第124話 初めてのおつかい
「オヒシバ!止まれ!」
「待って!オヒシバ!」
半べそ状態で荷車を引いたまま猛ダッシュするオヒシバをハマスゲと共に止める。私たちの声は届いたようでトボトボと戻って来てくれた。
「オヒシバどうしたの?動物だって感情はあるのよ?優しくしたらあの子たちも懐くわよ」
とは言ったものの、思い返してみれば二頭は最初からオヒシバにあんな態度だった気がする。シュンと項垂れるオヒシバが可哀想になり、気まずくなった私は話題を変えることにした。
「水も食料も持たずにどうするつもりだったの?お金も持たずに行っても鉄線は買えないわよ。じいやー!」
金庫番のじいやを呼ぶが、じいやはロバの鳴き声がよほど面白かったのかまだ笑っている。笑いながらではあるが家にお金を取りに行ったようなので私もあれこれと準備をする。
「お母様ー!履き物や帽子とか完成している物はあるー?」
糸や布などの植物繊維を扱うお母様たちに声をかけると、少量だがあるという返事があった。お母様たちのところに回収に行くと、思ったよりも出来上がっている。
「何かあったの?」
「今からオヒシバとハマスゲが必要な物を買いにリトールの町へ行くのよ。帽子も履き物もすごい人気で、少しでもいいから次に来る時に持ってきてほしいと言われていたの。あ!足の大きさの見本となる靴を仕入れて来たから、後で渡すわね!」
それを聞いた製作チームは手を叩いて喜んでいる。麦わら帽子は農作業チームや水路建設チームに優先的に渡しているので数は少ないが、履き物は各種それなりの数があるようだ。木箱に収められたそれらを荷車に積み込む。そして次は畑へと走る。
「エビネー!タラー!いるー?」
畑に向かって叫ぶと「どうしましたー?」とこちらに来てくれた。
「今からオヒシバとハマスゲがリトールの町へ行くの。食料をいくらか分けてちょうだい。あとね、この国の作物は美味しすぎてみんな驚いていたわ。欲しがっている人がいるから、その人の分も野菜を収穫してもらっても良いかしら?」
そう言うと「すぐに収穫します」と二人は畑へと戻る。オヒシバのところへ戻ると、ちょうどじいやがお金を渡している。
「オヒシバ、ハマスゲ、この履き物と帽子はジョーイさんに売って来てね。あと今野菜を収穫してもらっているから、それもジョーイさんに渡して」
そう言えばコクコクと頷いて聞いてくれているが表情はまだ暗い。欲しい鉄線の太さなども伝えるが、少々不安になってきたところでハマスゲが「大丈夫です」とフォローを入れてくれた。
「そうだわ!すっかり忘れていた!」
そう声を上げると「どうした?」と後ろからタデに声をかけられた。オヒシバたちの様子を見に来たらしい。あのね、と言いかけたところで良いことを思いついた。
「……ニコライさんがテックノン王国に到着したら国境を作る為に山を爆破させると言っていたの。以前爆薬の作り方を少〜しだけ言ったら、とんでもない威力のものが出来たらしくてそれを使って山を爆破させるのだけれど、この国には地図がないでしょう?だから正確にはどこに国境が出来るのか分からないのよ。こちら側から爆破の音を聞いてその位置の把握と、開通した際に国境を作る準備をしなければいけないの」
タデは「ふむ」と話を聞いてくれる。
「予想では夜営をする辺りなんじゃないかってじいやが言っていたのだけれど、だからね交代で音を探る人が必要なのよ」
「ほう。それで?」
タデは続きを促す。
「タデは仕事をし過ぎの過去があるから、ゆっくりしたほうが良いと思うの。一日や二日で山は崩れないと思うから、泊まる為の小屋なども必要でしょう?あぁそれはヒイラギに木材を頼むべきね。だからヒイラギと……ハコベさんとナズナさんと行ってきて」
ニヤリと笑って言うとタデは顔を真っ赤にして動かなくなってしまった。その隙をついてヒイラギがいると思われる森へ全速力で走り名前を呼ぶと、案の定ヒイラギは森で作業をしていてこちらへ来てくれた。タデに説明したことと同じことを説明すると「楽しそうだね」とこちらはやる気になって木材を集め始めている。ふふふと微笑んでいると後ろから怒鳴られた。
「姫!ハコベは体が弱いのだ!」
と言っているが顔はまだ真っ赤である。そしてそこにタイミングよくハコベさんが現れた。
「タデ、呼んだ?どうしたの?」
小首を傾げるハコベさんを見てタデは口ごもってしまったので、また同じ説明をするとハコベさんはナズナさんを呼びに行き事情を話してくれた。
「タデ、たまにはのんびりとしましょう。ふふ、みんなでお出かけも久しぶりね。私も準備をしなくちゃ」
ハコベさんは破壊力抜群の笑顔でタデに言ったものだから、タデはもう何も言えなくなってしまった。
「そうだわヒイラギ。リーンウン国もリバーシが欲しいと言っていたの」
「本当?ならその材料も持って行こうかな」
ヒイラギはリバーシ作りの道具も用意し荷車に載せる。ハコベさんとナズナさんは水と食料と共に履き物を作ると糸とかぎ針を持って来た。オヒシバたちも準備が完了したようで、みんなでまとまって向かうこととなったようだ。そして私はいつものようにタデにおでこをペシーンと叩かれたが、それを見た全員に「姫に何をするの!」と叱られ、おそらくいろんな意味で顔を真っ赤にしプルプルとしていた。
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