第266話 思い出話

 せっかくのお茶会なので、リーンウン国から仕入れて来た茶葉をふんだんに使い、帰る前日に余ったモチから手作りした大量のおかきをテーブルの上に広げる。


 元々はただの地面に座って食事をしていた私たちだが、ペーターさんやブルーノさん、ジェイソンさんを迎えるにあたってテーブルや椅子を作った。

 しばらく帰って来ないうちにそのテーブルと長椅子の数は増え、雨が降っても大丈夫なように大きな屋根まで設置されている。まるでキャンプ場のバーベキュー広場のようだ。


「ちょっと見ないうちに……すごいことになっているわね……」


 屋根を見上げながら呟くと、スイレンは「ブルーノさんのおかげだよ」と自分のことのように嬉しそうに話す。


「他にも気付いたことはありませんか?」


 近くに座っていたエビネがいたずらっぽく笑う。ぱっと見た感じでは変わらないように見えたが、なんだか違和感を感じていた正体に気付いた。


「畑が……移動している?」


 いつも見る畑に不思議な違和感があったが、私の家の場所は変わっていない。今座っている場所もいつもとほとんど変わらないはずだ。けれど視界に映る畑の両端が、位置が変わっているように見えたのだ。


「さすが姫様! 正解です!」


 聞けば『あるもの』の設置でわざわざ畑の一列を潰し、それは後で案内すると皆が言う。

 私は王国の変わった部分について話を聞きたかったが、皆はリーンウン国での話を聞きたいとせがむ。今日からまた王国暮らしだ。変わった部分はゆっくりと聞けば良いと思い、私たちが旅立った日からの話を皆に聞かせた。


「まぁ!」

「酷い……」


 リトールの町で出会ったクジャやモズさんの話を聞かせると、女性たちは眉をひそめ、男性たちは怒りの表情に変わる。


「そして私たちはリーンウン国に潜入して……」


 『潜入』という言葉には子どもたちや男性たちが反応し、「おおっ!」と盛り上がる。


「でもクジャのお祖母様とお母様は……」


 スワンさんとオオルリさんとの初対面の場面では、皆が自分のことのように怒り、そして涙を流す。あの日のあの光景は私も二度と忘れないだろう。それくらい酷い惨状だった。


「あの時のお父様とじいや、それにレオナルドさんは格好良かったわ……」


 あの時はそれどころではなかったが、戦闘モードのお父様とじいやはまるでヒーローのようで、それは頼りがいがあり素敵だった。普段の迷子の達人とツルツル頭からは想像出来ない程だった。

 その話を聞いたお母様はうっとりとお父様だけを見つめ、同じような目をしてジェイソンさんはじいやだけを見つめている。ジェイソンさんの心の中と、あえてそちらを見ようとしないじいやの気持ちが違う意味で心配になったが話を続ける。


「それでね、王家の呪いの正体は……」


 それを言うと歓声が上がり盛り上がる。するとスイレンが口を挟んだ。


「ヒーズル王国の最初の頃と似てる? あれ? でもみんな食べても無事だったよね?」


「それはおそらく、最初に生えていたトウモロコーンの栄養がなさ過ぎたのが幸いしたのよ」


 当時は水やりも知らず、土すらもなかった場所に植えられていたトウモロコーンはほとんど栄養がなかったのだろう。そしてお金もあまり余裕がなく、ほんの少し購入して来た物を少量ずつ分けて食べていたおかげでヒーズル王国民は回復していったと思われる。

 あとは元々の体質がリーンウン国の王家の人よりも強かったとも思われる。言葉は悪いが温室育ちではないのが幸いしたのだろう。


「それでね……」


 そこからは厨房の女中たちからの洗礼の話や、その女中たちの信頼を得た話で盛り上がる。さらには連日の献立の話などで女性たちと盛り上がった。


「それでね、リーンウン国の食べ物は懐かしいものばかりで。前世の私がいた国での食事に似ていたから、毎日作るのも食べるのも教えるのも楽しくて楽しくて……」


 そこまで言ったところでハッとする。口をつぐみ、そ~っとブルーノさんとジェイソンさんに視線を向けた。二人はニコニコと私を見ている。


「カレンちゃん」


 ブルーノさんは私を真っ直ぐに見つめ、微笑みながら一度頷き口を開いた。


「私もジェイソンさんもね、この国の服を着ているだろう? 私たちはすっかりこの王国の虜になっているんだ」


 話の本筋が見えず、ただ無言で頷き返す。


「私たちはこの王国のためにと建築をしていたんだ。もちろん楽しんでやっていたよ、仕方なくじゃない。そんなある日スイレン君が全てを教えてくれたんだ」


 真っ直ぐな心を持っているスイレンは、この国の為にと頑張っている二人に隠し事をしているのが苦になってきたらしい。そしてタデとヒイラギに相談し、私が前世の記憶があること、なぜかこの土地では植物の成長が早いことを打ち明けたらしいのだ。


「大丈夫。私たちは他言しないよ。ただね……もっと知識を教えて欲しい!」


 どうやら知識欲に駆られたブルーノさんは、いつもの穏やかな雰囲気ではなく、フンフンと鼻息が荒くなり始めた。それを見て皆が笑っている。

 やはり私が安心出来て、そして生活すべき場所はここなのだ。大好きな皆に囲まれ笑い合い、楽しいお茶会は盛り上がったのだった。

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