蟻の王はお腹がすいておろう!
ちびまるフォイ
持て余したアリと人間
スマホに見慣れないアプリが入っていた。
『Ant-controller』
英字のアプリなんてなにかのウイルスかもしれない。
アプリを消そうと指で触れたとき、うっかり起動してしまった。
スマホの画面にはマップが広がり、アリの分布図がマークされている。
「なんだこれ……?」
ためしに指で地図上をなぞると、それに合わせるようにアリが動く。
自分の家に動かしたときドアの隙間から大量のアリがなだれこんでくる。
「うそだろ!? これ現実とリンクしてるのかよ!?」
アプリを閉じると、アリたちは糸が切れたように思い思いの場所へと散っていく。
またアプリを開くとアリをいくらでも先導できる。
「すごい……どんなアリも自由自在だ」
詳しく見ていくとアリを増やすことも、動かす種族を選ぶこともできる。
南米の奥地にいる危険なアリだって、貨物船に紛れ込ませて運び込むことも可能。
もしかしてこのアプリはすごいんじゃないか。
アプリの可能性に気がついてからは好き放題だった。
欲しいものは深夜にアリに命じて店から持ち出すことができる。
気に入らないやつは寝ているときに口にアリを大量に詰め込んで窒息させればいい。
「アリは最高だぜ!」
好き放題を続けていたある朝、珍しく家のドアが叩かれた。
『こんにちは。アリさんマークの宅配便です』
「宅配便ですか? なにも注文してないですけど」
ドアを開けると、明らかに宅配業者ではない屈強な男が二人立っていた。
「え……だれ……?」
「我々は国家安全連合組合だ。ご同行願おう」
有無を言わせず拉致されると目隠しをされて見知らぬ場所へ護送された。
「我々は独自の捜査により、君の住んでいる近辺から不自然な現象が相次いでいることがわかった」
「ナ……ナンデショウネーー……」
「その様子だと、君はやはり何か1枚かんでいるようだな。
早い段階で口を割っておかないと、もうしゃべれなくなるぞ」
壁にぶら下がる古今東西の拷問器具が目に入るとアリ以下の心臓は縮み上がった。
自分がアリを操作できることを洗いざらい話した。
「やはりそうだったのか! アリの痕跡が死体に多く残されていたんだ!」
「お、俺をどうする気ですか!? 殺すつもりですか!?」
「そんなことはしない。君のような逸材をみすみす逃すなんてもったいない。
君はここで思う存分、その才能を活かせばいいんだよ」
「え……? それってどういうことですか?」
「この世界には滅んでいいことがたくさんある、そうは思わないか?」
この日を機械に俺は国家安全連合組合に仲間入りした。
常に側近にはSPが張り付き安全が確保されている。
お金にも食事にも困ることはなく、セレブが悔しがるほど豪勢な生活をしていた。
まるで石油王にでもなった気分。
「キング、次はこの国をお願いします」
そんな俺のもとにまた新しい仕事の依頼が舞い込んだ。
蟻の王が転じてキングと呼ばれるようになってからは、この手の依頼が多くある。
「この国は……ああ最近テロで騒がしい国だな」
「我が国の恐ろしさを見せてやってください」
アプリでアリを操作して国を滅ぼすのは簡単。
地球上のアリを動員すれば一国をアリ色に染めることだってできる。
「終わったよ。あそこの国にはもう人間も兵器も食べ物もない」
「さすがキング!!」
暗殺なんて朝飯前。アリのおかげでこの国は世界でも圧倒的な力を得た。
アリも独自に品種改良を続けて、より強く固くしぶといアリが派遣されるようになった。
「キング、あの国が我が国に向けて核弾頭を作っているようです」
「ああ。アリで潰しておいたよ」
「キング。この国に向かって上陸を試みようとする集団がいます」
「海上にアリバリケードを作ろう」
「キング、この国の財産が尽きかけています」
「金塊ならいくらでも運んでこられるが?」
とどまるところを知らない発展は多くの敵を作っていった。
国が豊かで強くなるにつれて、俺に舞い込む依頼は日に日に増えていく。
「キング、ミサイルがこちらに向かっています」
「やれやれ……またか。すでに空にはアリバリケードを作っている。着弾はしない」
「さすがキングです!」
「滅ぼしても滅ぼしてもまた懲りずに攻撃してくる……。
まったく、どうしてこう人間は愚かなんだ。アリのように大人しければいいのに」
すると、また慌てた様子で職員が駆けつけてきた。
「き、キング! 大変です!」
「今度はなんだ。どんなミサイルだ?」
「いえちがいます! アリが……アリが増えすぎて食料がもうありません!」
「はぁ!?」
絶え間なく続く他の国からの逆恨み波状攻撃に備えてこの国は他の国よりも多くのアリを備えている。
アプリでアリを好きに操作できるが24時間監視しているわけではない。
アプリから手が離れた間はアリはアリらしい生活を続ける。
そうして増えたアリがどんどん人間生活を圧迫しはじめていた。
「アリによって畑の食べ物はなくなり、食うに困った人間はアリに手を出そうとしています!」
「バカ! うちのアリは品種改良したアリだぞ!?
動物ならまだしも、アリを食べたら人間は死んでしまう!」
「キング! なんとかアリの数を減らせませんか!? このままじゃこの国は自滅します!」
「減らすってそんなこと……」
アプリではアリに命じて繁殖を促すことはできても自殺させることはできなかった。
アリを他の国へと移動させてしまえば、ますますこの国は手薄になる。
ふとしたタイミングで飛んできたミサイルから守るアリがいなくなる。
「どうすればいいんだ……」
増えすぎたアリが自分たちの首を締めるなんて思いもしなかった。
なんとかアリを適正量にできないものか。
起動しっぱなしだったアリのアプリを閉じたとき、その横にまた見慣れないアプリを見つけた。
『Anteater-controller』
「あんてーたー……? あんと、いーたー……アントイーター!?」
英語の意味を調べる必要もなかった。
アプリを起動すればアリクイの生息域がマップ上に表示されている。
「これだ! アリクイを操作できればアリをいくらでも調節できるぞ!!」
アリクイもアリと同じく増やすことしかできない。
アリが増え続ければアリクイを増やせばいい。逆もしかり。
これで大量のアリで飢えた人間も救うことができる。
「ようしさっそくアリクイを手配だ!」
世界各国のアリクイの操作をはじめる。
海に作ったアリの橋をわたらせてこの国へと輸送した。
「これで完璧だ! あとはアリクイがアリを食べてくれれば、適正量になるぞ!」
多すぎるアリに悩まされる日々から解放される。
安心して床につくと、しばらくして国家安全連合組合の職員が飛び込んできた。
「たいへんです! キング!」
「いったいなんだ……朝から騒がしいな……」
「実は我が国の食糧問題が解決されたんです!!」
「そうだろうそうだろう。それもすべて俺がやったことなんだ」
「さすがキングです!!」
「増えすぎたアリを適正量に戻せば食糧問題は解決する。
そのためにいろいろ手を回したんだ」
すると、職員はなにか腑に落ちない顔をしている。
「どうした? なにかちがうのか?」
「いえキング。アリの数はそのまま変わっていませんよ?」
「はぁ? そんんわけないだろう! だったらどうして食料問題を解決できるんだ!」
職員は手に持っている骨付き肉を差し出した。
「聞いてくださいよ、キング。
なぜかうちの国に大量のアリクイが生息していましてね。
この肉がなかなかイケるんですよ!」
蟻の王はお腹がすいておろう! ちびまるフォイ @firestorage
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます