ラッキースケベな男の話(後編)
ラッキースケベな男の話(後編)
朝食として特大おにぎりを食べ終えて、食後にお茶を出す。
60度という適度な熱さにして入れた緑茶をすすると、口の中の塩辛さが緑茶の甘味と苦みでリフレッシュされ、お腹が満たされる。
同じように緑茶に口を付けた化さんだが……彼女は俺が出したお茶を飲んで何故か驚き、緑茶と俺を二度ほど確認していた。
「え、え? あの、これを……真樹さんが淹れたのですか?」
「ああ、少し適当だったけどな」
「そ、そんなことありませんよ!? だって温度も絶妙ですし、お茶の味もしっかりと出ています! 素人が淹れたなんて信じられません……」
俺の言葉に反論するように彼女は一気にそう言うけれど、俺にとっては適当だ。
ただ単に祖父が選んだ者達によって、ちゃんとしたお茶の淹れ方を叩きこまれただけだ。……叩き込まれたのはお茶の淹れ方だけではないけれど、言う必要はない。
「まあ、お茶が淹れるのが上手いってだけで良いだろ? さてと、それじゃあ……洗濯物を洗おうと思うから、ついてきてくれるか?」
「は、はい」
椅子から立ち上がると化さんも立ち上がり、昨日から放置していた着替えカバンを手に取って戻ってくる。
ちなみに子猫は……ご飯を食べ終えて、靴を脱ぐ場所に置いておいた広げておいたレジ袋(有料化になる前に貯め込んでいた物の中に丸めたトイレットペーパー入り)の上で便所をしていた。
昨日トイレを此処でするようにと言っただけだというのに、こいつ……普通にしているだと? ……やばい、この子猫、超頭良い。可愛いうえに超頭良い!!
「ミャア~~…………」
「あの? 真樹、さん?」
「あ、ああ、悪い。それじゃあこっちも洗濯物を持ってくる! ……って、あの、化さんに恥ずかしい質問するけど、俺が下着を俺のと一緒に洗っても……大丈夫なのか?」
ブルリと体を震わせる子猫を愛でていると困った様子で化さんが声をかけてきたので、ハッと正気に戻る。
いかんいかん、やはり猫というものは可愛いからつい見てしまう。あと犬もカッコいいし可愛い。――じゃなくて、洗濯物を取りに行かないと。
そう思って脱衣所に向かおうとするのだが、はたと気づく。
洗濯物を入れた籠の中には、彼女の下着が入っているということに。
いわゆるドラマで見る『お父さんの下着と一緒に洗わないで!』とかいうレベルの物だと思うのだが、彼女はどうなのだろうか? というか、聞かずにするべきだったか?
「? 別に構いませんよ? でも、一つ問題があります……」
俺の言っていることが、わかっていない。そんな風に首を傾げた化さんだが、すぐに恥ずかしそうに頬を染めてモジモジとし始める。
問題、それはどんな問題だろうか?
「問題? いったいどんな……」
「その、ですね……。わたし、今まで家のことは任せきりだったので、洗濯の仕方が分かりません……。その、マンションに行く際にお父様には出来るって胸を張って言ったのですが、やはり少しばかり不安で」
「そ、そうか……。それじゃあ、やり方を教えるから覚えてくれたら……助かる」
予想以上の箱入りっぷりだったと思いながら、少しでも覚えてくれたら良いと願いつつ俺は彼女に言う。
だが、結論から言うと……その後も彼女は俺に洗濯を任せきりで、下着を洗われ干されるときだけ恥ずかしそうに顔を赤くするようになったとだけは言っておく。
あと彼女の中では脱いだ後の下着は下着、穿いてるのを見られるのは恥ずかしい。という基準があるらしい。
●
カンカンカン、と吹きさらしの階段を下りていき一階へと降りる。
赤さびが目立つ手摺りと鉄板の階段は年季が入っているのだが、俺が乗っても抜けないので見た目以上に耐久性はあると何時もながら思う。……いや、本当に抜けたら抜けたで怖いんだけどさ。
「昨日は暗かったのでよく見えなかったのですが、敷地は広いのですね」
「ああ、何故か分からないけど、道路とアパートの間に空き地のように開いてるんだよなぁ。もしかしたら大家の婆さんが何かしようとした名残じゃないか?」
化さんの言葉に返事を返しながら、俺は周囲を見る。
アパートと車が一台走っただけで埋まってしまう一車線の道路との間にコンクリートなどで舗装されていない膣がむき出しの空き地のようになった土地があり、アパートを囲むように建てられた民家との間にはブロックを積んで作られた塀が設置されていた。
典型的な昔ながらのボロアパートといった感じのものだ。
「っと、考え事をしてる場合じゃないな。化さん、こっちだ」
「は、はいっ」
「ミャア!」
俺の言葉に彼女は返事を返し、子猫も続いて鳴く。
……あれ、そういえばここって子猫というかペット大丈夫だったか?
あとで詳しく聞くために大家の婆さんにお伺いを立てることにしよう。
というか、俺の部屋に化さんを住まわせるのなら、本当に頭を下げないと色んな意味で不味いかも知れない。
そんなことを考えながら、俺達はアパート1階の隅へ向かう。
1階の隅には洗濯スペースとして、コンクリート張りの床の上に型落ちした洗濯機が2台ほど置かれている。一応、洗濯ネットも気休め程度に引っ掛けられているのは女性を考慮してだろう。
この洗濯機はアパートの住人が共用で使用するために設置されている物である。
実はこのアパートには、どの部屋にも洗濯機は置かれてはいない。
小さいながらも風呂やトイレなどの水道は通っているというのに、洗濯だけは別というのも家賃が安い理由の一つだろう。
「さてと、それじゃあ洗濯をしようか。とりあえず誰か使っているか? ……よかった。両方とも使用されていないみたいだな。じゃあ、服の色移りが怖いし制服だけは別に洗濯して……いや、白物と服を分けるべきか?」
どうやって洗濯を行おうかと考えながら、俺は自分が持っていたカゴを置かれている移動台の上へと置いてから洗濯物を分けて洗濯機の中へと入れていく。
平日は学校が合って洗濯機は動かせない為、休日に一気にやってしまうんだよなぁ……。しかも夜に回そうとすると他の部屋の人が文句を言ってくる時があるから仕方ない。
そう思いながら自分の着ていた物を洗濯機の中に放り込みつつ、中に混ざっている化さんの下着を洗濯ネットへと入れる。
自分の穿いているトランクスやボクサーブリーフといった感触とは違った、サラサラとした肌触りが指に感じられる。……無だ。無心になってネットの中に入れるのだ。
「――っと、化さん。そのカバンの中の洗濯する物もカゴに出してくれるか?」
「は、はい、わかりました」
彼女は洗濯物を分けて入れていく様子が珍しいのか見ていたようであったが、俺の言葉に反応してカバンのジッパーを開けて中の物をカゴへと出していく。
純白の制服、純白の制服、白いストッキング、それと何かのヒモ? そして白いパンツ、白いブラジャー。どちらも刺繍っぽいのが見え……っ、あ、あまり見ないようにしよう! 彼女自身は気にしていないようだけど、あまり見続けていると俺が変態にしか見えない。
というか自分自身が変態だって思ってしまいそうになる!!
「――あ、猫ちゃん駄目ですよー」
「ミャア? ミャア!」
「あ、猫ちゃんっ!」
そう思いながら洗濯機の前へと立ち、目を閉じたまま待っていると子猫が何かをしたようで、窘める化さんの声がしたがすぐに慌てる声が聞こえた。同時に俺の腕に上るような感触がし始める。
これって、子猫が俺の腕を上っているのか? けど、いったいどうしたんだ? 不思議に思いながらうっすらと目を開けると……俺の腕を上り終えたのか、両手を広げて顔に張り付こうとする子猫の姿が見えた。
「うわっ!? ど、どうしたんだっ!?」
突然の子猫の行動に驚き、首を動かして避けようかと一瞬考えたが、子猫だから避けて地面に落ちたら危ないかも知れないと思い、止む無く子猫の体が顔に張り付くのを受け止めることにした。
子猫特有の温かさと同時に、動物特有の獣臭さと何日も髪を洗っていないようなにおいが鼻を突く。……うん、本当に子猫を洗おう。嫌がっても洗わせてもらうからな。だがせめてもの情けとして子猫用のシャンプーを買ってそれを使ってやるからな! あとちゃんとした餌も買わないと!!(猫バカ)
けれどそんな子猫のにおいだけではなく、何というか……こう、独特ながらも不可思議な……高級そうな洗剤と何か別のにおいが混ざったようなにおいがした。
「んん?? お前、何か持ってたのか? ああくそ、ちょっと取れない! こら、暴れるな!」
「ミャア、ミャア! ミャーーッ」
「痛っ、痛い痛い! 爪立てるなって、普通に痛いから!!」
放してなるものか、そんな風に鳴く子猫を引っ張ろうとすると子猫は爪を立てて俺の顔から離れない。
「ね、猫ちゃん。落ち着いて、落ち着いてくださいっ。真樹さんも大丈夫ですか!?」
どんな表情をしているかは分からないけれど、焦ったような化さんの声が聞こえる。
叩くなんて対処法は無理なため、どうにか離さないといけない。というか、両手を使えるようにして……顔についてる物を口で咥えて、よし大丈夫だ。
両手はこれで使える。それじゃあ、離す方法として……こしょがしてみたらどうだろうか。
……試してみよう。無理だったら、気が済むまでへばりつかせて、しばらくはそのままということで。
そう思いながら、俺は顔にへばりつく子猫の両脇へと手を伸ばして……優しくくすぐり始めた。
「フミャっ、フミャ……フミャア~」
「よし、いまふぁ!」
突然のことでか子猫が驚きでビクッと体を震わせたが、新しい快感からか徐々に力が抜け始めるのを頬に引っかかる爪の力が弱くなっていくので感じた。
そして最高に力が抜けた瞬間、くすぐっていた両手を使って子猫の両脇を挟んでグッと引き剥がした。
「まったふ、おみゃえはいったい、らにがしたかったんら? あひゃまがぃいのか、ちょっとにゃやみたくなるぞー?」
「フミャア~~」
「ま、真樹さんすみません……。猫ちゃんを止めることが出来、なく……て……」
引き剥がされた子猫はくすぐりが心地よかったのか恍惚としながら、間延びした鳴き声を上げていた。
そして俺へと、化さんが申し訳なさそうに謝り近づいてくるのだが……その歩みは突然固まってしまった。
どうしたのかと思いながら、俺は口をもごもご動かすと彼女の顔はますます赤くなった。
? どうしたんだ? 不思議に思いながら子猫を片手で抱くと、こいつが持ち出して、いま俺が口に咥えている物を……空いた手で取った。
「……え? は、パ、パパ……っ?」
それは紛れもなく、パンツだった。女性ものの……つまりは、化さんのパン――
「っ! っっ!!」
「ぶ――――ご、ふっ!?」
自分が咥えていた物が彼女の下着であることに気づいた瞬間、真っ赤になった彼女の顔が眼前にあり――穿つような衝撃が腹部を襲った。
いったい、なにが? ちょっとやそっとの攻撃では効果がないはずの俺の腹に起きた衝撃と痛みに俺は倒れてしまう。
そんな倒れた俺から、顔を赤くし、息荒い化さんが……咥えていたパンツを回収して……ようやく自分が起こした行動に気が付いたのか、顔を青ざめさせていた。
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