第35話『VSジュナ2』


雷は大量の弾丸に襲われていた。今回の奴は指定した場所へと移動できる機体らしく、前回のアレより更に機動力を増していた。やはりと言うか、雷は銃弾をよけるだけで精一杯であった。一応防御自体は出来なくはないのであるが……それでもスーツが剥がれていくのは確かであった。


「ほらほらどうしたの!?」


「畜生!何だこの弾量!?」


避けているが撃たれてもいる。スーツに弾丸が当たり、たまに腹に命中していた。貫通していないだけマシと考えていたが、それでも痛い物は痛い。憐は一応外野から見ている故に、まだ何とか指示を出せるくらいには答えを出せていた。


『落ち着いて防御すれば問題ないはずだ!……しかし本当に厄介だなこれは……!』


雷がそれに答える間もなく、ジュナはある物を取り出す。それを見た雷は流石にヤバいと判断した。それもそうだろう。何が問題かと言うと、それはいわゆるロケットランチャーと呼ばれるものであった。しかも周りを見回すと、全部で十丁のランチャーがあった。


「ロケットランチャー!」


「おいそれは駄目だろ!」


大量に撃ちこまれたランチャーを、雷は弾いたり避けたりしながら何とか逃げていた。ランチャーを持っていたジュナだが、ここである物を取り出す。それはいわゆるプラズマライフルと呼ばれるものであった。電子ゲージを使って放つアレである。


「プラズマライフルもね!」


「いらねぇよ!」


今度は弾丸ではなく電気での攻撃である。既に何発かは当たっているモノの、一応まだ問題ないと判断し、逆にジュナの方へと向かう。とここで雷はある事に気が付く。地面の一部分が若干膨らんでいると言う事に。しかし足を止めることが出来ずにそのままそれを踏んずけてしまう。


「じら……!」


頭で理解しても、体が動くには時間がいる。踏んずけた物は地雷。派手に爆発した雷であったが、何とか足パーツを犠牲に逃げる事が出来た。とは言え相変わらず銃弾がこちらを狙ってくるし、足パーツを失ったことで若干だが機動力が無くなってしまう。これは不味い状況と言えるだろう。


『あーっと!モロに地雷を喰らってしまった!これは痛い!』


『ですがまだ問題ないようですね。それにしてもあの猛攻をどうする気なのでしょうか……』


とここで雷はある考えを思いつく。しかしそれはまた機体をぶっ壊してしまうことになる。流石にこれは憐に確認を取ってからやろうと思い、そしてジュナの方に走りつつ、憐に連絡をする。


「憐!……ちょっと機体ぶっ壊れるかもしれねぇがいいか?」


それを聞いた時、憐は少しだけ躊躇するように頭を抱えるが、それでも勝つためであれば一切容赦なく使ってもらうのが機体を作った男のサガ。一応やってほしくないがやっていいと言うのであった。


『構わん!……やれ!』


それを聞いた瞬間、ぶっ壊れた足を掴んでそのまま腕のパーツを盾にジュナのいる方へと尽き進む。若干空中に浮いているので地雷が爆発することは無い。


「シャオラぁ!」


「成程、機体を壁にこちらに迫ってくるとは……!考えたね!」


「地雷も浮いてちゃ意味ねぇだろうが!このまま突っ込むぞ!」


そして雷は腕ごとジュナの体に突っ込む。壁に叩きつけられるジュナであるが、その顔にはまだ余裕があるようであった。


「うぐぅ……!」


一発攻撃を当てたと言う事に盛り上がる観客達。ようやく攻撃を当てられたことにそこそこ喜ぶ憐。ナレーター達もこれにはハイテンションである。


『雷選手がイッパツ当てました!アレはかなり痛いですよ!』


壁を背にしているジュナ。しかしその手には既にマガジンを入れた拳銃を手にしていた。普通であればまぁ難しい狙撃になるだろう。だがジュナであればやってのけるだろうと信じていた。


「流石だね雷……!でもまだこっちには銃がある事をお忘れなく!」


「知ってる……さ!」


雷は咄嗟に自分の腕パーツを蹴り、その銃弾を避ける。空中に飛んでいった弾丸。そして何とか着地するが、明らかに悪手であると判断してしまった。


『あの距離で外した!?』


『いいえ、かなり無茶苦茶な体制で避けたのでしょう。……よく避けましたね……』


良く避けたというが、ハッキリ言って男のナレーターの方はこの行為をヤバいと思っていいた。まぁ流石にそれを口に出すことは無かったが。


「よく避けたね!」


「どの口が……!」


と言っていると雷に向けてジュナは、背中に背負ったショットガンを腹目掛けて放つ。ここまで近ければ避けられない。そして腕も先程使ってしまったのでもうどうしようもない。


「はいショットガン!」


「止めうっげ!」


腹に叩き込まれる散弾。その全てを食らい、吐きそうになるが、それでも立ち上がる。正直言って大分勝ち目は薄いだろう。明らかに戦力……と言うか相性最悪な状態であるから。ド近距離戦特化型と、遠近両用スーツである、どっちが強いのかは言うまでもないだろう。


『今度はモロに直撃です!』


『明らかに腹に当たってましたね……ですがまだやるようです』


腹を抑えながら何とか体を動かし弾丸を更に避けていく。明らかに先程よりも雷の機動力が落ちている。雷はごもっともな疑問を述べていた。それは一言で言うのであれば、何故皆腹を狙ってくるのだということであった。


「クッソ何でどいつもこいつも腹を狙ってくるんだよ……!」


『そりゃなぁ……まぁ明らかに弱点だし……』


設計者である憐も治せるなら治したい場所である。しかし腹パーツを付けると重量的にアウト判定食らうのでダメなのである。何度か材料を投げた憐。正直何回かブチ切れたこともある。


「知ってるなら治せないもんですかねぇ!?」


『無理だな』


「……」


もう諦めるしかないのかと思う雷。憐は諦めていた。そんな二人に話しかけるジュナ。


「さぁどうするの?」


先程まで壁に叩きつけていたのは雷の方であるが、今度は逆にこちらが壁に叩き付けられそうになっていた。腹を抑え何とか体勢を整える雷。とここで隠し玉を放つ。


「正直めっちゃ腹痛ぇよ……!しかしこちらにも策ってもんがあるんだよ!喰らえ!」


「うわっロケットパンチ!」


それは腕を遠隔で飛ばすロケットパンチであった。自分の腕を取り戻すと共に、攻撃も兼ねるのである。憐曰くこれは凄い技術を使っているとかなんとか。本物のロケットに使われるタイプのセンサーやら計器やらを使っているらしい。詳しいことを聞くと頭が痛くなるので気にしない事にした。流石に質量の塊である腕に当たる訳にはいかないのか、その腕を避ける。


『流石にこれは引くか!雷選手何とか状況を立て直しました!』


『ですが以前有利なのはジュナ選手ですからね……ここからどうするのでしょうか』


一旦引く形になった二人。とここで不意にジュナが雷に話しかけるのであった。後雷も、彼女に言いたいことがあるようであった。


「流石に強いね雷!」


「まぁな。……一つ聞いていいか?」


「何?」


それはおぼろげな記憶。スラム出身の頃の記憶は正直ほとんど思い出せない。でもスラムを出てからの記憶は全部覚えている。だからこそ、雷は恐らく覚えていないという事はスラムに関することなのだろうと考えていた。


「……前に会ったことあるよな?正直記憶はねぇんだけどさ」


「うん。昔出会ったよ私たち」


ジュナもそれを聞いて、遂に話し出す。しかし重要な部分が思い出せない。もはや記憶が欠如しているのではと思う程思い出せない。最近の物は思い出せる、しかし他は思い出せない。記憶処理でも受けたのかな?と思うほどには思い出せないのだ。


「そうだよな……でも思い出せねぇんだよ……正直。まぁもうちょい戦えば何とかなるか!」


しかしその辺は脳金志向の雷、結局のところは殴り合えば分かるだろうと判断した。ジュナ自身も同じ、結局殴り倒せば思い出してくれるだろうと判断したのである。


「そうだね!さぁこいつを避けてみなよ!」


と言ってジュナが取り出したのは再び電撃が走る銃、しかし先程のような電撃自体を放つものではない。どちらかと言えば、出るのは電撃ではなく……


『アレは……!?』


『レールガンですね。しかし何丁あるのでしょうか……?』


鉄である。ごく小さい鉄の塊を放つ物。通称『電撃型鉄改銃レールガン』、と言われるものであった。凄まじい火力、弾丸を選ばぬ精密精……それと引き換えに充電しなくてはならないという決定的な欠点がある。しかし、それが少なくとも十丁以上あるのだ。


「……さぁ、ショウタイムと行こうか!」


雷は流石に覚悟を決めていた。ここで負けるかもしれないと判断した。だがそれでも、この一戦、間違いなく重要な戦いになると考えていたのだった。


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