第13話 新しい魔法を使ってみよう!


◇◇◇ 

 

 まずは冒険者になるために、魔力量を増やし他属性の魔法を使えるように練習する!と目標を定めてからさらに1ヶ月。ティアラはほとんど空っぽの状態だった器に少しずつ魔力を蓄え、さらに使う練習を始めていた。


 アリシア王宮には、魔力を必要とするとき素早く取り込めるように、魔力で満ちた場所、通称『パワースポット』がいくつか存在する。主な場所は、礼拝室、騎士団の訓練所、治療室、王宮庭園など。ティアラは勉強時間の隙間をぬって、それらの場所を毎日さり気なく訪れては少しずつ魔力チャージを行っていた。


 アリシアの記憶が蘇る前のティアラの魔力容量が「10」だとすると、今の魔力容量は「1000」くらい。そして、1日に自然回復する魔力が「100」位の感覚だ。使わなかった魔力はそのまま体の中に留まるため、10日で満タンになる。ただし、魔法を使うことによって魔力も失われてしまうため、魔法を練習するためには、効率良くチャージできる場所が必要となる。


 最初に練習する魔法は土魔法。これなら王宮の中庭でも安全に発動することができる。魔法は本人の使い方によって無限の可能性を秘めている。例えば同じ土魔法の使い手でも、使う魔法は人によって異なる。植物を育てるのが得意な人、土の形状を変えるのが得意な人、ゴーレムのように土を操るのが得意な人もいる。


 ティアラは手のひらにそっと魔力を集中すると、小さな種を作り出した。ひとつ、またひとつと生み出していく。次に、その種を慎重に土に埋めると、今度は土全体に魔力を行き渡らせる。すると一斉に、小さな可愛らしい花が咲いた。


「うん!種を作り出す魔法も、植物の成長を促す魔法も使えるね!」


 次は栄養たっぷりの野菜の種、甘い実の生る果樹の種と順番に生み出していく。


「うーん?でもこれを全部植えるとさすがに庭師の皆に怒られちゃうなぁ。そうだ!孤児院の皆に持って行ってあげよう!畑に植えてもらうといいよね!」


 そうと決まると善は急げ。早速カミールの所に向かう。前回魔力切れを起こして倒れてから、カミールは以前にもまして過保護になってしまった。ティアラには今後、専属メイドに護衛騎士まで付けられることになったのだ。また、外出するにはカミールの許可が必要となる家族間の決まりまで作ってしまった。


「カミールお兄様には心配かけちゃったから強く言えないんだけど」


 王族とはいえ、王位継承権の低い末っ子で、わずか8歳の第三王女には身に余るものではないかと思う。正直誰か反対してくれるかなと思ったのだけど、お父様もお母様もすっかりカミールに丸め込まれてしまった。もともと両親は遅くできた子であるティアラをことのほか可愛がってくれている。ティアラのためと言われると一も二もなく頷いてしまうのだ。


 カミールの執務室を軽くノックすると


「入れ」


 と短い返事が帰ってくる。


「カミールお兄様!」


 ティアラの姿を確認すると、カミールは嬉しそうに顔を綻ばせた。


「やぁ、ティアラ、私に会いに来てくれたのかい?」


「はいお兄様!実はお兄様にお願いがあって……」


「さぁ、ここにお座り。今お茶とお菓子を用意しよう。ティアラは甘いものが好きだろう?実はティアラと一緒に食べようと思ってね。街で人気の新作スイーツを買ってきたんだ」


「わぁー、新作のスイーツ!カミールお兄様、いつもありがとうございます!」


 カミールの侍従の一人、アンドレが素早くお茶の支度を整えてくれる。アンドレは侍女長であるアンナの息子であり、カミールの乳兄弟だ。


「どうぞ、姫様。姫様の好きな蜂蜜をたっぷり入れておきましたよ。熱いので気をつけて下さいね」


「アンドレ、ありがとう。そういえば、じいやは元気にしてる?」


「ええ、元気すぎて困っている位です。父に執事長の立場を譲ってから隠居した後、長年の夢だった冒険者になる!とかいいだしまして。家族全員で反対しているところです」


 アンドレの祖父であるセバスは長年王宮の執事長として勤めていた人物で、王家の子ども達からは「じいや」と呼ばれて親しまれている。一年前、息子に役職を譲ったものの、まだまだ元気なおじいちゃんだ。


「ふふ、じいやらしいわ」


 じいやが冒険者になったら冒険者ギルドで会えるかも、と想像して楽しくなってしまう。


「笑い事ではございません。全く、なにを考えているのやら」


「何にでも挑戦して楽しむ。そこがじいやのいいところなのよ」


「姫様が祖父の一番の理解者のようです」


 アンドレはやれやれ、というように手を広げて笑ってみせた。


「ところでティアラ、私にお願いとはなにかな?」


「あっ!そうだ!忘れてた!」


「忘れるとは酷いな」


「ごめんなさいお兄様。実は、孤児院の子ども達にプレゼントを渡したいの」


「プレゼント?」


「うん!これなんだけど」


 ティアラがおずおずと手に持ったタネを差し出すと、カミールは首を傾げた、


「これは?植物の種子のようだが……」


「何の種子でございましょうか。みたことがありませんね」


 不思議そうな顔をする二人に胸を張って答える。


「私が魔法で作ったの!こっちが甘い果実の生る木の種子で、こっちが栄養たっぷりの野菜の種だよ!」


「………………」

「………………」


 二人が何も反応してくれないのでおやっと首を傾げていると、


「えーと、姫様?姫様がこちらの種を作られたと?」


「うん、そうだよ」


「ティアラは回復魔法しか使えなかったよね?」


 何やら二人して、ティアラの作った種を、信じられないものを見るかのような顔で見つめている。


 その時点でようやく、


(あ、そういえば、他の属性魔法が使えることはまだ誰にも言っていなかったんだっけ。アデル兄様に虹色の魔力を見られたから、てっきりみんな全属性魔法が使えるようになったこと、知ってると思ってた!)


 と気付く。


「最近色々な魔法が使えるようになったから、こっそり練習してたの」


 恐る恐る口にすると、


「色々……ほかにも?」


 と聞かれるのでこくんと頷く。


「カミール様、これは……」


「ああ、うやむやにする訳にはいかないな……」


 何やら二人の間に深刻な雰囲気が漂いだしたので、慌てて席を立とうとする。


「え、えーと、忙しそうだからお部屋に戻るね?」


 するとカミールはにっこり微笑み、


「ティアラ、ちょっとそのままお茶を飲んでいておくれ。アンドレ、ティアラの相手を頼む」


「畏まりました」


 そういい残し、慌てて部屋を出て行ってしまった。


「…………」

「…………」


 後に残された二人に、気まずい沈黙が流れるのだった。



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