ノイズ
鯵坂もっちょ
ノイズ
「
「 」
「おーい、香織、香織」
「 」
「………………」
「 」
「……成る程、こんな気分か」
「 」
「もしもーし」
「────ぎ───ぎぎ─」
「あれ? もしもーし」
「もしもし」
「ああ、なんだ。どうもです。今月もよろしくお願いします」
「はい、よろしく」
「……
「……えっ? いや、そうかな。そう見えるかい」
「ええ。クマがすごいですよ。目の下」
「そうかな。まあ、最近いろいろあっ──らかな」
「……大丈夫ですか。眠れなかったり?」
「いや、それはない。大丈夫だよ」
「ですか。原稿厳しかったら一言言ってくださいね」
「ははは、そうさせてもらうよ」
「じゃあ、今月も始めますか。あ、今大丈夫でした? 今日奥さんは……お姿が見えないですけど」
「今日はいないんだ。高校時代の友───と温泉行っ──るとかで、昨日意気揚々と出かけていった。今日はうちで独り。静かなものだよ」
「ですか。久々に挨拶したかったですけど」
「また今度だね」
「ですね。いやあ、それにしても助かります。伏見さんは毎回締め切りちゃんと守っていただけるので」
「それでも今回はギリギリだったろう。申し訳ないね」
「いえいえ全然。でも確かに珍しいですね。なんかありました?」
「いや、特に何もないよ。……強いて言うなら、今月の分はかなり筆が乗ったから思わず少し多──ぎぎぎ─────てしまった」
「でもわかります。伏見さん、今月すごいですよ。めちゃめちゃ面白い」
「それはよかった」
「あ、じゃあ内容入っちゃっていいですか?」
「勿論」
「えーじゃあ第12回ですね。中盤の山場ということで。でまずやっぱり最初に言っておきたいんですけど、この
「ありがとう」
「芽依が息絶えたときに風呂場がすごくシーンとするんですね。それで逆に今まで芽依の声や暴れる音でかなりばたばたとうるさかったことに気づく。静寂によって、鈴原が自分の犯した行為の重大さをだんだんと自覚していく……って心の流れめっちゃリアルですよ。さすがです。プロの作家さんにこんなこと言うのあれですけど、やっぱ想像力とかそういうのが段違いなんですね」
「まあ、伊達に長い─と──仕事やっ───からね」
「……伏見さん、なんか今日ちょっとノイズがすごいかもしれないです」
「あ、本当に?」
「たまに大丈夫なんですけどね。入るときは結構入っちゃって」
「何か外の音でも拾ってるかな」
「外の音って感じじゃないですね。動物の鳴き声っぽい?というか、息が詰まるような音というか」
「思い当たる節は……ないなあ」
「あ、今は大丈夫ですね。何なんだろう」
「大丈夫なら、しばらくはこのままでいいかな」
「はい。いまのところは聞き取れないレベルではないので」
「よかった。……今回は何か問題点はあった?」
「ええ、大きなのは一個だけですね。この芽依が離婚してるって描写のとこですけど、第6回で『離婚はまだ成立してない』って言っちゃってます」
「あそうだったか、ちょっと待ってね確認するから、6回?」
「はい」
「……──────ぎ──ぎぎ─ぎ────……ああ本当だ。どうするかな。本になるときにこの時点で離婚成立してることにして───うか」
「いいんですけど、そうすると鈴原側の態度というか、その辺にいろいろと影響出てきませんかね、例えば第7回で鈴原が『離婚が成立したら』って言っちゃってますね」
「今回の分に離婚の描写を入れるのは長いかな」
「ですね。今回は特に削れそうなところないですし」
「そうか……」
「 」
「え?」
「ん?」
「すみません、もう一回お願いします」
「え? いや、何も言っていないけど」
「あそうでした? おかしいな」
「とりあえず、そこはやっぱりまだ離婚してないことにしよう。その後の部分───ぎぎぎぎぎぎぎ────リフの修正でなんとかなるだろう。また一週間でいいよね」
「そう……ですね、26日までということで……はい。大丈夫です」
「あとは何かある?」
「ええと……あとはまあ……細かい誤字が3箇所ですね……。40行目『何故こんなところにるんだろう』は『いるんだろう』ですね。61行目『頭を書いた』は掻きむしる方の『掻く』ですね。あとは…………」
「………………どうした?」
「いえ、いや、あの、伏見さん」
「うん?」
「今日家に独りっておっしゃいましたよね」
「うん」
「奥さん出かけてるって」
「そうだよ」
「あの、ちょっと言いづらいんですが」
「うん」
「ドアの向こうにずっといる人誰ですか?」
ノイズ 鯵坂もっちょ @motcho
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