第267話 住居
たっぷりと時間をかけてお茶会を楽しんだ私たちはようやく動き出す。あまりにもリーンウン国での生活について語り過ぎ、気が付けば日が傾きかけている。
お茶会と称してずっと何かを食べていたのでお腹も空いていない。動かねば夕飯も食べられないだろう。
「では……どうしましょうか……?」
立ち上がったは良いが、何から手を付けたら良いのか分からず思わず小首を傾げてしまった。
「カレンの行動はだいたい分かってるから大丈夫。野菜の苗や種も持って来たんでしょう?」
スイレンは当たり前のようにそう言うので、首を縦に振る。
「エビネ、タラ、言った通りでしょ?」
私が肯定したのを見て、スイレンはエビネとタラに笑いかけている。どうやら私が野菜などを持って来るとにらみ、新しく畑を用意しているようだった。
「さすがね、スイレン……。じゃあエビネ、タラ、畑をお願いしても良いかしら?」
荷車を見ると、人間の話には興味がなかったのかポニーとロバはよだれを流しながらウトウトとしていたが、私の視線に気が付くとトコトコと歩いて来てくれた。荷物をあさり、苗や種を取り出す。
今回リーンウン国から仕入れて来たのはキュウカッパにディーコンにナーニーオーン、セッサーミンにハクシーという白菜に似た野菜だ。ハクシーは庶民が好む野菜らしく、王家の厨房では見かけることがなかったので、女中たちやスズメちゃんに『お鍋』の魅力をたっぷりと語り、たくさんの鍋料理を教えて来たのだ。
「カレンこれは? 野菜じゃないの?」
「それはサイガーチと言って、これはアワノキと言うの。これらは木になるから森に植えないといけないのだけれど、生活に必要になるわね」
そこまで言うと「任せておけ!」と、ハマナスが数人のチームを作り森へと苗木を持って行く。
「私たちはこの荷物を降ろしますね」
その声に振り向くと、ハマナスの息子であるハマスゲやシャガ、イチビたち仲良し組が揃っている。ちゃんとポニーとロバの前に立ち、二頭にオヒシバを見せないようにしているのが笑えてきた。
「ではカレンちゃん。お待ちかねの家を見に行こうか」
横からブルーノさんが優しく声をかけてきた。私の書いたほとんど大雑把な図面だけを残し、口頭で伝えただけの家はどうなっているだろうか? 不安と期待が入り交じる。
ドキドキとしながら歩き、住居予定地だった場所へ到着した。
「……うそ……すごーい!!」
そこには既に家が数軒建てられていた。そのどれもがレンガ作りで可愛らしい。
「こんなにレンガが……あれ?」
少しずつ色の違うレンガを綺麗に積み、その色味がまた可愛らしさを際立たせている。こんなに大量にレンガの在庫はあったかと疑問に思ったが、すぐにスイレンが説明をしてくれた。
「川の近くが粘土が採れたでしょ? レンガ焼き場は全部移動させたし、レンガで炭焼き窯も作ったんだよ。そこは明日にしようか。カレン、早く家の中を見て」
スイレンはそう言って私の背中をグイグイと押すが、家の境界には木で作られた柵や塀、そして以前作り方を教えたプランターに植物が植えられ、生け垣のようにしている。
「家の境界線が素敵!」
思わず叫ぶと辺りから笑いが起こる。
「ただの紐で区切っただけだとつまらないでしょ? カレンらしい遊び心を考えてみたの」
そう言うスイレンはドヤ顔で腰に手を当てている。おそらく私もいつもこのような表情をしているのだろうと思い、苦笑いになってしまう。
ドキドキとしながら玄関の扉を開けると、日本の玄関のように一段高くなっている。履物を脱いで上がる為にそうしてもらったが、オオルリさんの実家ほど高さはないので上がりやすい。
建築に関わった皆は中が薄暗くても場所を把握しているらしく、木の窓を開けていくと日の光が部屋の中へと射し込まれた。
「わぁ……」
家具などはまだなく殺風景だが、リビングのような大部屋の片隅には暖炉があり、ペンションを思わせる。上を見上げると吹き抜けの二階になっている。
「最高……」
自分で書いた見取り図を思い出しながら進むと、部屋の右側の扉の先にはお便所と浴室があり、左側の扉の先には台所がある。石を彫って作ったシンクの背面にはかまどがあり、この家は土と粘土でかまどを作ったらしいが、別の家ではレンガで作ったとも説明を受けた。
料理をする時の煙などは煙突と、小さな裏口を開ければ外へと抜けて行くだろう。裏口の先には、外でも料理や食事を楽しめるように簡易のかまどや、ピクニックテーブルのような可愛らしい木製のテーブルが置かれている。
「ここまで忠実に作ってくれたなんて……今は誰がここに住んでいるの?」
そう聞くと、私たちの帰りを待って誰も住んでいないと言う。
「そんな! 今日から誰か住ま……あ……」
また余計な知恵が働き思いついてしまった。
「とても広い家だから、今日はここにタデ夫婦とヒイラギ夫婦と、私とスイレンが泊まります。隣にはブルーノさんとジェイソンさんとじいや。他は泊まりたい人でみんなで泊まりましょう。……でもお父様とお母様は民たちの為に、いつもの家で二人きりよ」
そう言うとスイレンは「なんで!?」と駄々をこねるが、名前を出した皆は察してくれたようで、苦笑いやニヤニヤとしながらスイレンをなだめすかした。
そしてその日は夕飯だけは広場で皆で食べ、私たちは家の住心地を確かめたり楽しんだりと、それぞれが新しい住居へと向かったのだった。
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