第241話 肉肉野菜&肉
ニコライさんとの会談を終えてから一夜明けたが、私は気合を入れ腕まくりをして厨房にいる。これから大量の食事の支度をするのだ。それには理由がある。
昨日、クジャのお母様とお祖母様と一緒にトビ爺さんの村へ行こうと約束し合い、クジャのお母様は何年ぶりか分からない実家に帰れると、嬉しがりつつぽつりぽつりとやりたいことを話しだした。今まで相当我慢をしていたことを膿を出すように口に出してくれ、私たちは『全部やりましょう』と、とても楽しい会話を楽しんでいた。
その同時刻、私たちの知らないところで事件は起きていたのだ。
お父様とじいやはニコライさんが来たことにより、兵の訓練を中断していた。そのニコライさんが帰ったので兵たちを集めると、その日はもう訓練はないと思っていた兵たちの士気が下がったようだ。お父様とじいやは『元気がないな』と、心の中で心配をしていたらしい。
そして兵たちにとっては過酷な訓練が終わると、お父様は「筋力強化のために、あの山を人の力で崩すぞ」と、笑顔で例の山を指さすと、兵たちはその場に崩れ落ちたらしいのだ。
そして今朝、ポッキリと心が折れた兵たちは「体調が悪い」と大半が休み、レオナルドさんがコッソリと私に事の経緯を話してくれた。
お父様とじいやは本気で兵たちの体調を心配しハヤブサさんに話をしに行ったが、ハヤブサさんは強く言えずに「休ませてやってくれ……」としか言えなかったようだ。
そしてお父様とじいやは「兵たちが元気になるものを作ってくれ!」と私に言いに来て、今に至るのだ。
いきなり料理を作れと言われても困ったが、元はと言えば私のお父様たちが悪いのだ。兵たちに申し訳なく思い、そして本当に疲れているのだろうと思い、疲労回復メニューを作ることに決めた。そして厨房の女中たちに頼み、すぐにたくさんの肉と野菜を用意してもらったのだ。目の前には食材が山のようになっている。
何を作るか一瞬悩んだが、兵たちの数も多い。そして若い兵だけではなく、年配の兵もいる。兵たちも食べ物の好き嫌いがあるだろう。ここはバイキング形式にしたほうが良さそうだと判断した私は、女中たちに手伝ってもらいながら料理を作り始めた。
女中たちに肉を切ってもらい、私はひたすら野菜を切る。その野菜の中には、この国の農民が好んで食べるという『ディーコン』と『ナーニーオーン』という野菜が含まれていた。
ディーコンは見慣れたものよりも細く短い大根で、ナーニーオーンはネギだった。長いオーニーオーンという由来らしい。
モーこと牛の肉はあまり量がなかったので、それは牛丼に出来るように甘じょっぱく煮付けた。同じようにブーこと豚の肉も豚丼に出来るように作ったが、ブーの肉はまだまだある。
ジンガーを使い生姜焼きを作ったり、とんかつとヒレかつを揚げた。小さな肉片は竹串に刺し、串揚げや串焼きにする。薄い肉片は野菜とタッケノコと一緒に豚汁にした。
コッコこと鶏肉のももの部分はナーニーオーンと交互に串に刺し、日本人にお馴染みのねぎまにする。胸肉は豪快に焼き、セウユ・酒・砂糖・みりんを煮詰めて照り焼きソースを作り、胸肉にかける。この国は酒を作っているのでみりんがあるのがありがたい。
手羽も焼きと煮込みを作り、好きなほうを食べてもらえるスタイルにした。
そしてプランの塩漬けという梅干しに似たものから種を取り、包丁で滑らかになるまで叩く。それを焼いたささみや豚バラ……この場合はブーバラと呼べば良いのだろうか? それに挟み、シィソというしそに似た葉を刻んで散らす。
あとはディーコンやモリノイモをすりおろしたり、オックラーやナーニーオーンを刻み、それを器に入れる。
大量に炊いたマイをおひつのようなものに移し、食事の準備は万端だ。あとは兵舎へ向かうだけだが、その前にモズさん一家を呼び、王家の人たちへの食事を取り分け、そちらの世話は任せることにした。さすがに揚げ物は取り分けなかったが、口内の状態はだいぶ治ってきているようなので、上手く食べられることだろう。
────
「皆さん食欲はありますかー? お父様もじいやも来ていないので、安心して出て来てくださーい!」
兵を心配していたお父様とじいやは純粋な善意から同行すると言ったが、兵たちの気持ちを考え丁重に断った。私の呼びかけを聞いた兵たちは窓から様子を伺い、お父様とじいやがいないことを確認すると一人、また一人と兵舎から出て来てくれた。
「私のお父様とじいやがごめんなさいね。今日はたくさん食べてください!」
私が謝ると「カレンさんは悪くない」とか「モクレンさんもベンジャミンさんも悪意はないのは知っている」などと口々に言い始め、逆に休んでしまって申し訳ないと謝られた。
「休息も大事なことです。今日は皆さんのために、疲労回復のための食事を作りました! 足りなければ追加で作るので、遠慮なく食べてくださいね!」
そう叫んでみたものの、やはり兵たちは遠慮して動かない。こういう時は無理やり手渡すべきだろう。
女中たちと共にたくさん持って来た器にマイと牛丼用の肉を盛り、まずは目の前の兵に渡す。さらに同じ牛丼にモリノイモと刻みオックラーを載せたものや、おろしディーコンに大量のナーニーオーンを載せて、ポン酢の代わりにリーモン醤油をかけたものを手渡していく。
「お? ……おぉ!」
一口食べた兵がそう呟くと、どんどんと箸が進む。そしてそれを見た兵たちが殺到し始めた。簡易の机と椅子は用意したが、一人一人のおかずを置くスペースが広くなり、席が足りないと思ったのか兵たちはいつの間にか兵舎から机を持ち出していた。
どうやら私は王家だけではなく、リーンウン国兵士の胃袋も掴んでしまったようである。
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