第二話
《それでは只今より、令和○○年度の黒曜高校入学式を始めます》
入学式が始まってしまった。入学式は無駄にプログラムが多くて長いから嫌いだ。聞きたくもないお偉いさんの話を聞くのが苦痛でしかない。
《始めに国家の斉唱を──》
アナウンスに促され立ち上がり国家を歌いまた座る。今の僕の心は無だ。無心でいればきっとすぐに終わるはず──
《学園代表から新入生の皆さんへの挨拶です》
だがその無心も長くは続かなかった。なぜなら周囲がざわつき始めたからだ。その原因は体育館の壇上に登壇した人物。
《えーと、高嶺学園代表の口羽鈴(くちばりん)です》
その姿はブレザー身を包む、僕達と年齢もそんなに変わらなさそうな青年だった。一瞬頭のおかしい生徒が悪ふざけで壇上に上がったのだと思ったが、着ているブレザーが僕達の物とは異なる。
でも学園代表が高校生のはずがない。
もしかしたらコスプレが趣味の──
《高嶺学園高等学校の三年生です》
どうやらその説は無いみたいだ。
というか高嶺学園高等学校と言っただろうか?
高嶺学園高等学校(通称:高学)はいくつかある附属高校の本校だ。実態はあまり知られていないが、噂では超エリートしか通えないとか、政治家や官僚の子供達しか通えないとか、色々と取り沙汰されている。
《今回皆さんにお話しするのは高嶺学園への編入についてです》
まだざわつきが治まらない新入生をよそに学園代表は淡々と話を続ける。
《これから皆は三年間をこの黒曜高校で送ると思うけど、その際に避けては通れない事があります。それがこの高校特有の文具戦争》
文具戦争。文字通り文具を使った戦争であり、僕がこの高校に入る事を選んだ一つの理由だ。
《まずは上級生に見本を見せて貰おうか。監督の先生と戦う二人は前に出てね。あ、後ろの子は見辛いと思うから立ってもいいよ》
学園代表の合図で先生と二人の男子生徒が前へ出てくる。二人が持っているのは至って普通のシャープペンシル。
「試合開始!」
「「文装変形!(トランス!)」」
開始の合図と共に二人がそう叫ぶと手に持っていたシャーペンが剣へと変わる。その瞬間新入生からは驚きの声が上がった。体育館には剣と剣がぶつかり合う音が響き渡る。僕も含めて皆その戦いに集中している。
凄い……! 何というかその、シャーペンが剣に変わった瞬間に興奮したというか、これから僕達も同じ事ができると思うと何だかワクワクしてきた。
やがてその戦いに決着が付く。
剣が弾き飛ばされた先輩にもう片方の先輩が斬りかかる瞬間──
「そこまで!」
先生が試合を止めた。新入生からの拍手が自然に発生すると戦っていた先輩二人はお辞儀をして退場していった。
《今のが文具戦争の模擬戦になるのかな。僕はあんまり詳しい事は分からないから、詳しい事は担任の先生に教えてもらってね》
喧嘩とかそういう野蛮な事は好きじゃないけどこの戦いなら僕でもやれそうな気がする。
《そしてここにいる皆は共通した入学理由が一つあるはずだよね》
共通した入学理由。さっき話しかけてきた小松さんや見つめていた女子生徒、それだけでなく全校生徒が同じ理由だろう。その理由は──
妖精が見える
妖精が見えると言っても僕達が見る事ができるのは大事に使い古された文具に宿る妖精。妖精というより付喪神と言った方が正しいかもしれない。でも見た目がおとぎ話に出てくる妖精にそっくりなので皆はそう呼んでいる。
他の人の妖精はよく知らないけど、僕には鉛筆から発現した妖精がいつも付いている。名前は『ラピス』と言って結構やかましい妖精なんだけど、今は教室に置いて来た筆箱の中で寝ているはずだ。
僕に妖精が見える様になったのは小学校の卒業式が終わった直後だっただろうか。ラピスがいきなり目の前に現れてとても驚いた記憶がある。
ちなみにさっきの模擬試合も先輩達にはそれぞれ妖精が付いていた。多分どちらもシャーペンから発現したんだろう。その妖精がシャーペンに憑依する事によって剣へと変形していたんだけど、こんな事を言っても伝わらないよね。
そうだな……。女児に人気のアニメ「ぷ○きゅあ」に出てくる妖精が武器に憑依する感覚と同じだと思う。
《君達は特別な人間だ。文具から発現した妖精を見る事ができる。それ故に小中学校の時に変わり者扱いされた人も少なくはないと思う》
学園代表の言う通り、僕は中学生の頃になると変わり者扱いをされていた。妖精は見える人には見えるけどその逆も然り。妖精と話していると他人からは独り言をブツブツと呟いている様に見える。だからクラスで浮いた事もあった。その後小松さんに出会った事で多少は改善されたけど。
そういえば小学生の時に僕と同じで妖精が見える女の子がいたな。下の名前が聖(ひじり)って言うのは覚えているんだけど、六年生の途中で海外に行っちゃったからなあ。元気にしてるかな。
当時は僕にはまだ妖精が見えなくて、同じクラスの子も当然見えてなかったから変わり者扱いされていたけど、今は僕にも見える様になったんだ。また会えたらいいな。
《でもこの高校には君達を変わり者扱いする人はいないし、それは他の分校でも本校でも一緒だ。僕には君達の様に妖精は見えないけど、高嶺学園の人間は絶対に君達を馬鹿にはしないからそれを忘れないでね。さてと、時間が無くなっちゃったから編入の話も担任の先生から聞いてね。じゃあ入学式終わり! 爆散!》
爆発させちゃ駄目でしょ。
───────────────────────
最後までお読みいただきありがとうございました。
もしもこの物語が気になったり面白いと感じていただけた方がいらっしゃいましたら、フォローや♡、コメント、レビューをしていただけると、とても励みになります。
僕らの文具戦争〜青春は妖精と文具と共に〜 西風山 風鈴(なれやま ふうりん) @nareyama_21
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。僕らの文具戦争〜青春は妖精と文具と共に〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます