第85話 リトールの町にて
「ペーターさーん!」
道中、ジェイソンさんを一撃で沈めたじいやは終始ご機嫌で饒舌になり、それに対し私たちはなんとも言えない恐ろしさから張り付いたような笑顔で相槌をうつだけだった。いつもはそこまで距離を感じない行程だが、今日はとてつもなく遠く感じてしまった。
ようやくリトールの町が見えたことにより私やイチビたちに安堵感が訪れ、なんとも形容しがたかった恐怖感を払拭しようとペーターさんの名前を呼びながら私は走り寄った。
「おぉおぉ!元気にしとったかね?」
「うん!わたしは毎日元気よ!」
ペーターさんの近くで麦わら帽子を脱ぐと私だと分かったようで、孫に会ったおじいちゃんのようにとても喜んでくれた。ペーターさんと他愛のない話をして二人で盛り上がっているとじいやたちが追いついた。
「お久しぶりでございます」
じいやが麦わら帽子を脱いで挨拶をすると、イチビたちも同じように帽子を脱いで深々と頭を下げる。その様子を見たペーターさんは口を開く。
「おぉベンジャミン殿!他の皆さんも以前来られましたな?……ところで……その不思議な帽子は何で出来ているんだ?」
ペーターさんは私たちの手の中にある帽子を興味深そうに見ている。
「うふふ……素敵でしょう?私が作ったのよ」
その発言にペーターさんは目を丸くする。
「植物から作られている……とだけしか言わないわ」
「随分と含みを持たせるなぁ。だが素晴らしい出来だ」
ペーターさんはそう言うと笑うが、気になるようでよく見せて欲しいと言う。かぶっていた麦わら帽子を手渡すと「軽いな」と驚いていた。
この町では帽子というよりも布などを頭に縦に巻く、所謂「ほっかむり」スタイルはするそうだ。そのせいかペーターさんの目は麦わら帽子に釘付けとなり、次に言いたいであろう言葉は予想出来た。
「これは……いくら位で買えるだろう?」
「やっぱりそう言うと思ったわ。でもごめんなさい。一日に作れる数が限られていて、今回は私たちの分しかないの。もし欲しいなら次回持ってくるわ」
申し訳なさで眉尻を下げると、ペーターさんは「町の中でかぶって歩くべきだ」という。私たちが帰るまでに、この麦わら帽子を見て欲しいと思った人の数をまとめると言う。
「分かったわ。みんなかぶりましょう」
帽子をかぶりながら振り向くと皆かぶるが、イチビたち四人は自慢げな表情をしている。多分……私が褒められたことが嬉しいか、かぶれることを誇りと思っているのか……。相変わらず四人の考えは読めない。
「そうだペーターさん、ニコライさんはもう来てる?」
「あのうるさいのはまだだ。食堂で待ってなさい。来たら行くように伝えるよ」
うるさい発言に笑いながらペーターさんにお礼を言い、以前ニコライさんと話し合った食堂へと向かう。町の中を歩けば以前よりも視線を感じる。やはり麦わら帽子のおかげか、真新しい服を着ているからだろう。だけれど服のデザインは変わってはいないのですぐに私たちだと気付き、町の人たちは話しかけてきたり挨拶をしてくれる。私とじいやはにこやかに返すが、イチビたちコミュ症四人組は言葉を発せず丁寧に一礼をしている。
食堂へと入ると食堂内の人たちに歓迎されながら団体用の大きな席へと着いた。お金もあるし喉が渇いていた私たちはオーレンジンを搾った果実水を頼んだ。すぐに運ばれてきたそれを口にするとシャガが口を開いた。
「……オーレンジン……なのですよね?……姫様の作る物より味が劣る……」
店員さんや他の客席には聞こえないようにシャガはそう言ったが、確かに酸味が強い気がする。しかし品種や収穫時期によっても味は変わるし、保存期間によっても味は変わるだろう。
「きっと品種が違うのよ」
そう言ってみたものの、じいやですら納得がいかない顔をしている。そんなみんなの顔を見ていると入り口が騒がしくなる。ニコライさんが来たのかと入り口に注目すると、そこにはカーラさんとジョーイさんがいた。
「いたいた!皆さん久しぶりです!」
「うるさいよジョーイ!カレンちゃーん!」
うるさいと叫ぶカーラさんの声もなかなかのものだが、二人は私たちの席へとやって来た。
「お久しぶりね、ジョーイさんカーラさん」
「さっき通りを歩いている人に聞いて来たよ!」
どうやらカーラさんはまた店を放って来たらしく苦笑いになってしまう。
「私も同じく。いやぁ前回もありがとうございました。おかげで……」
ジョーイさんはまた儲けたらしくニヤニヤが止まらない。
「そうだジョーイさん、用事が済んだらお店に行くわ」
「本当かい!?」
ジョーイさんはものすごい笑顔でそう言うとカーラさんのツッコミが入った。
「ほらあんたは店に戻ってカレンちゃんたちを待ちな!……ついでにうちの店番もよろしく」
なんとカーラさんは堂々と仕事放棄をしてしまったようだ。驚きと複雑な思いでカーラさんを見ると「食事に来たんだよ」と苦笑いで答えてくれた。そしてジョーイさんに発破をかけ本当に店から追い出してしまったのだ。
私ですら驚いたこのけたたましいやり取りを、じいやたちは口をあんぐりと開けて呆然と見ていたのだった。
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