第7話 運命の人
◇◇◇
「すみません!すみません!」
ドアを乱暴に叩く音に目が覚める。暇つぶしのため、年に数回冒険者ギルドに顔を出すものの、いまではすっかり隠居生活を送っている僕。僕が暮らす魔力のもととなる魔素の立ち込める森は『魔の森』と呼ばれており、高ランクの魔物が多く出るため、ここを訪れるものなど初めてだ。
現れたのはひとりの女の子。黒い髪、黒い瞳の、僕と同じ日本人の女の子。息がとまるかと思った。
「あの!あの、私……」
「もしかして、日本から来た人?」
恐る恐る話しかけてみる。多分日本人には間違いないけれど、
「そう!そうです!私、私、日本人で!変な人たちにこの世界に連れてこられて!日本に!か、帰りたくて!あなたの噂をギルドで聞いてきたの……」
「そっか。大変だったね。まぁ、入りなよ」
「ありがとう……」
驚いたことに明日香と名乗る「伝説の聖女」として召還された彼女は、僕と全く同じ時代の転移者だった。僕よりも僅か数年後の世界からきた彼女。永遠と思えるほどの長い時を過ごしてきたのに、地球では数年しかたっていないなんて思ってもみなかった。
「和也は何年前ここにきたの?私と同い年位だよね?」
「うーん?実はもう覚えてないくらい長い間、この世界にいるよ」
「えっ?どういうこと?」
「僕達さ、この世界にいる間年を取らないみたいなんだよね。下手したら永遠に生きていられるかも。ここは、地球の一瞬が永遠みたいに長く感じられる世界なのかも」
「そんなっ!」
絶望したような顔をする彼女をみて決心する。
「僕はずっと、日本に帰りたかった。でも、あまりに時がたちすぎて、諦めてたんだ。君が来て一年ってことは、今日本に帰っても、まだ僕達の生きていた時代に戻れるかもしれない」
「日本に、帰れるの?」
「うん。本当はね、とっくに異世界転移の魔法を使えるようになってたんだ」
そう言うと、僕は異世界転移の魔法を発動させた。家全体を包み込むようなキラキラと輝く巨大な魔法陣が現れ、二人を優しく包み込む。
「一緒に、帰ろう?」
「うんっ!」
明日香はとても無邪気に笑った。その顔をみて僕も嬉しくなる。ああ、これでやっと、帰れるんだ。
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