第56話 流通都市・バンデハン⑥

僕たちはバンデハンに入るための審査待ちで2時間ほど待っていたのだけど、やっと僕たちの番になった。


「審査待ちで長時間待たせてすいません。荷物などの検査と簡単な質疑応答を全員にお願いしています」


「それは構わないのですが、何があったのですが?」


「これから街に来てもらう人たちに心配な案件なんですが、現在街の中で連続殺人事件が発生しているのですが、街内を隅々まで調べても犯人の特徴となるものが発見出来ずにいるので毎回外から持ち込んでいるのではないかと疑っているのです」


「連続殺人事件ですか……犯人の特徴とは?」


「全長2メートル近くある真っ黒な全身鎧を着ており、武器も同じく真っ黒な大剣を持った剣士です。現在、狙われた者は4人だけなのですが殺人現場を現行犯で捕獲しようとした街の警備隊やハンターが合計で36人も殺されています」


「全部で40人も!? なるほど、それならばこれだけ厳しい審査も仕方ないでしょうな……」


真っ黒な全身鎧で2メートル近くの大きさとなると家の中にあったとしてもすぐにバレる大きさなのに未だに犯人にはたどり着けていないのかぁ。


それにしても警備隊やハンターを何人も撃退するなんて、相当強いんだな……


「はい、ですから街中だとしても気を付けて行動して下さい。特に犯行は夜中に集中していますので夜中の外出には注意して下さい」


「分かりました」


それから僕たちは個別に質疑応答を受けたり、荷物を全て調査されたりしたが無事に街へ入る許可が下りた。


「ようこそ、流通都市・バンデハンへ!」


街へ入ると、今までの街とは比べものにならない位に人や物で溢れていた。


流石は大都市って言われるだけはあるな。


普通の日なのに、こんなに人がいっぱいいるのを見たのは日本の大学に通っていた時以来かな……。


「アカリお姉ちゃん凄いよ!」


ハリッサもこんなたくさんの人を見たのは初めてらしく、ちょっと興奮気味になっていた。


「うん、凄い人だよね。僕もこんなにいてびっくりしたよ」


「違うよ! 凄い美味しそうな匂いがいろいろな場所から凄いするんだよ!」


「あれ? 食べ物の話だったの?」


ハリッサはいつも通り食べ物に感心があったみたいだった。


確かに、今進んでいる大通りには何件もの出店があり、そこから美味しそうな匂いがしていた。


焼き鳥ならぬなんかの肉を串に刺して焼いたものやシンプルなものが多いが、ハリッサの言うとおりで非常に美味しそうだ。


「宿の場所を決めたら食べにいこうか」


「うん、いく!」


しばらく大通りを進んでいると、ハリッサが何か気になることがあるのか、考え出した。


「どうしたの?」


「う~ん、気配は無いんだけど……クロポンの匂いが微かにするんだよ」


「匂い? 食べ物の匂いじゃなくてクロポンの匂い?」


クロポンってそんな美味しそうな匂いしていたかな?


クンクン。


僕にはさっぱり分からないな……


「クロポンは変わった匂いがするから間違いないと思うけど、もう匂いが消えそうな感じだからたいぶ前の匂いかな?」


「変わった匂い? クロポンってそんな臭い?」


「違うよ、なんて言うか複数の匂いが混ざった感じかな? 普通の人の匂いと濃密な魔力が混ざった金属っぽい匂いとあとは懐かしい匂い……」


「えっ、それはクロポンの装備品の……ってクロポンは金属鎧とか着てなかったか……」


クロポンは確か皮の軽装一式に普通の鉄製の剣しか装備していなかったから、魔力金属みたいな匂いはしないはずだけど……というか


「ハリッサってそんなに鼻が良かったっけ?」


前から鼻が良いのは知ってるけど、たいぶ前の匂いが分かるって、それは訓練された警察犬並に凄いんじゃないのか?


「う~ん、デュランダルを倒した辺りから、徐々に良くなってきた感じかな。あと、目と耳も良くなってきたよ!」


「デュランダル戦以降? 激しい戦いだったからレベルが上がったのかな?」


未だにハリッサのステータスが分からないから、レベルが存在しているのか分からないが、僕はハリッサの五感が上がっているのを聞いて、見えないだけでレベルは存在するのではないかと考えていた。


「そう言えば、クロポンがたいぶ前にこの大通りに来ているっておかしくない?」


「そうなの?」


「確かにおかしいですね……」


ハリッサはあまりピンときていないみたいだけど、マルコスさんは流石に気が付いたみたいだ。


「クロポンもバンデハンを目指して来ている時に遭遇して、それからクロポンは用事が出来たって言ってバンデハンとは違う方向に走って行ったから、僕より先にバンデハンに入るのは無理なんだよ」


「入口の検査待ちの列にもクロポンさんは居ませんでしたからね……謎ですね」


「ハリッサの嗅覚を信じるなら、クロポンが何かを隠してる?」


今はあれこれ考えても答えは出ないかなと思ったけど、クロポンにはちょっと注意した方が良いのかな?


あまり僕のことを師匠と慕ってくれるクロポンを疑いたくは無いのだけどな……

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