勇者の荷物持ちはクビになっても諦めない
さとう
勇者の荷物持ちはクビになっても諦めない
「ハコブ。あんたはクビよ」
「え」
とある町の宿屋にて。
突如、クビを宣言されたのは、勇者パーティーの『荷物持ち』であるハコブ。
ハコブは、生まれつきの怪力を見込まれ勇者パーティーにスカウト。絶大な戦力として……ではなく、勇者パーティーの『荷物持ち』として旅に同行していた。
ハコブは、勇者であり幼馴染のアリッサに冷たい目で見られる。
「く、首って……クビ!? なんで!?」
「役立たずだから」
バッサリ斬られた。
アリッサは、大きなため息を吐いてハコブに言う。
「幼馴染のよしみで旅に同行させたけど……ただの怪力荷物持ちじゃこれから先はもう無理よ。報酬をあげるから、村に戻って畑でも耕してなさい」
「そ、そんな……こ、ここまで来て」
「見苦しいですわよ」
と、アリッサとハコブの間に入ってきたのは、魔法使いのメーメ-だ。
アリッサ大好きの百合少女で、ハコブを目の敵にしている。これ幸いにとハコブに追撃をした。
「自前の怪力は認めます。荷物持ちとしてとても役に立ちました……が、それだけです。『ギフト』も持たない怪力自慢は、これから先の戦いに付いてこれませんわ」
「メーメーまで……」
「メーメーの言う通りだ」
と、さらに追撃。
追撃を仕掛けてきたのは槍使いのクラリス。長いポニーテールが自慢の美少女だ。
強者を求めて旅をしており、アリッサに決闘を申し込み破れ、そのまま仲間になったのだ。
「荷物なら誰でも持てる。今の私たちは馬車も所有できるくらい稼いでるし、もうお荷物のお前は必要ない」
「クラリス……お、俺は」
「残念ですけど、ここまでですねぇ~」
最後の追撃は、聖女のユリアナだ。
大聖堂に所属する聖女で、癒しの奇跡を持つ少女だ。柔らかそうな身体と笑みに、多くのファンがいるとかいないとか。
クラリスは、おっとりした声で言う。
「わたしは『聖女』のギフト。クラリスさんは『槍士』でメーメーさんは『魔導士』……そしてアリッサさんは『勇者』のギフトを持っています。魔王退治までもうすぐですし、わたしたちなら倒すのも楽勝でしょう。ハコブくん、無理しないでお帰りなさいな」
「ユリアナ……うぅ、でも俺だって」
「あーもう!! とにかくハコブ、あんたはクビ!! お金あげるから田舎に引っ込んでなさい!!」
「アリッサ……そんな」
「めそめそしないでよ。まったく……」
アリッサは金貨の詰まった袋をハコブに投げつけた。
ずっしり詰まった金貨がハコブの顔面にぶつかり、鼻血が出た。
「あ……と、とにかく話は終わり。これからは乙女の時間だから男は出てって!!」
「アリッサ、アリッサ……」
「見苦しいですわ。ささ、殿方は退場で」
「うわっ!?」
メーメーの魔法で部屋の扉が開くと、念動力によってハコブの身体が浮かび、部屋の外へ放り出された。
「ぅぅ……」
ハコブは仕方なく部屋に戻り、静かに泣く。
「うっうっ……ギフトがないのは仕方ないじゃないか。でも俺、アリッサと一緒にいたいし……ちくしょう。ギフトほしいぃ……」
ギフトは、二十人に一人が持って生まれるという奇跡。
この世界を脅かす『魔王軍』と戦えるのは、ギフトを持つ者だけだ。
世界各国にいる『ギフト』持ちは国に保護され、中でも希少なギフトである『勇者』を持つ者は魔王軍と戦う宿命にある。
アリッサは、八十八人いる勇者序列四位の強者だった。周囲から期待され、アリッサもそれに応えている。幼馴染というだけで荷物持ちに志願したハコブは、アリッサを支えたかった。
だが、それももうできない。
「うぅ…………ぐぅ」
いつの間にか、ハコブは寝てしまい……気が付くと朝だった。
慌てて飛び起きアリッサたちの部屋に向かうと、すでに出発した後だ。
どこへ行ったのかもわからない。
ハコブは一人で泣き、仕方なく荷物をまとめた。
「荷物持ち……勇者たちの荷物持ち。天職だと思ったのにな」
鞄に全ての荷物を入れ、背負う。
荷物を持つことなら誰にも負けない……そもそも、勝者や敗者など存在しないが。
チェックアウトしたハコブは、透き通る青空を見上げた。
「…………旅にでも出ようかな」
あてのない旅へ出よう。
そう思い、宿から第一歩を踏み出した。
「あいたたたた……持病の腰痛が」
すると、目の前に腰を押さえ座り込んだ老婆がいた。
慌てて駆け寄るハコブ。
「大丈夫ですか!?」
「あ、ああ……いたたたた……ちょっと腰をやっちまってね」
「すぐに病院へ!! 俺が運びます!!」
「いやいや、大丈夫大丈夫。それに、病院にかかる金もないし、家には腹を空かせた孫たちがまっておる……早く帰らないと」
「……おばあちゃん」
ハコブは、ポケットから金貨袋を取り出し、数枚を老婆へ差し出す。
「おばあちゃん、これ……病院に行って薬をもらいなよ」
「なんと! 見ず知らずのババアに金を?」
「俺、困ってる人をほっとけないんで……へへ」
「おぉぉ……優しい青年じゃ。ありがとう」
「いえ」
「申し訳ない。いたた……立たせてくれんかの?」
「あ、はい」
ハコブは老婆の手を掴み立ち上がらせた───次の瞬間。視界が一気に暗くなった。
「え?」
『ほう。いいギフトじゃな。だが眠っておる……よし、わしが起こしてやろう。ふひひ、駄賃ももらったし、ほんのささやかな礼じゃよ』
「え? お、おばあちゃん?」
『たまに人の手に触れるのも悪くない。純粋な善意は久しぶりじゃ……ありがとうよ、若いの』
───と、声が聞こえた。
ハコブはハッとして周囲を見渡す。
「あれ……お、おばあちゃん?」
老婆は消えていた。
手に持っていた金貨も消えた。
そして、残ったのは……ハコブの変化だ。
「……これ、え? まさか」
ハコブは、自分の中に眠ってた『何か』に気付いた。
◇◇◇◇◇◇
アリッサたちがハコブと別れてから半年───……魔王の脅威は確実に増していた。
勇者序列一位~三位が全滅。残された四位のアリッサは、勇者たちが残した情報を元に仲間たちと魔王城へ潜入。
強敵を内倒し、ついに魔王と対峙した。
「あなたが、魔王……!!」
『いかにも。ほう、今度の勇者は若いな』
くぐもった声で話すのは、五十歳ほどの男だった。
頭にツノが生え、漆黒の鎧を纏っている。玉座に座り、アリッサたちを見下ろしていた。
『勇者……これまで三人来たが、全員弱かったぞ? 貴様はどうかな?』
「舐めないで。あたし、勇者最強だから!!」
聖剣を抜き、魔王に突き付ける。
メーメーが詠唱を始め、ユリアナは祈りを捧げ全員にバフをかけ、アリッサとクラリスが飛び掛かる。
だが、魔王は微笑んだ。
『弱い』
「え───っ!?」
「ぐぁぁっ!?」
アリッサとクラリスは、魔王の放った魔力弾で吹きとばされた。
同時に、メーメーの生み出した火球が魔王に向かって飛ぶ。だが、火球は直撃したがダメージがない。
「うっそ!?」
『魔法とはこう使うのだよ』
バチバチと魔王の手から紫電が生まれる。
クラリスは汗を掻きながら祈りを捧げ、防御結界を張った。
だが、紫電の威力はすさまじく結界が掻き消され、紫電が全員を直撃する。
「「「「きゃぁぁぁぁっ!?」」」」
『いい声で鳴く。ククク……女どもめ、少々いたぶってやろう』
倒れたアリッサたちに魔王の手が伸びる───すると。
「待った!! ちょい待ち!!」
「「「「……え?」」」」
『ぬ?』
なんとも締まらない声で叫んだのは……まさかのハコブだった。
アリッサたちは仰天する。
「は、ハコブ!? なんでここに!?」とアリッサ。
「追いかけてきた!!」
「ばば、馬鹿なんですか!?」とメーメー。
「馬鹿じゃない。ハコブだ!!」
「どうやってここへ……!?」とクラリス。
「みんな有名だからね。いろんな町で聞き込みした!!」
「え、まさか……助けに来たのですか?」とユリアナ。
「もちろん!!」
ハコブは、荷物を投げ捨てた。
どうみても丸腰。剣はおろかナイフすら持っていない。村人っぽい服のままだ。
アリッサはキレた。
「逃げなさい!! せっかく逃がしたのに全部無駄になっちゃう!!」
「嫌だ!!」
「逃げて!!」
「やだ!! アリッサを助ける!!」
「あんたじゃ無理!!」
「できる!! そのために来たんだから!!」
「はぁ……? ああもう、馬鹿なこと
と、ついに魔王がキレた。
『うるさいハエめ……せっかくの楽しみを邪魔するとは、万死に値する』
「ごめん。もうちょい待って……アリッサ!! みんなの荷物は?」
「「「「……荷物?」」」」
「そう、荷物!!」
わけがわからなかった。
ハコブはキョロキョロと周りを見る。すると、大きな背負い鞄が隅っこに放ってあった。
なぜか両手をぐっと握り、荷物に向かって歩き出す。
「魔王、俺が相手だ!! 俺のギフトでコテンパンにしてやるぜ!!」
「ギフトって……ハコブ、あんたまさか」
「うん。目覚めた……へへ、見てくれみんな。これが俺のギフトだぜ!!」
ハコブは叫び、アリッサたちの荷物をカッコよく背負いポーズを決めた。
「「「「…………」」」」
『…………』
沈黙───……そして、魔王はハコブに手を向けた。
『消えろ』
紫電が放たれ、ハコブを直撃した。
「ハコブぅぅぅぅぅっ!? あんた、何がしたかったのよぉぉぉぉっ!!」
アリッサの絶叫。
メーメーとクラリスは思わずウンウン頷いてしまった。
すると───……魔王の紫電が掻き消された。
「ヌルいぜ」
『……なに?』
「もう、お前は俺に勝てない」
『……最大威力。放電!!』
巨大な雷がハコブを直撃。だが、紫電は再び掻き消された。
これに、魔王は思わず立ち上がる。
『ば、馬鹿な……!?』
「荷物を背負った時点で俺の勝ちだ」
「荷物って……」
ハコブは、アリッサや魔王に聞こえるように叫ぶ。
「これが俺のギフト『荷物持ち』だ!! 仲間の荷物を背負った時だけ俺は無敵状態になれる!! どんな攻撃も無効化する。マグマを泳いでも平気だったし、深海でも生きられた。ドラゴンのブレスを喰らってもノーダメージ!! くははは、さぁ魔王よ観念しやがれ!!」
「「「「……なにそれ」」」」
『ば、馬鹿な!?』
「さぁ、これが無敵の荷物持ちハコブの一撃だ!!」
ハコブは拳を握り、魔王に向かってジャンプした。
身体能力も数百倍に跳ね上がっている。
「必殺!! 『荷物持ちの一撃』!!」
『ぎょぷっ』
ドパァン!!と、魔王が爆ぜた。数百の肉片が散らばるグロイ光景だった。
ハコブの一撃は、アリッサの一撃の数億倍ほどの威力があり、魔王の肉体など紙切れ同然だったのである。
「はっはっは!! 俺の勝利だ!! やったぜアリッサ、俺の勝ちだ!!」
「…………まぁ、うん」
「……無茶苦茶すぎる」
「……絶対に戦いたくない」
「……これ、なんて報告しましょうか?」
こうして、魔王が討伐され平和が訪れた。
◇◇◇◇◇◇
後日談。
魔王は討伐され、勇者パーティーは英雄として凱旋。
アリッサたちは英雄としてそれぞれ褒美をもらい、今度は世界を楽しむために旅をすることにした。
四人の美少女たちは、世界中から称賛され、どこへ行っても目立ちすぎるのが悩みの種だとか。
だけど、冒険はとても楽しい。世界はとっても平和だった。
四人の冒険は、これからも続く。
それとこれは、四人の英雄を見た住人Aのささいな疑問だった。
その英雄パーティーに、一人の荷物持ちがいたとかいないとか。
勇者の荷物持ちはクビになっても諦めない さとう @satou5832
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