魔導書図書館の司書になりました。
来部らり
第一章 頑強なプライベートルーム
第1話 どうも、見習いのリリスです。
リリスです。王国の魔導書図書館(国家機関のひとつです)で働いている魔術師です。
正確には、まだ見習いなんですけどね。
「……お師匠様?」
どうして私みたいな見習いが、こんなすごいところで働けているのかと言いますと、ズバリ、コネ採用でございます。
本来は、ここで働くには魔術試験で三級以上の資格を持っていなくてはならないのですが……私は、じつに運よく、ここの司書さんの弟子になることができたんです。
「お師匠様ー?」
若くして国家機関の頂点に立ち、聡明で、かわいくて、魔術の腕前もすさまじい――そんなお師匠様ですが、唯一、欠点を上げるとすれば。
サボりぐせがあること、ですね。
「お師匠様!」
さっきから、私が何をしているのかって?
お察しの通り、お仕事の時間になっても起きてこないお師匠様を探してるんですよ。
ここ最近は特に、朝ごはんの時間を回っても起きてこないことが多くなりました。今までは、スープのいい匂いに誘われてフラフラと食堂にやってきていたのですが……少し心配な気もします。
お師匠様はいつも、自室にはいらっしゃいません。魔術で作った特殊な空間で生活しています。そこに行くための手がかりを、私は探しているのです。
例えばそれは、本棚の裏にあったり、蔵書の中に隠されていたりするのですが。
今日は、一般向けの貸し出しカウンターに、わりとわかりやすく刻まれていました。
複雑怪奇な模様をした魔法陣。直線的でも曲線的でもあり、男性的にも女性的にも見え、そしてその色は見る角度によって様々に変わります。象徴は【万象】。王国の中でも、お師匠様だけが使える特別な魔術です。
「失礼しまーす……」
まだ起きていらっしゃらないと思いますが。
魔法陣にふれると、周囲の景色は一変しました。
古紙とほんの少しの
「わぁ……」
思わずため息がもれてしまいます。無学な私にはこの建物が学術的にどう評価されるのかは分かりませんが、その本質のようなものを、ひしひしと感じ取っていました。
お師匠様は、十字架の下で眠っていました。すやすやと、年相応――十五歳らしい寝息を立てながら。さながら聖女のように……というと、少し持ち上げすぎかもしれませんね。
幸せそうに眠っているところ、大変申し訳なく思うのですが、仕事は仕事。やってもらわなくてはなりません。
「お師匠様。起きてください。朝ですよー」
反応はありません。
しばらくゆさゆさと揺さぶっていると、ようやく薄目を開けて、返事をしてくれました。
「……もう朝?」
「ええ、お日様はすでに本調子です。さ、起きてください」
「うぇ……もうちょっと待って。少し気分が悪いから……」
お師匠様は朝に弱いです。夜は驚くほど元気なのですけどね。
「もう少しで開館時間なんですよ。今日も色々と面会の申し入れがありますし、淑女らしくちゃんとした生活を……って、聞いてませんね、これ」
お説教をしようと思いましたが、二度寝の速さに負けました。仕方がないので、担いでここから脱出することにします。
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