第44話 一難去ってまた一難

 たくさんの種類の植物が生えているが、ヒイラギたちが苗木などを採取しているだろうからと私たちはどんぐりや木の実を拾うことにした。この小さな実たちも植えれば将来は立派な木々に成長し豊かな森の一員になってくれる。

 どんぐりや木の実は一個一個確認し、虫が入っていないかをチェックする。どんぐりはブナ科の木の実なのでその木その木で形状は違うがどれも日本でもおなじみの木の実だ。


「……」


 何かが聞こえた気がし、じいやに問いかける。


「じいや何か言った?」


「いや、私は何も?」


 そう、と言いかけたところで頭上から大きな毛虫が落ちてきた。


「きゃーーーー!!!!」


 驚いて後ろに下がると茂みに入ってしまい何かにぶつかった。


「きゃーーーー!!!!」

「ぎゃーーーー!!!!」


 ぶつかった私もぶつかられた方も叫び声を上げる。葉っぱや枯れ草だらけのシルクハットにヨーロッパの貴族のような出で立ちの男性。歳は私よりは最低でも一回りは上だろう。でもこの世界の人間は意外と年齢不詳だし……驚きの連続の私の思考はぶっ飛んだ。


「……じいやって何歳?」


「今ですか!?秘密ですぞ!」


「あなたたち!お静かに!見つかってしまう!」


 見つかる?何に?そう思いその男性を見れば必死に指をさしている。その指の先を辿って見ると遠くから何かがノシノシと歩いて来る。全身のほとんどが黒い毛に、茶色ともオレンジ色とも言える縞模様。口周りや腹回りは薄っすらと白い毛が生えている地球の生き物と反転した色合いのそれは……。


「トラーーーー!!!!」


 私が叫ぶのと同時にじいやも叫ぶ。


「動かずに!あやつは動くものに反応しますので!」


 それを聞きピキーンと固まる私と貴族っぽい人。なのにじいやは護身用のナイフのような物を腰から抜き、私たちからゆっくりと離れる。ベーアの時のように槍もないのに、あんな小さなナイフでどうするんだろうとハラハラしながら見ているとトラもどきがじいや目掛けて走り出した。

 じいやは腰を低くし、その体制でトラもどきに走って向かって行く。それを見たトラもどきは全身の力を使ってじいやに飛びかかろうと跳ねた。


「跳ねてくれれば楽勝!」


 そう言ったじいやは素早い動きで軌道をずらしそのまま突き進む。トラもどきは空中で爪を立てようとするが、その位置にじいやはおらず側面にいる。空中を跳んでいるトラもどきとじいやの視線が絡まった瞬間、トラもどきの腹に蹴りをぶち込むじいや。空中でもろに攻撃を受けた為、トラもどきは呻き声をあげ吹っ飛ぶ。それを見た私と貴族っぽい人は抱き合い震えた。


「ほれ、こっちじゃ」


 挑発するように言葉を発したじいやは、トラもどきに背中を向けて走り出す。その先には大木が密集していた。怒り狂っているであろうトラもどきは咆哮をあげながらじいやを追った。一瞬振り返りそれを確認したじいやは、なんと大木の幹と幹を三角飛びで駆け上がる。トラもどきもじいやほどの速さはないが、同じように木の上を目指して行く。


「すまぬな」


 そんなじいやの声が聞こえたかと思うと三角飛びを止め落下し始めた。トラもどきもそれを見て驚いたようで、動きを止めたせいで木の幹にしがみついて逆に動けなくなってしまった。その隙をついてじいやはトラもどきの頭に見事なかかと落としを食らわせた。

 脳震盪を起こしたトラもどきはそのまま地面に落下し、じいやはどこのヒーローだという感じに見事に着地するとそのまま走り、持っていたナイフで喉元を真っ直ぐに縦に切り裂いた。


「気道を裂きましたからの。じきに息が出来ず死にますぞ」


 笑顔で振り向くじいやはさすが伝説の男といった感じだ……。


「ところであなたは誰ですか?離れてもらってもよろしいですかな?」


 じいやは血の付いたナイフを貴族っぽい人に向けて笑顔でそう言うが、その笑顔がめちゃくちゃ怖い。そして言われて気付いたが私たちは抱き合っている。


「あぁ!申し訳ない!怯えているんだろうと思って優しく包み込んでしまったよ!お強いですね!助かりました!」


 その男性は早口で言いながら私から離れる。怯えていたのはアンタもだろうに。包み込んだって何かしら!


「いやいや、美味しそうな果実が実っているのを見て従者と共に森へ入ったらアレに出会いまして……従者ともはぐれてしまい困ってたところなんですよ」


「ふむ……ではこの森にお仲間がいらっしゃるのですな?」


 そう確認したじいやは指笛を吹いた。ピィー!と甲高い音が森に響き渡ると、遠くから同じような音が聞こえる。そして短い音と長い音を組み合わせて指笛を吹くと、遠くからもそんな音が聞こえる。これはある意味モールス信号的なものだろうか?


「お仲間が見つかったようですよ。こちらに向かっております」


 やはり指笛を使って会話をしていたようで、少しするとヒイラギたちがあちらこちらから集まってきた。その中にこれまた貴族っぽいというか、どちらかというと執事っぽい格好にコートを羽織った男性が疲れきった表情で連れられて来られた。

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