僕の天空城

月輪話子

前編

ある日空の上に大きな白い城が現れたんだ。

ヨーロッパっぽいつくりなんだけど屋根の形は丸みを帯びてキラキラしてて、もやのお堀に囲まれてる、とっても変な形のが。


嘘じゃないよ。


そりゃあ僕だって最初は皆と同じでそういう形の雲か何かだと思ってた。

でも1週間以上経っても全然形が崩れないし、雨の日も月のない暗い夜だって、すごくはっきり見えてるんだ。


空博士の僕が言うんだから、間違いないよ。


あの城は絶対にあるんだ。


あともう一つ。


城が見えはじめたのと同じくらいの時期に、時々背中に「羽」が生えた人を見かけるようになった。


隣のレイちゃんに散々見せびらかされたし、羽で鼻や体をくすぐられていじわるもされたんだから、これも嘘なんかじゃない。



まるでおとぎ話みたいだけどね。

こんな不思議なことが起こるなんて。


子供の僕だってそう思うんだから、大人たちは当然受け入れられなくて、世界中が大パニックになった。

ニュースもずーっとその話題で持ちきりになって、本当にすごかった。


で、それから少し経って、早速調査チームの記者会見(世界各国で結成されてるらしいけど、一番乗りはアメリカ)があった。

内容は『「羽」が生えたことにはあの空の城は関係している』ってことの公表。



…うんまぁ、やっぱりねってくらいであんまり思うところはなかった。



けど実験の内容自体は面白かったよ。


まず、飛行機で空から城に近づいても雲しかなくて、その中を素通りするだけで城には入れない。

目には見えるけど、カメラには映らないし、人工衛星でも城のある場所には何もない扱いになっている。


んで、普通の方法じゃたどり着けない場所ってことがわかったから、試しに例の「羽」を持ったトカゲを近くから放してみたら、上空だっていうのにすいすいと羽ばたいて、城の方に向かっていったんだって。

ついでに「羽」のモルモットに普通のトカゲを体にくくり付けて飛ばしたら、城門手前でロープが不自然にぷっつり切れて、トカゲだけ下に落ちていったって。


つまり「羽」がお城への招待チケットなんじゃないか、ってことだね。


このこともなんとなく予想はしてたからあんまり驚きはしなかった。


というか、僕がこの発表でびっくりしたのは全然別のところで、


何かっていうと、僕、未知のものに対する研究って凄く慎重に進めていくイメージがあったんだけど、今回は、城が出てから記者会見を開くまでがたったの2週間。

本当に早かったんだ。


しかも割と推測で説明を補ってる部分も多いらしい。(ワイドショーで言ってた。)


早さを優先して適当な情報を出すなんて、研究機関としては普通はありえないし、やっちゃいけないことだと思うんだけど…。



でも気持ちはわかる。

そこまで急ぐに十分すぎる理由は、あるっちゃあるし。



…たぶん、城が見えてから一日二日経ったくらい。


朝のだいぶ早い時間に、窓の外からバサバサバサッと羽ばたきが聞こえた。

最初は寝ぼけた頭で今日は鳥がうるさいなぁとか思うくらいだったんだけど、その耳障りな音は一向に止まなかったしむしろどんどん大きくなっていった。


さすがにおかしいと思って目を開けて窓の方に視線をやったんだ。

まだ空は薄暗かったけど、何かの群れが一斉に天空の城に向かって翔け上がるのが見えたんだ。


「何か」ってぼかしたのは上手に飛んではいるけど、明らかに鳥の形をしてないのやでかすぎるのもその中にいたから。


そもそも群れというか、仲間でもないのかも。

固まって飛んでいるというよりはほうぼうから先に飛んで行ったやつに続いてるだけみたいな。


じーっと目をこらしてみると、



「羽」のついた花や草木が空に昇って行くのが見えた。

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