Ep.12 最低な作戦

 春日井が発言したのに対し、僕が驚いた。このまま何も喋らず終わるかと思っていたのだ。赤羽も同じく驚愕したようで「何よ!?」と顔を歪ませていた。

 彼は静かに詰め寄っていく。


「何で死んでいるのが分かったのに、すぐさま証拠を押さえなかったか。何故、証拠を取りに来るところを捕まえなかったか、分からないのか?」

「な、何よ!? 取りに来る場面を見たって言うの!? そんな訳ないわ! あっ、だって、やってないんだもの! 自分は無実なんだもの!」


 たぶん、彼女は仕掛けを回収する際、念入りに辺りを確かめていたのだろう。春日井とお坊さんに関してはきっと取りに来る彼女が逃げないよう、身を潜めていたのだと思う。犯人指摘をしなかったと言うことは犯人から隠れることに専念していたことは違いない。それで運悪く犯人の姿を拝むことができなかったのであろう。

 彼は同じことを説明していた。


「墓石の裏にでも隠れようとしたが、二人ではその体を隠せず。もし、それを知ってしまったら犯人が来ないと思って違う場所に隠れていた。残念だが、犯人の姿は見ていない……だがな」

「だが……何よ?」

「その回収した証拠にしっかり傷を付けておいた。数珠。出してみろよ。その中に俺のついた傷があれば……!」


 確かに逃げられない証拠だ。

 しかし、赤羽は手を口に当てて笑い始める。


「ふふ……ふふふ!」

「何がおかしい!? おれの何が……!」

「だって、この服装は変わってはいないと言え。数珠とかは重くなるし、片づけてきちゃった……って言っても、あの数珠洋品店に行こうとしてる中で弾け飛んで壊れちゃったの。だから、何処だっけ。覚えてないんだけど、捨てちゃった。考えてみると、あれが不幸があるってことの前兆だったのかもね」

「嘘を付け! アンタは……アンタは! それを取ったのは居酒屋から墓場の間にある……その間の! 何処かに!」

「何処かにあったとして、その傷は君の付けたものだって証明できるの? その傷の上に傷が深掘りしてあったとしたら……」


 犯人に隠滅もされやすい証拠でもあったのだ。だから、僕のように今ここでカメラで証拠を保存しておいたり、傷とは違う証拠を残しておいたりした方が良いと思う。

 さて、知影探偵の指摘を始めよう。


「あれ……えっと、傷が……あれ?」


 何故か、彼女はチラチラとこちらを見ている。今から相手を圧倒させる場面だ。「うまくやってくださいよ!」とグーサインを送るも、あたふたする様子は変わらない。


「ええと……あれぇ、今のいきなり別の話が入ったせいで、言葉を忘れちゃった! どうしよう!」


 知影探偵、やっちまった。

 途中でやらかさないか心配ではあったが、まさか一番大事な場面で言うべきことを忘れてしまうとは。

 僕は辺りを見回して確認する。一番推理を邪魔しそうな陽子警部は歯を食いしばっていて、ぶち切れていることがよく分かる。ただ春日井のおかげもあり、赤羽がクロであることは異を唱えられないらしい。僕の話を妨害して、赤羽を逃すことはなさそうだ。

 知影探偵の手前に立って、赤羽と対面した。赤羽から向けられる冷酷な視線がこちらを襲う。


「な、何よ……アンタもさっきみたいな異論を放つの? 無理よ? だって証拠なんて……」


 僕はそこで勝手に疑問を述べさせてもらった。


「何で犯人は時間を掛けてまで、溺死させると言う方法を取ったんだ」

「はっ? そりゃあ、彼女がお墓参りをしようとしてたところで……そうね。他の容疑者が過去の事件の復讐とか、なんちゃらでちょうどよく殺害したんじゃないの?」

「過去の事件と言うのは、その十七年前に起きた水死事故のことか?」

「ええ。よく知ってたわね。あの女がほとんど殺したも同じ彼のことを考えた復讐なんじゃないの?」

「それもあるだろうが、僕は違う意味もあったと考えている!」

「はっ?」

「だって違和感だらけだ。そんなアンタらに恨まれてる女がわざわざ水を汲んでまで、墓参りをするとは思えない。かといって、他の人がいて。バケツを持って、もう一度ちゃんと墓参りをするんだとか、そんな言葉に応じるようにも思えない。それに従うのなら、殺そうとは思わないだろう。犯人は被害者と連絡を取っている間柄、今まで殺人を犯してこなかったんだから」

「じゃあ、何よ! そこで何か起こったとでも言うの?」


 僕は最近、この人達の身近で起こったことを考えた。十七年前に亡くなった少年の家に入った空き巣。

 仮説だけれど、実際の状況から考えると説明がつく。


「被害者のことをあまり悪く言いたくないが……アンタはきっと、葉加瀬さんが帰った後にすぐ被害者に呼び出され……知ったんだろう? 彼女がお金に困って空き巣をやっていたことや盗掘しようとしてたことを!」

「それをな……えっ!? 盗掘って……!」


 ピラミッド。そこは盗掘が多い場所としても有名である。そんな美伊子のヒントから発想した推理だ。

 

「きっと狙いはプレミアのカードだろう? 檜鼻さん、その子の副葬品としてそういうのを埋めたんじゃないですか? それを今さっき赤羽に言われて思い出した」


 檜鼻さんは一回大人しく頷いた。手がわなわな震えていて、被害者がそんなことを本当にやったと信じられていない様子。

 だけれども、僕が見つけた証拠でそんな推測もできてしまうのだ。

 赤羽は後ずさりしながら、動いている。


「何よ何よ何よ……そのプレミアカードを見つけたから、何だって言うの!? ちょっと待ってよ待ってよ待ってよ! 何でそれが水と」

「水と関係あるんだよ。穴を掘る際は水を使うと、土が崩れて掘りやすい。だからバケツの水があったんだ。お墓を参るためでなく、盗掘するためだ」

「そんなの一人でやればいいじゃない! 何で自分がいたって!」

「見張り役だろ。他の人が見たら、一発アウトで現行犯だからな」

「だから何だって言うのよっ! 証拠が」


 僕は今ここまで放ってきた言葉を乗せ、最大の決定的証拠を叫んだ。


「アンタ、下手に着替えて怪しまれると困るからって、服までは着替えられなかっただろ! アンタの黒いズボンに付いてるんだよ。泥が付いた爪で引っ掻いた痕がうっすらとなっ! 被害者はたぶん、掘ってる最中でアンタに襲われたんだ。だから抵抗する際、水と土が合わさり、泥のついた手でアンタのズボンを引っ掻いた痕がな! 被害者の爪と照合すれば、アンタが犯人だってことは明白だ!」

「ああ……」

「認めるんだ! 認めろっ! この死者が眠る地でアンタも被害者と、いや、被害者以上のことをしたってことを! 最低なことをしたってことをっ!」

 

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