第45話 占い的中

 私は今リトールの町にいる。リトールの町の人たちに初めて連れて来られたレストラン……というよりは食堂にいる。隣にはじいやが、向かいには貴族っぽい人が二人ニコニコと座っている。じいやが倒したあのトラもどきは『ガイター』と呼ばれる肉食獣らしく、その毛皮が欲しいと騒いだこの人たちの為にリトールの町に運んだのだ。町の人たちは「またか!」と驚いていたけれど。

 じいやが気道を裂いた部分はそのまま腹にかけて切り裂き見事な一枚の毛皮に出来るそうで、だけどこの人たちは血を見るのは苦手だと言うのでヒイラギたちに解体ショーを任せ、私たちはこの食堂に来たのだ。


「……じいや……おババさんの言ってたことって……」


「……私も同じことを考えておりました……。十中八九間違いないですな……」


 私たちが小声で会話をしているとニコニコしていた目の前の人が口を開いた。


「そういえば!私としたことが自己紹介がまだでしたね。私は隣国の『テックノン王国』で『テスラ総合商社』の代表をしておりますニコライ・テスラと申します」


「私は執事兼補佐のマーク・トレインと申します」


「……カレンです」


「……ベンジャミンです」


 紙が普及していないこの世界では名刺という物がないらしく、お互い名前だけの自己紹介をする。テックノン王国には名字があるようだけど、私たちヒーズル王国……というか森の民たちは名字というものがないらしい。


「それにしてもあのガイターを倒したあの技!凄かったですね!私は幼少の頃に父に連れられこのシャイアーク国に遊びに来たことがありましたが、何年かぶりに訪れたら随分と変わってしまったのですね……。聞くところによるとコウセーン国を手中に収めたこの国の王はあの『伝説の森の民』を滅亡させ、さらにはその者たちが住んでいた森をほとんど切り拓き、そのせいで凶暴な肉食獣が里に下りて来ているとか……」


 なんて嘆かわしいと目頭を押さえるニコライさんの話を聞き、私とじいやはピクリと反応する。そうか、私たちは滅亡したことになっているのか。そしてみんなが生まれ育った森がほぼ無くなってしまったんだ……。


「いやはや!そしてお嬢さん!なんと美しい!あと数年もすれば絶世の美女となること間違いない!私の妻になりませんか!?」


「イヤ」


 秒で返答をすると大袈裟に胸を押さえるニコライさん。ちなみにニコライさんからは見えないだろうけど、じいやは握り拳に力を込めて血管が浮き出ている。お怒りのようだ。


「はぁ〜!!こんな素敵な出会いなのに!君は私の心臓を鷲掴みにし、そして私の心を撃ち抜いた。そう!『天の咆哮』こと雷のようにね!」


 どうしましょう……果てしなく面倒臭いわ……。


「ところで雷と言えばですけど、雷の正体を知っていますか!?」


 身をよじったり悶たり、声だけではなく動きもうるさいニコライさんは「知らないでしょう?」といった感じに片眉を上げて挑発的に問いかけてきた。


「……電気以外の何があるの」


 面倒臭くてため息を吐きながら返答する。雷といえば、近くに落ちそうになると髪が逆立つまでいかないけれどフワフワと宙に浮いたりしたものだ。そんなことを思い出しながらじいやを見る。……逆立つ毛もないわね……。


「……じいやの毛根はいつ滅亡したの?」


「今ですか!?今聞くのですか!?何よりも失礼ですぞ!!」


 二人でギャーギャーと騒いでいるとニコライさんは突然テーブルをバーンと叩いた。驚きニコライさんに向き直る


「……失礼。今なんとおっしゃいました?大抵の人はあの質問に『天の怒り』等と答え、頭の良い者では落ちて火災を見たからか『火』と答えます。そして電気という物はテックノン王国で発見され現在もなお研究段階。今は電気を持ち運べる電池という物を普及させるよう私たちは動いておりますが、いつかは電気の力で人がすべき仕事を解決しようと国が動いております。その為にたくさんの電気を生み出すことが必要なのです。その糸口が何かないかとこの国を見て回っていたのですが……あなたは電気を知っていた……」


 これはやってしまったかもしれないわね……。


「何かを知ってるなら教えて下さいぃぃぃ!」


 おっと……。問い詰められると思ったら土下座する勢いで頭を下げられてしまったわ……。どうしましょう……。


「……失礼ですが、その総合商社とは主に何をしているのですかな?」


 ナイスじいや!上手く話題をそらしてくれたわ!


「あぁそうでしたね!私たちテスラ総合商社は国内・国外問わず工業製品や食料の輸出入をしております。私たちの国は工業や科学技術に力を注いでおりまして、そのおかげで農業を営む者が少なくなってしまいこの国にはよく食料の購入に訪れるのですよ」


 工業製品に科学技術ねぇ……。


「昔は森の民の恵みとして、数は少ないですが良質の山菜などを売っている町があったのですが、森の民はいなくなってしまったと聞き……嘆かわしい!」


 気を良くしたのかニコライさんは続ける。


「私たちの国で作られた製品を売り、そして他国の物を輸入し自国で売る。ですので面白そうな物を見つけたらそれを購入するのです」


 うーん……どうするか……。私は腕組みをして考える。

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