第189話 ペーターさんのために2
家から出た私はまだざわついている民の前を颯爽と歩く。絶対に食べさせギャフンと言わせてやるのだ。今は何と言われようが構わない。そんなことを考えながら荷車を置いている場所に行くと数が少ない。お父様たちが使っているのだろうか? 皆のものなので誰が使っても良いので無ければ無いで仕方がないのだが、魚を入れるための樽の持ち運びをすることが出来ない。しばし考えた私は樽を横にして、地面を転がしながら歩くことにした。
途中ポニーとロバの放牧地の横を通ると二頭がいない。誰かがポニーとロバを連れ出しているのだろうか?
「あら? ポニー! ロバ!」
もうすぐ住宅予定地だという辺りで前からポニーとロバが走って来た。二頭には荷車が取り付けられ、その後ろからヒイラギが慌てて追いかけて来ている。
「あぁ姫! いきなりこの子たちが走り始めたから驚いたよ。……というかその樽はどうしたの?」
「これから川に行くから魚を入れるために……」
私の姿を見たヒイラギは、軽く引いたように聞くので素直に答えると「もう全部準備しているよ!」と呆れながらも笑っている。なるほど、タデから全部聞いていたようだ。ヒイラギは私が必死に転がして来た樽を簡単に持ち上げ荷車に載せてくれた。
そのまま住宅予定地へと行くと、イチビとシャガが地面に棒を差し込み縄を張り一軒ずつ敷地を分けているようだ。その近くではタデを中心に岩で側溝を作っているようだ。
「ペーターさん! 思い出作りに川に行きましょ!」
「川?」
「そうよ! この水路に水を引いている川よ。今日は魚を獲りに行くの!」
まだ名前のない大きな川の話をすると、ペーターさんだけではなくブルーノさんとジェイソンさんも興味を示す。リトールの町周辺は湿地や沼が多く、そこに流れ込む川も小川のようなものしかないらしいので大きな川を見てみたいと言ってくれた。
「ならばブルーノさんもジェイソンも一緒に。このじいもお供しますからな」
じいやが行くと言うと当然のようにジェイソンさんは行くと言う。作業班もしばらくは岩を彫るからと後押ししてくれ、シャイアーク国からの三人は揃って川に向かうことになった。その背後でオヒシバはポニーとロバに睨みをきかせていたが、二頭はオヒシバを完全に無視していた。
ブルーノさんとペーターさんは荷車に載ってもらい、私とじいやとジェイソンさんは川へ向かって歩き出す。
「それにしても広大な土地だな」
どこまでも続く地平線を見てペーターさんは呟く。
「そうね、でもほとんど調査をしていないの。衣食住の問題が解決してからね」
そんな会話をしながら歩いていると、お父様たちのいる石管を埋める作業場に通りかかる。以前のものよりもだいぶ大きな石管を見て、これなら水量を確保できると思っているとブルーノさんが口を開く。
「これもカレンちゃんが考えたのかい?」
ブルーノさんがいつものように呆れ驚いていると、お父様とスイレンが私たちに気付き足早にやって来る。
「どこに行くのだ? 川か?」
「えぇ魚を獲りに」
そう言うとお父様とスイレンも一緒に行くと言う。どうやらお父様は取水口に作った仕掛けを自慢したいようだ。実は私も同じ気持ちなのだ。さすが親子である。
歩き始めると風に乗って川の流れが聞こえてくる。久しぶりの川に私たちのテンションが上がり、ペーターさんたちもまたはしゃぎ始めた。
「なんだコレは!?」
川へと到着し大河を目にしたシャイアーク国の三人は歓声を上げていたが、すぐに取水口に取り付けたタッケで作られた仕掛けを見て驚きの声を上げている。さらには川の中に設置した竹蛇籠を見て軽く水をせき止めているのも分かったようだ。
「これが水路への取水口よ。このタッケのおかげで大きなゴミは流れて行かないの。そしてここをこうすると……」
普段は魚が逃げられるように下流側に隙間を作っているが、そこを小さな竹蛇籠で塞ぐ。
「もう少し時間が経てば魚を取り放題よ」
その間に私は荷車に載っていた目の細かな網でガサガサをする。てっきり魚が打ち上がるまでお父様たちと話していると思ったペーターさんたちが見学に来た。
「何をしているんだい? それは昨日のサラダの素材かな?」
ブルーノさんはクレソン密集地でガサガサをする私に問いかける。これで小さな生き物を獲っているというと驚いていたが、網に入ったテナガエビと思われる生き物を見せると「エービ!?」と言っている。この世界ではエビはエービと言うようだ。三人の話を聞くと食べられるとは思ってなさそうだ。もちろんこれは今夜の料理に使う。必死にエービを集めているとお父様に呼ばれた。
「カレン! そろそろ良いぞ!」
三人を連れて元の場所に戻るとタッケで作ったすのこの上で魚たちがビチビチと踊っている。
「ね? 簡単に捕まえられるでしょう? 今晩は魚料理を楽しみにしていてね」
鼻歌を歌いながら樽に魚を入れていくが、その背後では絶句している三人にお父様が「娘はちょっと特殊なんだ」と苦し紛れの言い訳をしていた。援護射撃をしようと頑張っているスイレンは「そう! 悪知恵が働くの!」と援護なのか貶めているのか分からないことを言い、じいやはツボに入って笑いが止まらなくなっていたのだった。
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