第123話 嫉妬心
じいやたちと共に一旦広場に帰ろうとするとお父様も一緒に戻ると言うので、スイレンをその場に残し戻ることにした。ポニーとロバはお父様が見ていると静かなのに、お父様が背を向けるとちょっかいを出しに行く。お父様もそれが可愛いと言い撫で回すが、二頭はおとなしく撫でられる。
「モクレンも戻って来たのか?」
私たちの姿を確認したタデが走って来たが、お父様を見て呆れたようにそう言う。どこからともなくオヒシバも走って来た。
「タデ!ちょっと話がある」
そのまま広場に戻り、ポニーとロバを繋ぎ終わると私たちはその場に腰を下ろす。オヒシバもちゃっかりとイチビたちの側に座っている。
「どうしたんだ?モクレンが話す時は大抵碌なことがないんだが……。あぁ姫、石臼だが先ほど五つ目を作り終えたがどうする?」
「五つも作ってくれたの!?もう大丈夫よ」
そう微笑むと「そうか」とタデも笑顔になる。
「話し合いを始めるぞ。カレンがな、川の向こうに渡ったそうなのだ」
お父様がそう話し始めるとタデもオヒシバも驚いている。私とイチビが見たものやオアシスについて話をするとタデは興味を示し、オヒシバはイチビをパチーンと叩きお父様にたしなめられている。
「水路をあのまま延長して、その先に手作りのオアシスを作ろうと思うの。水を蓄える為に岩盤を削れないかしら?」
「可能だが岩盤が続いているかが問題だな」
ひとまず岩盤の調査も兼ねて水路はこのまま建設を続けることになった。
「あとね、建設の様子を見ていたのだけれど、掘っているうちに砂が流れ込んでいるじゃない?」
「その対策として水路の壁になるよう石の板を作っているが……」
と言いながらもタデは渋い顔をする。
「それも有効かもしれないけれど運ぶのも大変だし、そのまま固定したとしても水路の近くに木を植えたら根の力で崩されると思うの。さっき前世での記憶が蘇ったのだけれど『蛇籠』と呼ばれるものがあったの」
タデにも鉄線で編んだ籠の中に石を詰めてブロック状にしたものだと説明し、それを積み上げその近くに木を植えることで石と石の隙間に根が入り込みさらに強度が増す護岸工事に使われるものだと伝える。
「鉄線か……。自然のものでは作れないのか?」
タデは疑問を口にする。
「タッケを編んだものでも作れるのだけれど……お父様に向こう岸に行くのを禁止されてしまって……」
苦笑いでそう言えば、タデはチラリとお父様を見て「あぁ……」と納得したようだった。
「なので早急に誰かにリトールの町に行ってもらいたい。チバ……いや、ポニーもロバもいるのだ。荷車にたくさん鉄線を積んで帰って来れるであろう」
お父様がそう言うと今度はじいやが口を開く。
「お言葉ですがモクレン様、ポニーもロバも姫様の言うことしか聞かない模様で……。と、なると必然的に姫様が向かうことになりますが……」
それを聞いたお父様は目を丸くして驚いている。ポニーもロバも「おいで」と言えば来るが、他の人が言うと気まぐれでしか近くに行かない。
「カレンは帰って来たばかりだからあまり行かせたくないのだが……」
お父様が困り顔をしつつ本音を漏らすと一人の男が立ち上がった。
「私が行ってまいります!」
「オヒシバ?」
怒っているような真剣な顔をしたオヒシバは声を上げる。お父様も様子が気になったのか声をかけるが、オヒシバはさらに声を大きくして言葉を続ける。
「チバやニバになど頼らなくても私にお任せください!」
それを聞いたポニーとロバは、名前を呼ばなかったことを理解しているのか二頭、特にポニーは目を吊り上げ耳を完全に倒し今にも噛みつきそうになっている。繋がれているおかげでオヒシバにそれ以上向かって行けないが、どうやら怒っているようである。止せば良いのに、自分に向かって来れないポニーを見てオヒシバはさらに続ける。
「私のほうが力はありますし優秀です!私が姫様の為に行ってまいります!」
この国の民の為なのに何故か私の為と言い出してしまい唖然としてしまうとお父様が口を開いた。
「……オヒシバよ……。このポニーもロバもまだ子どもだが、大人に成長すれば負けるかもしれんぞ?しかも動物に張り合うなど……」
とお父様まで軽く引いている。そんなことを言われてしまったオヒシバはショックを隠しきれない表情をしている。
「モクレン様、申し訳ありません!私が責任を持ってオヒシバと同行します!今すぐに連れて行きますので!」
今度はハマスゲが立ち上がり、オヒシバをパチーンと叩きながら代わりにお父様に謝っている。そして「反省しろ!」とオヒシバに言い、無理やり荷車置き場に連行されている。
ふとポニーとロバを見るとポニーはジッとオヒシバを見ている。そしてロバは口を開けている。どうしたのかと思いロバを見ているとなんと鳴き始めた。
「イーーーヒッ!イーーーヒヒ!」
ロバの鳴き声は『ヒーホー』と表記されるが、実際には個体差が激しい。その上かなり声が大きい。このロバの鳴き声は嘲笑っているかのように聞こえ、私たちは笑いを堪えきれなくなり笑うとオヒシバは泣きながら走り出してしまったのだった。
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