小説家の西稀助と元清楚系ビッチ西真野花は夫婦である

まちだ きい(旧神邪エリス)

第1話:夫婦は今日もイチャイチャする

 とあるカフェにて。

 僕――西稀助にしまれすけは一人執筆をしていた。時刻は夕方7時、今日は日曜日とあり、親子連れのパパやカップルなどがワンサカといる。……学生時代なら羨ましかったかもしれないが、今は違う。だって、僕にはもう愛すべき妻がいるのだから。


「疲れた……」


 ついそんな言葉が出てしまう。

 知らない人の為に話しておくと、僕はエロ小説をネットに投稿して生計を立てている。

 人が聞いたらドン引きするかな……別に構わない。だって、この仕事が好きだから。SNSを開けばファンのかたからの「先生の作品最高です!」「めっちゃ抜けます!」という声が雨あられのごとく聞けるし、普通にサラリーマンとかをしていたら、自分が0から作ったもので人を抜かせた、だなんて経験はできない。やっぱりそういうのがやっぱりモチベになってここまで書き続けられているところはあって。


(でもやっぱり、疲れるものは疲れる!)


 学生時代は『創作楽しい!!!』の五文字だけで何とかやってこれた。でも僕はもう25才だ。決してオジサンではないが、滅茶苦茶若いというわけでもない。いや、高校生からしたらオジサンなのだろうか(考えたくない)。


 PRRN《プルルン》


 と、そんな時スマホが鳴る。

 見ると、妻からのメッセージだった。内容はこうだ。


『稀助さんお疲れ様です。お夕飯はハンバーグですよ! ビールも買ってきました。いつでも帰ってきてくださいね♡』


 ……ああ、やっぱり妻は可愛いな。

 スタイルは良いし、まつ毛は長く、少しタレ目なのも可愛い。唇はプルンといつも潤っており、大袈裟おおげさでもなんでもなく、女神が自身のクローンを作ったかのように美しい。


(……ん?)


 見逃していたが、下にもまだメッセージが続いている。見てみると、こう書いてあった。


『帰ったらいっぱいえっち♡ しましょうね……?』


 そうだった。

 妻は性欲がバカほど強いのだった。

 そんな僕もかなり強いほうなのだけど。……まあそんなことはどうでもいい。執筆もいい感じに詰まってきたし、そろそろ帰ろうか。


 パソコンをしまい、店を出る僕であった。


※※※


「ただいまー」


 疲労困憊して帰宅する。

 大学時代から使っているアパートだ。

 妻とは大学時代に会って、その時からこの家で同居している。……嘘みたいって思う? 僕も嘘みたいだと思う。けど本当のことなんだよね。


「真野花ちゃーん。ただいまー」


 返事がない。

 仕事はもう終わって、彼女も帰宅したはずなのだが、どうも様子がおかしい。変だ。


「なんだい、これ」


 リビングに着くと、テーブルに紙が置いてあった。読んでみる。


『お前の妻は預かった。返して欲しければ――(この先は文字が消えていて読めない)』


 わざわざ『この先は文字が消えていて読めない』と書いてあるのは置いておいて、どうやら妻はさらわれたようだ。

 僕は焦って彼女の名を呼ぶ。


「真野花ちゃん! どこっ?!」


 愛する妻がさらわれたのだ。

 恐怖しない夫はいないだろう。

 僕はただ膝を震わせ、彼女――西真野花にしまのかの名を読んだ。すると、



「……だーれだ♡」

「っ、まの、か……ちゃん?」


 後ろから目隠しをされる僕。

 声の主はとぼけた口調で。


「どうでしよーね。ふふ」

「いや、その声はどう考えても真野花ちゃんでしょ」

「じゃーホントに私が愛する妻か、身体で確かめてみてくださいな」


 そう言うと真野花ちゃん(?)は僕を振り返らせる。その時を閉じていてと指示があったので、大人しく閉じていた。


「じゃー、行きますねー」

「な、なにを――――っ?!」


 刹那、唇に柔らかい感触を感じ、とっさに僕は目を開ける。そこにいたのはやっぱり愛すべき妻で、


「んっ……♡ ふふ、稀助さん」

「真野花ちゃん……」

「ぎゅーーっ」


 真野花ちゃんが抱きついてきた。

 紺のスーツ姿に、軽くお化粧をしており色気があった。なのに行動はまるで子供で、何だかほっこりした。


「はぁ……一日お仕事頑張った甲斐がありました。稀助さんの匂い……すきです……♡」

「真野花ちゃんもお仕事頑張ったんだね、エラいエラい」

「〜〜〜っ♡ なでなでしてください、私、稀助さんになでなでされたいです」

「するよ? なでなでする。ほら、可愛い可愛い、僕の大事な人……」

「だいすきっ……♡」


 ――こんな風に数十分イチャついた後に。


「うん、ハンバーグおいしー」

「そーですか、ビールも飲んでください」

「飲む飲むっ。やっぱ真野花ちゃんの料理は最高だね!」

「えへへ、稀助さん」


 夕飯を食べている間、にへらと笑う愛すべき妻の西真野花にしまのかの薬指には指輪がはめ込まれており、キラキラと部屋の明かりに照らされて光っている。そうなると、やっぱり僕としても幸せを感じてしまうもので。


「真野花ちゃん」

「はーい」

「幸せだね」

「♡ はい、幸せです……すごく」


 これが僕ら夫婦の日常。

 何でもなくて、ほのぼのした、楽しくてゆるゆるした毎日だけど、とっても幸せだ。

 こんな毎日が、一生続く、そんなお話が、ゆるーく始まります。


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