第43話 先生、誤解なんです!5

 花壇に着くとすぐさま制服を脱いで、着ていた体操服で作業を始める。

 昨日で耕しは終わっていたけど、一日経って若干達が固くなっていた。

 昨晩は小雨が降っていたからそのせいだろう。

 スコップを持って昨日と同様に土を耕す。

 それが終わると、今度はいよいよメインである花の植え替えだ。

 気合を入れてから、花に手を伸ばそうとしたその時、妙な視線を感じた。

 辺りを見渡すが、誰もいない。

 気のせいかと思いたいが、やはり視線を感じるし、微かに土を擦るような音が聞こえる。

 おそらく俺の後方にある渡り廊下の陰。

 俺はすぐさま振り向くと、人影のようなものがすぐさま校舎の中へ消えていった。


「な、なんだったんだ?」


 もしかしたら、不良で噂の俺がよからぬことをしてるなどと噂が広がっているのか。

 それで、怖いもの見たさで、野次馬が覗きに来たとか。

 ……十分あり得そうだな。


「なんだ。まだやってんのか」

「え? 九十九?」


 まだ部活時間のはずの九十九が、なぜこんなところにいるのか。


「どうしたんだよ。部活はどうした?ー

「休憩時間だよ。それにお前こそなんでまだここにいんだよ。今日は花を植え替えるだけだって話だったはずだろ」


 手付かずの花達に冷ややかな視線を送られ、笑って誤魔化す。


「思ったよりも手こずっちゃって」

「おい、本当のこと話せ。でないと風無に有ることないこと吹き込むぞ」


 見えすいた嘘なんて通じず、さらにはジョーカーを使われてしまえば、答えなければならない。


「ちょっと、頼まれごとを……」

「あ? まさか西尾の野郎! 他にも雑務押し付けたのか!?」

「ち、違うって! 丹波先生! 急ぎの用事があるからって」

「丹波?」


 九十九は不機嫌そうな顔を浮かべる。


「それ、いつ頼まれた」

「い、いつって、ここに向かう途中にだよ」

「チッ、あいつ」


 俺の答えにさらに不機嫌になる九十九。


「ど、どうしたんだ?」

「あいつ、少し前に丹波と女子が話してるところを見たんだよ。んで、チラッと聞こえたんだが、どうやら今日、カラオケに行く予定みたいだったぞ」

「そ、それがどうした?」


 あえてわからないていで話すと、九十九は怒鳴った。


「急な用事ってのは嘘なんだよ! お前に仕事押し付けて、あいつは遊びに行ったんだよ!」

「で、でもさ。約束はしてたんだから、ある意味用事ではあるんじゃ」

「お前、本気で言ってんのか? 仲良くすんのは別に構わないぞ。けどな、実習生とはいえ、女子生徒とプライベートな関係で積極的に会うのは俺はどうかと思うぜ」


 たしかにその通りなんだけど。


「でも、丹波先生は真面目で評判の人だしさ。それに、丹波先生達が一緒に行ったところを見たわけじゃないんだからさ。決めつけはよくないって」

「そうだけどよ」

「それよりも、時間はいいのか?」

「え? ……あ、やべ! もう戻るけど、ちゃっちゃとやって帰れよ!」


 九十九が去った後、俺は作業に戻り、花壇に花を植えていく。

 数十分後、綺麗に植えた花達を眺めながら、達成感を味わっていた。

 一人でよくここまでやった自分を心から褒めたい。

 よくやった、俺。

 最後にジョウロで水を満遍なく与えてやれば、頼まれごとは完了。


「終わったー……」


 その場で腰を下ろし、花壇を見つめる。

 普段は注意深く花なんて観察はしないんだけど、こうしてみると、同じ花でも違う顔をしてるんだな。

 じっと観察していると、ふとスマホの時間を確認する。

 いつのまにか三十分ぐらい花を見つめていたようだ。


「もう帰らないと」


 制服を着直し、鞄を持って花壇に背を向けて歩き始める。

 が、すぐに俺は足を止めて花壇へ振り向く。


「……植えた花って、誰が世話をするんだろう」


 普通に考えれば、美化委員会なんだけど……本当に世話をしてくれるのか?

 美化委員会が忙しいから俺がやっているわけだ。

 つまり、美化委員会はこの問題をずっと後回しにしていたとも言える。

 そんな人達がちゃんと引き継いでくれるのだろうか。


「いや、俺はちゃんと言われた通りにしたんだから、ちゃんと引き継いでくれるはずだ」


 俺は再び歩き出す。

 今度は一度も振り返ることもなく。

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