12月の贈り物

渋谷かな

第1話 12月の贈り物1

 2020年12月24日。クリスマス・イヴの夜。街中は金色に輝きを散りばめ、人々の表情は笑顔に溢れていた。幸せそうな家族が食事やクリスマスプレゼントを喜んでいる。

「なんだ? あれは?」

 空からクリスマスプレゼントが降り注いでくる。

「プレゼントは何が入ってるのかな?」

 人々はクリスマスに浮かれてワクワクしながらプレゼントを開けた。

「ギャアアアアアア!?」

 プレゼントを開けた人間はモンスターや剣、魔法、アイテムなどの様々な姿に変わってしまった。

「私からのクリスマスプレゼントは気に入ってくれたかな? クルシミマスプレゼントだがな!」

 空にサンタクロースの姿が映し出される。

「私は魔王サンタ!」

 地球に魔王が現れた。

「地球は私が支配する! ワッハッハー!」

 これにより人々の生活は一変する。


 僕の名前は鈴木一郎。

 プロ野球選手のイチローではないが、同姓同名。親が野球が好きだったのであろう。16才の高校1年生。

「どうせ僕なんか。」

 有名人と同じ名前というだけで普通の人間は比べられて、ダメ人間のレッテルを貼られて生きるのが嫌になっている。僕はいわゆるダメキャラである。

 学校でも、いじめられ、殴られ。頭も悪く、家でも親から「勉強しろ!」とうるさく言われる。

「非現実の世界に逃げよう。」

 ゲームの世界だけは・・・・・・ゲームの世界でも、僕は冴さえなかった。現実と非現実。定番はゲームの世界では強いはず。しかし、それでも弱いと。

「駆逐してやる!」

 ゲームの世界に飛び込む。

「ギャアアアアアア!? 殺される!?」

 ハイパー課金者に蹂躙される。

「現実にも非現実にも僕の居場所はどこなんだ!?」

 僕の居場所はどこにもなかった。

「もう疲れた。死んだ方がマシだよ。」

 僕には生きる意味が分からなかった。


「おはよう! 一郎!」

 お隣に住んでいる佐藤凛。同い年の幼馴染。同じ高校に通っている。学校でも同じクラス。もちろん容姿は愛麗しい。

「おはよう。」

「相変わらず暗いわね。もっと明るく元気に生きなさいよ。」

 凜は前向きで純粋な性格だった。凜の両親はうるさくないので、親子の仲が良かった。どういった家庭環境で育つかで人間の性格は形成される。

「うるさい。おまえが明るすぎるんだ。」

「まあまあ、私たちは運命の赤い糸で結ばれているのよ! 高校を卒業したら私たちは結婚します!」

 凜は、なぜか一郎のことが大好きだった。

「なぜ? おまえが決める。」

「いいじゃない。両親公認の仲なんだから。」

 僕と凜は家族ぐるみのお付き合いがあった。

「一郎、今日は何の日か分かってる?」

「知らない。」

 僕はイベントや暦に興味はない。勉強や人間関係などの日々の生活に浸かれているのだ。

「クリスマスよ! クリスマス! 一郎も部屋に閉じこもっていないで、ちゃんと両家主催のクリスマスパーティーには参加しなさいよね!」

 凜は、こんな根暗な僕なんかにも何の偏見もなく明るい笑顔で接してくれる。

「わ、分かったよ。」

 もし、こんな僕に生きる意味があるとしたら凛なのかもしれない。もし僕が凜と出会っていなかったら僕は誰とも接することなく一人孤独に死んでいただろう。


「ハッピー! メリークリスマス!」

 佐藤鈴木の両家のクリスマスパーティーが始まった。

「乾杯!」

 シャンペンやドンペリらしきもので祝うクリスマスパーティー。

「ワッハッハー!」

 大人たちが騒ぐ輪の中に僕はいなかった。

「私、一郎を呼んでくるね。」

 いつものように心配した凜が僕を部屋まで呼びに来る。

「一郎! 早く来なさいよ!」

「は~い。」

 両親と凜の両親で全員知っている人間なのだが、大勢の人が苦手な僕はパーティーの最初から参加したためしがない。

「凛、これ。」

 僕は封筒を凜に渡す。

「何?」

「クリスマスプレゼント。」

「おお!? 一郎が私にクリスマスプレゼント!?」

 僕はもらってばっかりで返したことはなかったが初めて凜にクリスマスプレゼントを贈った。

「嬉しいな~! 中には何が入っているのかな?」

 凜は封筒から1枚の紙を取り出す。

「こ、これは!? こ、こ、こ、こ、婚姻届け!?」

 僕は凜を失いたくなかったので、去年のクリスマスに凜に貰った婚姻届けにサインして今年のクリスマスに凜に返した。

「え!? どうした!? なぜ泣く!?」

 突然、凜が泣き出した。

「一郎からの初めてのクリスマスプレゼントが婚姻届けだなんて。こんなに嬉しいことはない。ありがとう。一郎。」

 感極まっている凜だが、僕に乙女心が分かるはずもなかった。

「早速、自慢しなくっちゃ! お父さん! お母さん! おじさん! おばさん! 一郎が私と結婚するって! イヤッホー!」

「はあっ!? やめろ!? 凛!?」

 僕はこうなるのが嫌で、コッソリと凜にプレゼントを渡したつもりだったが、幼馴染であっても、結婚を決めたとしても、まだ凜の性格を理解しきれていなかった。

「あれ? お父さん? お母さん?」

 庭の野外パーティー会場にたどり着いた僕と凜は誰も目にしなかった。あったのは見たこともないクリスマスプレゼントを開けた後が4つあっただけだった。

 つづく。

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