15.

 複雑な気持ちになりながら、僕は意を決して言い放った。


「あ……あの!助けてくれてありがとうございます!」


 礼を言いながら少女を引き剥がす。


「……うん。気にしないで。……生きてて本当に良かった」


 少女は憂いにも似た表情をした後、柔らかな笑顔を作った。整った顔立ちは凛としていて姉さんみたいだな、と、柄にもなく思う。


「それはそうと。礼ならエストお婆ちゃんに言ったほうがいいよ。部屋も手当てもみんなしてくれたんだから」


 少女は人差し指をうわに向けてウインクすると、寝台から降り、ドアに向かって歩き出した。ドアノブに手を回しかけた時、突然扉が開いて中から優しそうなお婆さんが顔を覗かせた。


「──〜──〜」


 予想はしていたがやはり聞き取れない。


「目を覚ましたかい。それはよかったさぁ。って言ってるみたい」


 親切に少女がお婆さんの言葉を翻訳してくれた。どうやらこの子は二つの言語を聞き取り、話し、操れるらしい。謎の原語に日本語。どちらにせよ、この世界において特殊な人間なのだろうか。


「───〜」

「お腹も空いているだろぅ。食べていきなぁ。って言ってる」


 少女は引き続き、一瞥しながら言う。

 なんて温かくて優しいのだろう。僕が最初に遭遇した鬼婆とは大違いだ。


「そこまで……悪いです……」


 僕は感慨に浸りながら断っていた。


「遠慮しないで。どうせ行く当てもないんでしょう?私も聞きたいこと沢山あるし。君もそうだと思う」


 確かに聞きたい事は山ほどある。詮索すべき立場にはないがここは素直に従うべきだろう。

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