第50話 鍛冶師旅に出る

僕達が魔剣デュランダルを倒してから3ヶ月の月日が流れていた。


その間、アカリ屋は相変わらずの大盛況で着実に旅の資金が貯まりだしていた。


「ハリッサ、ちょっと話があるんだけど良いかな?」


「なに? アカリお姉ちゃん」


「そろそろこの町を出て新しい鉱山を目指そうかなと考えているんだけど、どうかな?」


「私はアカリお姉ちゃんについて行くだけだから、任せるよ!」


「そっか、ならアカリ屋の人たちにも相談しないとね……そう言えば身体の調子はもう大丈夫なの?」


ハリッサは魔剣デュランダルとの戦いが終わったあと、10日間も眠りにつくほど疲労していた。


ハリッサ本人も魔剣デュランダルのアバターを倒している筈なんだけど、戦い後半は覚えていないらしいんだよね。


僕が最後に魔剣デュランダルを作り替える作業を終えたときにはハリッサは倒れていて、赤晶石の大剣も半壊していた。


「うん、もう大丈夫だよ!」


ハリッサは元気だということをアピールしたいのか、ぴょんぴょんと跳ねたりしていた。


確かにこれだけ動ければ大丈夫だろう。


あとはアカリ屋の従業員に話をしないとな。


その日の夜、僕を含むアカリ屋の従業員とクリファスさんに集まってもらい、今後の方針を話すことになった。


「しばらくしたら僕とハリッサは旅に出る予定で、アカリ屋の店長は皆さんの元々の上司であるクリファスさんに引き継ぎたいと考えています。そして、クリファスさん次第にはなりますがアカリ屋の在庫がある程度無くなり次第閉店という形になると思います。僕の勝手な理由ですいません」


「私は長くても一年くらいと最初から聞いていたので、そろそろこの話が出るのかなとは思っていましたから大丈夫ですよ」

「私も同じで、そろそろかなとは思っていました」


ハルさんとキャロルさんは僕達がそろそろ旅に出るのだと考えていたらしく、大して驚くことは無かった。


「ちょっと質問良いですか?」


事務担当であるダラスさんには悪いことをしたなと思っている。


「はい、何ですか?」

 

「現在、アカリ屋の利益の半分近くは新品交換サービスやアフターメンテナンスになるのですが、いきなりサービスを止めてしまうとお客さんからクレームがたくさんきてしまうと思うのですが、どうすれば良いですか?」

 

「その点は後で説明するつもりだったけど、今するかな。アカリ屋最後の商品で全て解決する筈だよ」


そう言いながら僕は机の上に新商品をゴトッとおく。


「えっと、これは赤晶石の砥石でしょうか? 流石に今までのサービスから自分で包丁などを研ぐ砥石に変えてもらうのは……それにアカリフライパンの対応は難しいのでは?」


「ふふふっ、そう思うでしょ? 試しにダラスが焦げ付いたアカリフライパンの表面をその赤晶石でこすってみてよ」


「はい、分かりました……こ、これは!? 2回こすっただけでまるで新品の様な表面に……これはいったい?」

 

「作成方法は今まで通り秘密なんだけど、これは僕の造ったアカリフライパンとアカリ包丁にのみ作用する表面再生晶石という新商品だよ。これをアフターメンテナンス価格で販売すれば良くない?」


「……なるほど。相変わらずアカリ店長は斜め上をいく解決策を提示してきますね。しかし、この新商品を販売するのは反対です」


「えっ!? なんで? 僕的には画期的な新商品だと思ったんだけどなぁ……」


この新商品には全て下位精霊が宿っていて、僕の造ったフライパンと包丁の表面を治して欲しいとたのんであるのだ。


ってか、なんで反対何だろう?


「画期的な新商品というのは間違いありませんが、

アカリ店長は商売が下手過ぎる……これは販売するのではなく、これを使って我々が今まで通りアフターメンテナンスとして使えば半永久的に利益が見込めます」


「ああ!? なるほど!」


確かに言われてみたらその通りだなと自覚してしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る