第2話33歳 初めてのデート
そして、3日の今日。
昨日はお尻丸見え事件でご飯3杯行って、そのまま寝てしまったが。
今日は朝シャンをして、過去の小説のデータを昨日買ったUSBメモリーに保存した。
「うーむ」
考えてみれば、これが今回初めてのデートだった。
33歳になっても、デートらしい、デートは一度もしていない。俺の人生はDOUTEIだった。
それが今日初めてのデート。
そして、デートした後、関係が深めていけばあんなことやそんなこともできてしまうわけなのか。
俺は被り(かぶり)を振った。
なら、明日のデートちゃんとしないといけないな。
その日はなかなか寝付けなかった。
そして、翌日の4日。
俺は桃太郎像前の噴水の前で待ち合わせをしていた。
昨日はなかなか寝付けず、寝たのは3時で、起きたのが10時で急いで支度をして、この噴水の前にきた。
今は12時。待ち合わせが12時だと考えるとかなりギリギリだ。
その時背中から声がかかってきた。
「お待たせ」
東堂さんは無地の赤色のネルシャツに灰色と白のチェック柄のスカートを履いていた。
俺は手を挙げて答える。
「こんにちは」
東堂さんが俺の顔を覗き込む。
「まった?」
「いや、今きたところ。あ、これ枕詞じゃなくて本当に今さっき来たところなんだ」
それに東堂さんがクスクス笑った。
「三和さんておかしい」
「そ、そうかな?」
東堂さんは身長が高く165センチぐらいあった。まあ、俺は170ぐらいあって、見下ろされるということはないのだが、その東堂さんが上体を上にして俺の顔を覗き込んでくる。
「うん。なんか、三和さんていい意味で間が抜けてる」
「そうかな?今まで友達とかいないからよくわからないよ」
塔堂さんがいたずらっぽく笑った。
「女性友達はいないんですか?」
「いない。というか、女性からはよくバカにされていた」
東堂さんが上体を起こす。そして、驚いた表情をする。
「本当に?」
「本当、本当。しいてくれる女性もいたけどね。その大半が人妻だった」
東堂さんが大福のような笑みをした。
「人妻キラーですね」
「そうなんだよ。人妻に好かれてどうすんだって話だよね。告るわけにはいかないし」
東堂さんは笑みを深くする。
「でも、人妻に好かれるってことは、家庭的な男性だと思われているんじゃないんですか?」
「ま、そうかもね。でも、僕は小説を書いているけど、基本的に無職だし、結婚はできそうにないかな」
東堂さんは紫陽花(あじさい)の表情をした。
「あ、そうだ。忘れないうちに」
僕はバックのポケットからUSBメモリーを渡した。
「あ、これが」
「10冊ほどの小説が入っているから読んでみた。まあ、ほとんどが一次審査で落選したやつだけど」
東堂さんは狐の表情をした。
「はい。見ますね。わー、なんの小説なんだろー?」
「まあ、オリジナリティあふれる小説だと言っておく。それより昼食は桃太郎大通りに最近できたばかりの喫茶店に行こうか?」
それに東堂さんはコクコクうなずいた
「ですねー。最近できましたよね」
「そうそう結構岡山駅周辺て、店舗が変わって行くよね」
それに大福の笑みで冴子はうなずいた。
「じゃあ、行こうか。ついてきて」
「はい」
僕たちは歩いて桃太郎通りに入った。そしたらスッと僕は車道側に立って彼女をリードした。
「それでさー。シネマ岡山で『イザベルの夏』見たんだけどさ、前触れに世界遺産が全面に打ち出されていたから、ああ、これはロードムービー的なものかな?と思ったんだけど、登場人物が結構出てきた、意味不明なことばかり喋っていてゲンナリしたね。世界遺産ほとんど関係なかったよ」
僕の喋りに東堂さんがクスクスと笑っていた。
それで僕ははたと気づく。
「あ、ごめん。喋りすぎちゃったかな?ごめんね。僕はADHDで喋りだすと止まらないんだ。不愉快な気分にさせたらごめん」
それに東堂さんは三日月の微笑みで髪ごとぶんぶん首を横に振った。
「いえ、楽しいですよ。やっぱり三和さんて面白いですね」
髪を直す。
「そうかな?」
東堂さんは輝石の微笑みをした。
「ええ、とっても」
そして、狸の表情になる。
「本当にもてなかったんですかー?」
「ああ。今まで33年間生きてきて一回も。というか人に身の程を知れ、と言われたことがあった」
それに東堂さんは赤い驚くような表情をした。
「そんなことが?」
「ああ、なんだろうね。恋愛に身の程ってやつは。別に今の日本は身分社会なわけじゃないし、そんなこと考える人がどうかしていると思うけど、僕はかなり程度の低い人間らしい」
それに東堂さんはハゼの呼吸をした。
「そう、ですね。確かに三和さんてアクが強い人なのかも。だからそう思われるかもしれませんね」
「そうなの?自分じゃあよくわからないけど」
それに東堂さんがにっこりと笑った。
「そうでーす。でも、私は好きだな三和さんみたいな人。なんか太陽みたいでポカポカして安心できる」
「ふーん、そう」
僕も。
「僕もそうだよ。東堂さんとはフィーリングが合うというか安心できるよ」
正直言ってそれは事実だった。33歳で初めてのデートなのに緊張しないというか、むしろ安心できる。東堂さんとは気が合いそうだ。
それにこれまた、にっこりと東堂さんは笑った。
「でさ、東堂さ・・・・・」
「冴子」
「え?」
東堂さんの顔を見る。東堂さんは精霊のように微笑んでいた。
「冴子で大丈夫です」
「じゃあ、冴子。僕のことは好きなように呼んでいいよ」
「じゃあ、慎吾くんでいいですか?」
「慎吾、くんね」
ボリボリと頭をかく。
「年下にくん付けされても、ね」
「でも、慎吾くんがしっくりきます」
そう、ニコニコ顔で冴子は言ってきた。
「まあ、いいよ。くん付でも」
「はい」
すっかり話に夢中でご飯が覚めてしまった。
僕が頼んだのはカレーとサラダのセット。冴子はチャーハンとサンドイッチとコーヒーを頼んでいた。僕はカレーを一口つける。
「お、これうまいな」
冴子が狐の目でいてくる。
「本当ですか〜?」
「うん。うまいうまい。ちょっと食べてみるか?」
隣に座っている冴子に突き出す。
「じゃあ、ちょこっと」
冴子はカレーを一口食べる。
「あ、スパイスが効いている」
「でも、辛すぎじゃないでしょ?」
「確かに美味しいですね」
冴子はカレーを僕に戻した。
「そっちはだいぶ注文したな」
それに冴子はうなずいた。
「はい。私食べるの好きですから」
「その割には痩せているね」
出てるところはバンと出ているが・・・・・
「はい。友達からは羨ましい、羨ましいとよく言われます」
「でも、新陳代謝が少なくなってくる30代の頃にはデブになるかもよ?」
それに冴子の眉間に一つのシワがよった。
スプーン持って手を振り上げて冴子が怒鳴る。
「慎吾!」
「はは。怒った?」
ぷくっと冴子は頬を膨らます。
「もちろんですよ。そういうデリケートな部分を話すと女の子からモテませんよ」
僕は遠い目をする。
「だから、今まで彼女ができなかったのかな?」
「あ」
冴子が慌てる。
「い、いや、今のは本気で怒っているわけじゃなくて、そう言ったことを言ったあなたが悪いというのではなくて、それは発言自体は持てない男性の発言だったけど、でも、私はあなたに本気で怒ってないし、それだけで女性からは好かれていないとか、そういうのじゃないですから、ああ、なんていうか〜〜〜〜〜・・・・・・・・・・・・・・」
それに僕は微笑む。
「わかってるよ」
最初はキョトンとした顔だったが、すぐブスッとした表情をした。
「もう、意地悪ですね」
「はは、ごめん、でもさ・・・・」
僕の声色が違ったのに気づいたのか冴子は硝子(がらす)の真剣な表情で聞いていた。
「33になっても、彼女が一人もできないことはさ、やっぱり思うんだよね。自分が欠陥品じゃないかって。そう思うとね、些細(ささい)な、モテるモテないとかのことでも敏感に反応してしまうんだよね。それはよくないとはわかっているんだけどさ。今朝もYouTubeの動画見てすげー落ち込んじゃったよ」
「何がです?」
「声優向けの動画だったんだけどさ、そこで声優の養成所のコーチが言うには声優には個人事業主であり、信用を落とさないことが重要だと言っていたんだよね」
「はい」
「それでまず何よりも大切なのは人を怒らせないと言うことらしいよ。ほら、僕は小説家なわけで、一応声優と同じ自営業者だからさ、聞いてみたわけなんだけど、怒られる人のパターンには大まかに言って3つあって、そのうちの一つ、なぜか知らないけど、人に怒られると言うもに僕が該当(がいとう)していたんだ」
「はい」
「彼が言うにはその人は自分だけの世界を持っていて、自分は自分、他人は他人と思っているから、相手の思考パターンを知ることが重要だと言っていたけどさ、僕はあまり他人と先入観で見ないからさ、何かわからないこと、怒らせた場合は話し合いで解決するのが普通だと思っていたんだよ」
「はい」
「それで、怒って、相手を一方的に遮断する人を内心軽蔑していたんだけど、なんかさ真逆なこと言われてショックというか。でも、今思い返してみると、相手が怒ったら、僕は話し合いのチャンスだと思っていたけど、一方的に遮断する人たちしかいなかったなぁ。あの人たちは正直言って精神的に未熟な人たとばかりだと思っていたけど、日本社会全体がそういう人たちばかりなら、もう正直言って日本は終わっているね」
「はい」
「これは山本七平という本で日本はなぜアメリカに負けたのか?という論旨の本を出していて、それは現場から上司への情報伝達。現場の声を上司に報告できなかったことにある、というのが彼の考え方で、もし上層部にそういうのならば、非国民として非常な叱責(しっせき)を受けるから、現場の戦況を上司に報告できず、上層部作戦的に無意味な作戦ばかりしていたから、日本は敗れたという考え方だけど、日本は太平洋戦争に敗れて75年経ったけど、経ったからこそ、全く戦争の教訓を生かしきれてないな、と思って」
「はい」
「あ、ごめん」
僕は頭をポリポリ書いた。
「こういう話聞いてもつまらなかったかな?」
それに冴子は星の笑みで首を横にふった。
「いいえ」
「まあ、簡単に要約すると、僕が本を書いているわけは再び日本が敗れることがないように、という夢を持って本を書いているんだ。だから、まず、現場からのフィールドバックが大切で、それを行うには人の意見を尊重する文化が大切で、その文化を創生するために僕はこうやって小説を書いている」
「ふんふん。なんだかよくわからないけど、大変なことをしているんですね」
「そうさ。僕が思うに戦争で負けた原因は自国の不利な証言をするものがいた場合。それを非常識だ、非国民だと言って、それを精査(せいさ)しないことが最大の敗戦の要因だと思う。これは実際に戦争を行うだけじゃなく、他の場面でも応用が効くので、この文化を直さなきゃいけないと思うんだが、しかし、小説を書いて気づいたんだが、本当に日本人は仲間内のことしか聞かないな、というのはよく感じている」
「というと?」
「いや、ネット小説していて気づいたんだが、ヒット数稼いでいる小説というのは大抵何かヒットが出た時の二番煎じ的(せんじてき)なものが多くて、僕がオリジナリティあふれる作品だしてもほとんど見向きもされない。受け入れられる小説というのはコピペだったり二番煎じだったりがほとんどだ。日本のクリエイターには創作性はほとんど重要じゃないのかと思うよ」
「でも、それはどこの創作現場でも一緒では?全くオリジナリティ性のあるものを出すと、本当にお客さんがお金払ってくれるか心配になりますし、ある程度、ヒット作に習ったものを作るというのは経営上ある程度仕方ないのでは?」
僕はマグカップのあるコーヒーを揺らす。まだ、丸々残っていた。僕たちはおしゃべりばかりしてほとんど料理に手をつけていない。
僕はちょびっとコーヒーを飲んだ。
「まあ、それもわかる。でも、これから出版社、特にラノベ出版社に必要なのはブランド力だよ」
「ブランド・・・・・・」
「そう、ブランド。絶対的な独創性と面白さ、これが重要になる。今ラノベ業界はネット小説が大いに盛り上がっているだろ?」
「はい」
「大手出版社もある程度これに迎合するような形の小説を生み出している。ある程度は仕方ないが、でも僕に言わせるとこれは愚の骨頂だ」
「なぜ?」
「なぜって、例えば似たような小説が二つあって、一つは無料で読めます。でも話の筋が荒いです。2つ目は有料ですが、話はまとまっており誤字脱字もありません。これらの小説は話の筋や世界観はほとんど一緒です。さて、この中であなたはどちらの小説を読みますか?有料の小説を書いますか?」
それに冴子は苦笑いをした。
「有料の方は買わないですね」
「だろー?だから、これからは各レーベル、プロの小説家ごとにその人らしい独創性と面白さが必要になってくる。ネット小説に迎合するような小説を新人賞で通過させたり、書籍化したりするのは愚の骨頂だね。だから、僕は自分で電子書籍を出版しているんだ」
「売れてますか?」
「全然。まるっきり宣伝もないからな。売れなくて当然というか。売れる方がどうかしている」
冴子は笑みを深くした。
僕はスマホで時計を見る。もう3時だ。
「ありゃま。こんなに経っていたのか。早く食べようぜ。おしゃべりばかりしていたらどうにもならんな」
「はい」
「それと」
冴子はトンボの目でこちらを見てきた。
「話聞いてくれてありがとう」
冴子は笑みを深くする。
「どういたしまして」
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