔王にどんなイメージもってんだ!」


アンもイラを手伝い、夕方までかかって配り切った。

そして魔王城に戻る二人。



「あ、そうだ。イラ様サインください」


よく見るとデタラメのサインでグチャグチャだった部分が修正テープで修復されている。今日の作業の合間にやったのだろうか。イラは黙って受け取り書き込んでから書類を二つにおってアンに渡す。


「ほらよ。今日はつきあわせて悪かったな」

「いえ!ご馳走さまでした!では!」


アンはそのまま走ってDDの元へ急いだ。


「はは、やっぱおもしろいやつだな」


メリスとDDが作業している部屋をあけると、もう誰もいなかった。

机の上には、山積みの資料とアンの“IDカード”とDDからのメモ。

『今夜中に選挙資料の準備と資料整理』

もう一枚メモが・・・。

『ここに泊まれば遅刻はしなくて済みます。 メリス』

メモを引きちぎるアン。


「だーお風呂はどうすればいいってのよ!牛の世話したんだよボク!」


怒ってもしかたない・・・と思い魔王城のシャワー室をさがそうと廊下にでるアン。イラからもらった宣誓書を部屋に置いてくるのを忘れたと思いふとサインをみる・・・。



『魔王選挙は辞退します。イラ』

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