第4話

 身体が、動きそうにない。

 しくじった。最後の最後で。これが終われば彼女に会いに行けると、思ってしまった。


 連絡は入れたし、資料も出した。大丈夫。自分がいなくても、内偵先の不正は暴けるはず。


 彼女のことばかり、考える。

 仕事ばかりの孤独な生き方のなかで。

 彼女といた日々だけが、やわらかく、暖かかった。


 そんな日が、ほんの少しだけでも、存在した。

 それだけで。充分なのかもしれない。

 ひとりで生きてきた人間が。彼女と生きればよかったと、後悔することができる。それだけで、たぶん、幸福なのだろう。


 彼女に会いたかった。


 指環。彼女に買ったんだっけか。でも、指にはめることはできなかった。彼女と一緒にいたかった。


「はあ」


 ため息のような呼吸。

 疲れたな。


 カプチーノが飲みたい。


 月が見える。


 彼女に買った指環みたいな、円い月だった。


 それも、少しずつ、にじんで。消えていく。


 死ぬときは、ひとり。


 カプチーノの泡のように。消える。

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