第204話 お父様、保護活動を始める
やる気に満ち溢れたお父様を見るために、私はオアシスへとやって来た。お父様は両肩に丸太を担ぎ、地面に降ろすとまた丸太を取りに行っている。その間にタデとじいやには鉄線を編むように頼んでいる。
お父様も、お父様に頼まれている二人も作業に夢中になり、私のことは視界に入っていないらしい。しばらくは三人に特別な動きはなさそうなので、私は久しぶりにオアシスに降りることにした。
オアシスの水辺へと近付くと、数匹のカラフルな鳥たちが熱烈な歓迎をしてくれる。
「いたたた……久しぶりね」
私の肩や腕、頭のてっぺんにまで鳥たちが止まり、面白い声を聞かせてくれる。触れようと指を伸ばすとカリカリと甘噛みをするが、頭もお腹も触らせてくれる。私としては癒やしの存在だが、生き物として見ると警戒心に欠けている。もしこの場に天敵となる動物が入り込んでしまったら、やはりこの場の生き物たちは絶滅してしまうだろう。そんなことにはなって欲しくない。
気まぐれな鳥たちは私に飽きたのか、はたまたおやつの時間なのか木々へと飛んでいく。私は持って来た袋を広げ、その中に落ちているココナッツを詰める。
ココナッツの実の落下が危険なので当初は育てるつもりはなかったが、なにかと使える植物なのだ。増やしても損はないだろうと思い直し、試しに育ててみることにする。
体にココナッツ入りの袋を括り付け、オアシスから出ると三人の様子は相変わらずである。お父様は丸太を運び、タデとじいやはずっと鉄線を編んでいるようだ。そんな三人を尻目に、サクサクと私は人工オアシスへと移動する。
まだ水が溜まる気配はないが、水路周辺は若干湿っているような気がする。満水になった様子を想像しながらココナッツをどこに生やすか考えた。水の際は人が集まるだろう。ならば少し水から離れた場所にココナッツを生やそう。
生やすといってもココナッツを埋めるわけではない。地面に置いておけばそのうち勝手に発芽するのだ。けれどただ置いておくと、誰かにいたずらだと思われかねない。なのでココナッツの実の周りに石を並べた。
オアシスにはまだ発芽していないココナッツの実が何個も落ちているので、オアシスと人工オアシスを数回行き来をした。その間にお父様は丸太を運び終わり、丸太の加工を始めたようである。
私はというとオアシスの水辺に生えている、木なのか草なのか分からない謎の植物を数株恵んでもらい、水路から人工オアシスに変わる辺りに植えることにした。可愛らしい黄色の花を咲かすその植物は、きっと民たちの癒やしになるだろう。
さらにはアカシアの若木も見つけたので、それも持ち出し人工オアシス周辺に植え付けていく。どんどんと見た目が本物のオアシスに近付き、私のテンションが上がっていく。そのアカシアの周辺にはコルクの種をパラパラと蒔く。種といってもコルクはカシの木の仲間なので、どんぐりが実る。この世界の言葉で言うならコルクカッシのドングーリだ。
気付けば日が暮れ始めており、私の腹の虫も鳴き始める。
「お父様! じいや! タデ! 帰りましょう!」
一心不乱に作業をする三人の目の前で叫ぶと、ようやく私を認識してくれたようである。三人とも時間の経過に驚いているようだった。
────
広場へ戻ると夕食の支度が終わっており、私たちはそのまま席へと着いた。タラとセリさんがリトールの町から戻って来たので、その話題で盛り上がる。
「ペーターさんは自分の町に着いたのに、帰りたいと呟いていましたよ」
なんとヒーズル王国に対してホームシックになってしまったようである。それを聞いたブルーノさんは笑いが止まらなくなってしまった。
「あのブレッドも好評すぎて……質問攻めに合いましたが、何もお答えすることが出来ませんでした」
セリさんは「ブレッドを作っていないので分からない」と正直に答えると、カーラさんやアンソニーさんが悲痛の声を上げていたと言う。けれど美味いものの礼だと、その日は散々酒を飲まされたそうだ。あの二人が騒ぐということは、あのブレッドは売れるのだ。数日ならば日持ちもするし、次回持って行くことにしよう。
「そういえばニコライさんも短時間でしたがいらしてましたよ」
タラはそう言いながら少し表情が引き締まる。
「どうやらリーンウン国の姫様のご家族の体調が良くないらしいのです。姫様とお付きの方は問題ないらしいのですが、そのご家族の為にニコライさんがテックノン王国の薬を運んでいると仰っていました」
「まぁ……」
リーンウン国も薬を作っているはずだ。それが効かないのでニコライさんに頼んでいるのだろう。
「それは心配ね……」
「はい……。それと山の爆破ですが、山から大量の水が出てしまったらしく、作業が難航しているとのことです。水が止まったらまた作業を進めると仰っていましたよ」
クジャの件もニコライさんの件も心配である。特にクジャは家族が病気なのであれば、かなり心細い想いをしているだろう。クジャの力になりたいと強く思いながらその日は眠りについた。
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