小恐怖 善悪花

@nakamichiko

第1話   生態系

 


 この話を私自身信じているかと問われたら、正直な所「半々」としか答えられない。しかしながら今から約百五十年になろうかというこの不思議な出来事は、近辺の人間には「言い伝え」のように残っており、時たま取材に、遠く離れた国からイギリスの片田舎の町まで来る人間もいる。

だが私が前もって電話で言っているにもかかわらず


「本物はないんですよね」と繰り返し溜息ともにこの言葉が出てしまう。

「そうなんですよ、絵は残っているんですが」

「素晴らしい緻密な絵ですよね、ご本人が描かれたのですか? 」

「いえ、あれは曾祖母です」

「現地でもこの花は絶滅してしまったと言われているんです。咲かなくなった直後は犯罪率なども上がったそうですが、今は落ち着いて、やはりその地区はとても安全らしいですよ」

「まあ、良い人間が元々多いということなのでしょうかね、私もいつかは行ってみたいと思っていたんですが、内戦等々で難しくなってしまって、気が付いたら老人になっていましたよ」

「私は行きたいです、もう少しコロナが落ち着いたら。その間、現地語をマスターしたいと思っています」

「それは素晴らしいことですね」

「いえいえ、通訳に払う料金を節約するためです」

「ハハハ」


この彼が言ってくれた「理想的なイギリス庭園」の小さな花壇の前で私たちは話をした。

「善悪花のあった場所」と私が描いた小さな木のプレートの前で、彼は最後にこう言った。

「この善悪花のプレートを当主自ら作るようにとの家訓は、一つの証拠になると思います」と。


 

その当時の貴族として、ある種の典型である曾祖父。

紳士であり、学識が深く、少し偏屈で人間嫌いだが、貫かれたような人類愛は持っていたという。それゆえ、世界の色々な事を調べて回るのが大好きだった。


その人間だからこそ「善悪花」はここで花開いたのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る