第52話 ゼフラーダ領
ゼフラーダは静かで綺麗なところだった。
太陽が地平線に沈む様が圧巻で、つい口を開けて見惚れてしまった。その為ゼフラーダの結界陣は翌朝の確認となってしまい、リヴィアは緊張感の無い自分を流石に恥じたが、アーサーは笑って許してくれた。
皇族とは言え公式な訪問では無い。出迎えは最低限ではあったが、領主夫妻と嫡男が最敬礼で並んでいた。
リヴィアが同行している事は先方に周知している為、流石に
とはいえ到着の晩餐会には参加しなければならないだろう。気鬱ではあるが仕方ない。
リヴィアはアーサーの斜め後ろに控えて挨拶が終わるのを待った。
「リヴィア」
アーサーが振り返って声を掛ける。
「アーサー」
だがリヴィアが答える前にライラがアーサーに駆け寄った。
眉間に皺を寄せるアーサーを
「こんばんは。辺境伯ご夫妻、イリス様。到着が遅くなりまして申し訳ありません」
「ああ……イスタヴェン子爵夫人……久しぶりだな」
「わたくしがゼフラーダを平和に戻して見せますわ。ご安心下さいませね」
「……」
どう見ても困惑しているゼフラーダの面々にもライラは全く怯まない。出遅れたリヴィアはアーサーに軽く目礼してその場での挨拶を辞した。
因みに侍従であるフェリクスは射殺さんばかりの目つきでライラを睨みつけているが……
見なかった事にして目を背けるとゼフラーダ辺境伯夫人と目が合った。
「あなた……」
呟くように口にして夫人ははっと目を見開いた。
「リヴィア・エルトナ嬢。私の婚約者です。今回は彼女の件でお邪魔致しましたので、後ほどご対応の程よろしくお願いしますよ」
アーサーがリヴィアの横に立ち、手を持ち上げ恭しく口付けた。赤くなりそうな顔を理性でなんとか矯正し、リヴィアは淑女の礼を取った。
「はじめまして。リヴィア・エルトナと申します。どうぞよろしくお願い致します」
日が暮れていてくれて良かった。緊張が顔に集まるようで、自分が淑女の面を冠れている自信が無い。
「はじめましてリヴィア嬢。こちらの手違いで申し訳が無かったが、どうやら息子は良縁を逃しましたな」
辺境伯が頑張ってお世辞を言いつつ場を仕切り直している。
「ええ。本当に……オリビアに似ているのね」
その言葉にリヴィアは目を丸くした。
「それは……初めて言われました。辺境伯夫人……」
リヴィアは自他共に認める父親似だ。嬉しいかどうかは別感情だが……。ぱちくりと目を瞬かせると夫人はくすりと笑った。
「確かに容姿や雰囲気はリカルドにそっくり。でも目がね、とてもお母上似よ」
そう言って目を細める夫人にリヴィアはどきりと胸が鳴った。柔らかい笑顔を向けられているのに、それだけでは無いような笑み。
……リヴィアが誰の子かを考えればそれも仕方がないが。
それに近くの近衛が警戒を強めリヴィアを見ているようで、なんだか余計に居た堪れない。
「ここの兵士たちは、わたくしが皇都から嫁いだ時に共に来た者たちで皆優秀よ。何かあったら彼らを頼ってちょうだいね。ここの警護は完璧よ」
「光栄です。辺境伯夫人」
綺麗な笑みになんとか笑顔を返す。
「さあ、遅くなりましたからな。晩餐を用意しておりますが、お疲れなら部屋に運ばせますが如何いたしますか?」
そう言って辺境伯が歩き出す。
「リヴィア嬢にも護衛をつけなくてはね。この辺は害獣も多いの。田舎でごめんなさいね。ああ、紹介しておくわ」
そう言って夫人が紹介してきた護衛は分厚い黒縁眼鏡を掛けていた。年を取って目が悪くなったのだとか。それでも昔取った杵柄から護衛の腕はかなり高いらしい。
その話を聞き、アーサーは引退後の兵士の雇用について彼らと話し始めた。そんなアーサーたちの背中に続きながら、リヴィアは背中がそわそわするのを感じた。
なんだろう。緊張しているのだろうか、それに……
母に似ている
嬉しいような恥ずかしいような感覚が胸を跳ね回り、リヴィアはうっすらと微笑み目を閉じた。
そんなリヴィアをじっと見つめる視線があった。
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