5.放課後
結果から言おう。ダメだった。
状況はさらにカオスと化してしまったんだけど……、とにもかくにも経緯を話そう。
***
放課後を知らせるチャイムが鳴ったと同時に、D組のクラスへ駆け込んできた青い瞳の美少女は、昨日と同様、清純派を地でいくような微笑みを浮かべてみせた。
今朝、校門で星月さんと一緒だった時に見せていた残念な顔は気のせいだったか、もしくは気が抜けていただけかもしれない。
ともあれ、騒然とするクラスメイトをよそに、かのんはごきげんな様子だ。
「蓮くんっ蓮くんっ蓮くんっ! 迎えに来たよっ! 一緒に帰ろっ!」
「はあぁぁ〜……。美少女のお迎えとかさ、全宇宙の高校男子の憧れじゃんか。マジで羨ましいわぁ〜……」
やたらと規模のでかい例えを持ち出して、陽太はやたらとでかいため息をついた。
旧友の意見には同意したいところだけど、いかんせん、現状では謎だらけだからなあ。どう返すべきか。
「いいからとっとと帰っちまえよ、色男。いつまでもここに残ってたら、クラスの男子から袋叩きにされるぞ」
陽太の指摘はもっともで、かのんが現れてからずっと、男子連中の鋭い眼差しが体中に刺さりまくっている。
昨日と同じく、俺は逃げるようにかのんを連れて教室を後にしたのだった。
***
……んで。いま現在、俺たちは肩を並べ通学路を絶賛下校中なんだけど。
ぶっちゃけ、気まずい以外の何者でもない。
なんというか、ね? いざふたりっきりになってみると、どんな話をしていいのかまったくわからなくなるんだよなあ。
放課後、改めて話をするって言ってた星月さんはどこにもいないし、どこ行ったんだろ?
かのんはかのんで、それを気に留める様子もなく、嬉しそうに微笑んでいるけれど、俺としてはモヤモヤしてしまうというか。
とにかく無言のままというのは、精神衛生上よろしくない。こんがらがった頭の中を整理するためにも、俺は意を決してかのんへ話しかけた。
「えーっと……、天ノ川さん」
「……」
すぐ隣へ並んでいるというのに、かのんは黙ったままだ。
「あの、天ノ川さん?」
「……」
今度は少し拗ねたように、つーんと軽くそっぽを向いてみせる。
「えっと……?」
「名前っ」
「はい?」
「幼なじみなのに、他人行儀の呼び方なんだもん。名前で呼んで?」
個人的には幼なじみという点にも引っかかりを感じているんだけど。このままだと話が進まないしなあ。
「かのん……さん」
「さんはいりませんっ」
「か……」
「か?」
「かのん」
「ウヘヘヘ……」
「?」
「……コホン。エヘヘヘ……。どうしたの、蓮くん?」
一瞬、だらしない笑い声が漏れ聞こえたと思ったけれど、次の瞬間には、かのんは旋律を奏でるような笑い声で応じたわけで、これが問答無用にカワイイ。俺基準の採点で五〇億点を差し上げたいね。
……ダメだ。早くも話がずれ始めようとしている。
「その、星月さんは一緒じゃないのか?」
「美雨なら先に帰ったよ。色々準備があるからって」
「準備? 何の?」
「ヒミツっ! もう少しすればわかるよっ」
はあ、さいですか……。これ以上の謎とか秘密は遠慮したいんだけど。
「そういえばさ、星月さんが『かのん専属メイド』って言ってたけど、どういう意味?」
「へっ? そのままの意味だよ? 美雨はウチで働いてるの」
「……もしかして、かのんの家ってお金持ちだったりする?」
「エヘヘへ……。い、一応ね? あっ! でも、お父さんたちがお金持ちってだけで、私は全然っ!」
マジか……。本物のお嬢様って初めて会ったな。
いや、確かに只者じゃない感がすごかったけど……って、アレ?
「一緒に帰っているけど、かのんの家ってこっちでいいのか? 俺の自宅はこの近くだからいいけどさ」
閑静な住宅街とはいえ、この先にお金持ちが住むような豪邸はなかったはず。
俺に付き合って遠回りさせていたなら申し訳ないなと考えていた最中、かのんはミルクティー色のロングヘアを揺らし、愉快そうに応じてみせた。
「心配しないでっ。私のウチも同じ方向だからっ」
「それならいいけどさ。どこらへんなんだ?」
「すぐそこ。ほら、見えてきたよ。あそこなんだっ!」
かのんの青い瞳が示した先には、俺が暮らしている少し古ぼけたマンションしか見えない。どういうこと?
ちょうどその時だった。入り口付近に止まっていた引越し業者のトラックが走り出したのだ。
そのトラックを見送っていたのは長身の知的美人で……って、星月さん!?
「これはかのん様に岡園殿。お帰りをお待ちしておりました」
ブレザー姿のまま一礼した星月さんは、呆気に取られる俺を放置し、さらに話を続けてみせた。
「ちょうど今しがた、かのん様のお引っ越しを終えたところです。夕飯はピザを頼もうと思っているのですが、岡園殿もご一緒にいかがですか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます