第5話 化け物みたい

◇◇◇


 それからの僕は、散々で。トボトボ街を歩いているといきなり柄の悪い男たちにとり囲まれた。


「ははは!コイツはいいっ!上玉じゃねえか。金持ちの貴族に高く売れそうだぜえ」


「見たこともないようなおかしな格好だが、随分小綺麗なガキだな。どっかの国の貴族じゃねえのか?」


「独りで歩いてんだ。違うだろ。取りあえずさらっていくか」


 口々に勝手なことを喋っている。薄汚れた服に濁った目、ボサボサの髪からは悪臭が漂っており、品性の欠片も感じられない。この世界の治安の悪さに絶望する。ああ、僕はこんな訳の分からない世界で、この先野蛮な人間たちの奴隷となって生きていくんだろうか。アイドルの方がまだましだったな、と思うと笑ってしまう。


「なんだこのガキ、笑ってやがるぜ」 


「いい度胸じゃねえか」


 男たちがじりじりと近づいてくる。半分諦めかけたそのとき、体の中を駆け巡るおかしな感覚に気がついた。体が熱くて堪らない。脳が焼け付くような熱さと、体中がバラバラになりそうな痛みとともに体が浮上し、眩い光に包まれる。



 ――――遠くで、何か声が聞こえる。それは、まるで、祝福のような。あるいは、呪いのような。



 次の瞬間、僕は自分がすっかり別のに作り替えられたのが分かった。


「ファイヤーボール」


 ぼそりと呟くと手のひらから巨大な火の玉が出現する。


「うわっ!な、なんだこいつ!?」


「い、いきなり火の玉出しやがったぞ!」


「こ、こいつ魔法使いだっ!に、にげろ!」


 柄の悪い男たちは、まるで化け物を見るような目で僕を見ると、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。


「ふふ、ふふふ、なんだこれ」


 僕は泣いた。なんだこれ。これが噂のチートってやつ?手から炎とか出ちゃうのが?ほんと、まるで、『化け物』みたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る