下着姿の少女を家に連れ込む男の話
下着姿の少女を家に連れ込む男の話
茫然自失、そんな四字熟語が浮かぶほどに公園の隅っこに植えられた低木を挟んだ場所で下着姿の少女は固まっていた。
暗くても分かる黒く綺麗な髪、表情を失っていても美しいと思ってしまう顔立ち、気品を感じさせるような風格を兼ね備えているように見える少女。
そして顔から下へと視線を上品さを兼ね備えた白い下着とガーターベルトとかいう感じのソックス(?)という……外では不釣り合いすぎる服装。
そんな少女が俺がたまに会えた時にご飯を少しだけあげていた子猫を抱いていた。
「ミャア、ミャア」
「――――っ! わ、わりぃ!!」
子猫の鳴き声にハッとして、俺は少女から視線を逸らして顔を背ける。
いつまでも女性の下着姿を見ているなんて、警察に通報されてもおかしくない行為だからだ。……というか、何でこの子、下着姿でこんな場所に??
まさか露出狂? それとも誰かに襲われて? それとも何処かから逃げて……?
そんな様々な憶測が頭の中を駆け巡り、戸惑っていると、少女は元々の叫ぶような性格ではないのか黙っているようだった。
けれど、何かリアクションを取ってほしいと思いながらジッとしていると、全く返事はない。動いている気配さえ……ない。
もしかして気絶でもしているのではないのだろうかと思いつつ、声をかけることにした。
「その……、だ、大丈夫か? 黙ってると、分からないから……出来れば返事をしてくれると助かるんだが」
「っ! は、はい……。その、ちょっと、待っててください。き、着替えますから」
俺の言葉に反応したのか戸惑ったような声を上げ、少ししてから衣擦れの音が聞こえた。
どうやら、着替えを行っているのだろう……。
そう思いながら待っていると、声がかけられた。
「も、もう良いです」
どこか緊張したような声を聞きながら振り返ると、低木を挟んで服を着た少女は俺を警戒するように立っていた。
……どう見ても、彼女が着ているのはうちの学校の女子制服だった。ただし、ジュースを浴びたのか、お腹の辺りが汚れていて白い制服の汚れが目立っていた。
そんな制服の汚れを見ながら、少しずつ上へと視線を向けると……少女は訝しむように俺を見ていた。正直、警戒している表情でも美人は普通に絵になると思う。
あれ? でも、この子の顔……どこかで見たような。
「あの……」
「あ、ああ、悪い」
彼女の声にハッとし振り返り、謝ると居住まいを正す。
一応、何でこんな外であんな格好をしていたのかを聞かないといけない。
どう見ても、彼女の佇まいから痴女といった変な性癖の持ち主とかいうわけじゃあなさそうだし……。
そう思いながら、俺は目の前の少女へとこんな場所に居る事情を尋ねた。
●
うん、まあ、どうしてこうなった?
結論を端的にいうとすればその言葉が浮かんだ。
「お、おじゃまします……」
「ミャア」
「静かにね」
おっかなびっくりといった様子で、少女……化さんは俺の後に続くように入り口から家の中へと入っていく。
その際、彼女に抱かれた子猫が鳴き声を上げたが、彼女がそう言うと鳴き声を上げずにジッとし始めた。……化さんが動物に好かれているのか、それとも子猫の頭が良いのかどちらだろう。
「っと、とりあえず楽にしていてくれて良いから」
「は、はい……っ」
汚れた畳が敷かれた居間に案内し、最近干すことが出来なかったから少し埃っぽい座布団を敷いて化さんに言うと、彼女は緊張しているのかちょっと声高めに返事を返す。
それでも逆らったらいけないとでも言うように、俺の敷いた座布団へと正座してから子猫を膝の上へと乗せる。
何というか掃き溜めに鶴とはこういうのを言うんじゃないかと思ってしまいながら、俺は化さんを見ていたが――ハッとして風呂場へと向かおうとする。
「とりあえず、風呂を沸かすから……入るといい」
「えっ、そこまでしなくても……」
「いいから」
「は、はい……」
有無を言わせずに俺がそう言うと、怯えたように縮こまり彼女は黙った。
失敗した。その様子を見ながら俺は黙り、風呂場へと向かった。
浴室洗剤を湯船にかけ、スポンジで軽くこすって昨夜の水垢を洗い落として、シャワーで洗っていく。
それを終え、泡を流し終えてからお湯と水の蛇口を回して湯船に水を溜め始める。
「……はぁ~、本当、信じられねぇよな」
溜まっていくお湯を見ながら、俺は溜息を吐きつつ先ほど彼女から聞いた話を思い出す。
どこか怯えながら、いや……絶対に俺に怯えつつ話してたよな。
というか、化家っていうとこの県で有名な会社を経営している家だったよな? それがダメになった? でもって、何とか誤魔化してもらうことが出来たけれど住む所がない? いや、あるにはあったみたいだけど建物が手抜き工事で住めなくなっていた? うん、きちんとした施工業者とかに頼まないうえに、きっと中抜きとか犯罪があったんだろう。
「でも、猫に誘われて野宿って、危ないにもほどがあるだろ……」
お嬢様で、見た目も綺麗なんだから、偶然見つけた誰かに襲われたりしたかも知れない。そうでなくても、雨が降った場合はどうしたのか。風邪をひいたらどうしたんだ? それに今は春先じゃなくて初冬とかだったら……どう考えても無謀である。
というか、全校生徒の殆どがキャーキャー言ってる生徒会長様が、こういうところポンコツってどうツッコめば良いんだろうな。
「――っと、そろそろ良いか。熱さは……まあ、これぐらいで良いよな?」
少しだけ熱いと思うけれど、追い炊き機能なんて無いからこれぐらいで十分だ。
そう考えながら、蛇口を締めて蓋をかぶせて風呂場から出る。
居間に戻ると化さんはどうすれば良いのかといったように、正座をしたまま何処か不安そうにしていた。
何というか、声をかけても良いのかと悩みつつも……お風呂に入ってもらったほうが良いだろうと思いつつ、声をかけた。
「えっと、化さん」
「ひゃ――ひゃひ!」
「…………お風呂、沸かしたから。入ってくれ」
「え、で……でも」
俺の言葉に戸惑った様子を彼女は見せる。けれど、風呂には入ってもらうべきだ。
「最近、まともには入れていないんじゃないのか? 疲れているだろうし、入ったほうが良い。着替えは……これでも着てくれ。タオルとバスタオルは脱衣所の方に置いてあるからそれを使ってくれれば良いから。あと洗濯物は……カゴの中に入れるか、避けて置いておいてくれたら良い」
断れない状況を創る。それが相手に有無を言わせない方法だと学んでいた俺はそう言いながら、彼女へと着替えとして畳んでいたジャージを差し出す。
「…………わ、かりました。それでは、入らせてもらいます」
「入浴剤はタオルの上に置いてあるから、それを使ってくれ」
「はい……、その、猫ちゃんをお願いします」
何かを言う前に色々とされ、断れなくなった化さんは諦めたようで彼女は子猫を抱き上げ、俺へと差し出して脱衣所へと向かっていった。
俺に抱き上げられた子猫は、ぱっちりとした瞳を俺に向け……「ミャア!」と元気よく鳴いていた。
そんな可愛らしい子猫を見ながら、俺は座り、優しく頭を撫でた。
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