第24話 風無さん、落ち着いて3

「ここ?」

「ええ、そうです」


 目の前には白を基調としたおしゃれなカフェ。

 中にいるお客は八割以上が女性で、残りの男性達は少し居心地が悪そうに見える。

 しかも半数はどこかの制服を着た学生達。

 俺一人だけだったら間違いなく回れ右して帰ってたところだ。

 しかし女子の風無さんがいるとはいえ、それでも入るのは億劫になる。

 いや、弱気になったらだめだ! これもタピオカミル──風無さんの要望を叶えるためにも!


「よし! 入ろう、風無さん」

「え、ええ。そうしましょうか」


 気合を入れた俺に少し驚きをみせるも、風無さんも一緒に入店する。

 少し前に流行ってはいたけど、今でもまだタピオカミルクのブームは過ぎ去っていないのか、それともオープンして間もないからか、人が多い。

 レジには注文するために列ができている。


「人がいっぱいだね」

「そうですね。では早速並びましょうか」


 他のお客に倣って列に並ぶことに。

 ……なんでだろうか。不思議と俺達の前後に空間が設けられてる。

 しかも並んでいる女性客達の視線が突き刺さる。

 ただ並んでるだけなのに。


「……よければ私が並んでおきますので、嵐君は席を探してもらえますか?」

「うん……そうするよ」


 いたたまれなくなったのか、風無さんが気遣ってくれるので、お言葉に甘えて席を探すことに。

 広い店ではあるけれど、中々空いてる席が見つからない。

 ならすぐに空きそうな席を探すか。

 おっ、あそこのグループは全員飲み終わってるし、もしかしたらすぐにいなくなるかな?

 他の人にとられないように、見張っておかないと。


「でさー──ヒッ!」


 一人の女子高生が俺の存在に気が付くと、他の女子もつられて俺の方に顔を向けると、同様に悲鳴を上げる。

 ガタガタ震え始めると、慌ててゴミを片づけ、脱兎のごとく席から離れていった。

 その姿を目撃した俺は静かに天を仰ぎ、涙を流した。


「嵐君。タピオカミルクを買ってきましたが、何かあったんですか?」

「ううん。何にもなかった」

「そうですか。あら、ちょうどあそこが空いてますね」


 そう言って先ほどの女子高生達が座っていたテーブルに荷物を置く風無さん。

 俺も後に続いて席に着く。


「はい、お金」

「たしかに受け取りました」


 お金と引き換えにタピオカミルクを受け取った俺は、心の傷を癒すためにすぐに味わう。

 ミルクティーの甘さと、タピオカのモチモチ食感が心の傷を優しく慰めてくれる。

 タピオカミルクを味わっている俺。

 一方、風無さんはタピオカミルクをじっくりと観察していた。


「飲まないの?」

「飲むんですが、こうしてみると聞いた話通りだと思いまして」

「聞いた話?」


 聞きながらストローで啜っていると、俺の目を見ながら答える。


「カエルの卵みたいですね」

「その話飲み終わってからにしよっか」


 カエルの卵と言われ、飲み続けるのを躊躇ったけど、もう一度啜り始める。

 大丈夫、これはカエルの卵なんかじゃなくて、ただのタピオカだ。

 風無さんは自分で発言してしまったからか、またジッとタピオカミルクとにらめっこをして、口にしようとしない。

 俺は気にせずタピオカミルクを味わいながら店の中を見渡す。

 改めて見ても、やはり女性が多く、男性達は浮いているように見えた。

 しかし、それでもタピオカミルクを飲みたいのだろう。

 それは俺も同意見。

 ここのタピオカミルクは中々美味しいし。

 そんなことを考えていると、男性客に不自然さを感じた。

 こちらをチラチラと盗み見ているような。

 観察していると、俺の視線に気がつき、すぐさま顔を背ける。

 別に睨んだわけじゃないんだけど、一体何が━━


「ぶふっ!?」


 顔を前に向けた時だ。

 目の前でタピオカミルクを飲む風無さん。

 だけど、飲み方がおかしい。

 なんで胸に乗っけて飲んでるの!?


「風無さん!? 何してるの!?」

「タピオカミルクを飲んでるだけですけど」


 いつものように真顔で答える風無さん。

 さっきから注がる男性の視線の原因はこれか。

 たしかにこれは目を奪われるだろうけど。


「は、はしたないよ」

「このような飲み方をすると男性が喜ぶと聞いたのですが」

「う、嬉しくない……わけでは、ないけど」


 つい視線がタピオカミルクを乗せた胸にいってしまう。

 かなりスタイルがいいとは前々から思っていたけど、まさかそこまでとは思っていなかった。


「胸が大きすぎると肩が凝りますし、下品に思われると思って、あまり良い思いはしてませんでしたが、嵐君が喜んでくれるのなら悪くはありませんね」

「と、とと、とにかく! そんな飲み方したら溢れるからさ」

「たしかに、少し不安定ですね」


 風無さんは胸に置いたカップを両手で持ち、普通に飲み始める。

 時折、風無さんのタピオカチャレンジの光景が浮かび、視線が胸へと行きそうになるのを必死にこらえ、タピオカミルクを啜って誤魔化した。


「あっれー? 風紀の女帝って呼ばれるほどお堅いあの風無が、寄り道ですかー? いっけないんだー」


 唐突に風無さんを名指しする声がし、そちらに視線を向ける。

 俺達が座る席のすぐ隣で立ち止まっている三人組の女子高生。

 俺達と同じ紅葉高校の生徒ではあるが、全員が胸元を開け、着崩した格好をしている。

 おそらく先ほど話しかけたであろう女子生徒が、率先して前へと出た。

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