魔剣のアカリ

フェアリーP

第1話 ゲームと同じ設定の世界に……?

僕は現在、森の中を彷徨っていた……


「くっ……思っていた異世界と大分違うぞ!」


僕は森の中で叫ぶが、広大な森の中には返事をしてくれる人など当然ながらいなかった。


「はぁ……はぁ……それにしても、この身体は体力が無さ過ぎるだろ……ゲームならこんな事には……」


この身体は、ちょっと歩いただけで息は上がる程に体力は全く無いし、使えると聞いていた魔法は何故か使えない……食料だけはたくさん貰ったので良かったけど、食料も無限ではないので早く町に行かなくてはいつかは餓死してしまうだろう。


しかも、森を真っ直ぐ歩いてはいるが、街のある方向すら知らないので、本当に街にたどり着ける保証は一切無い。


そうなると、この広大な森すらを本当に抜けられるのかすら怪しくなってくる。


楽して無双が出来る異世界鍛冶生活じゃなかったのかよ?


何故、僕がこんなに体力の無い身体で森の中を彷徨っているかと言うと……


【数時間前……】


「はぁ……これからどうしよう」


僕は来月には就職がきまっいる大学生四年生なのだが、先ほどアパートに届いた手紙により地獄の底へ叩き落とされた。


手紙の送り主は僕が就職する企業からだ。


そして、手紙の内容は簡単に言えば会社が倒産する事になったので内定は取り消しになったという感じだった。


最近は会社が倒産するっていうニュースはよく見かけたが、まさか自分の就職する筈だった企業が倒産するとは全く思っていなかった。


「ヤバい……来月から住むところが無いぞ……」


僕の両親は、僕が高校生の時に事故に遭い、既に他界していた。


本来なら僕は高校卒業後は大学生にいかずに就職をして安定した生活をするのが正解なのかもしれないが、僕は保険金を使い両親が死ぬ前に嬉しそうに祝ってくれた有名な大学に通い、そこそこ有名な企業に就職をする事を目指した。


僕は両親の残してくれた保険金を無駄にしないためにも大好きだったネットゲームも引退し、無駄なお金も使わずに頑張ってきたのだ。


そして、来月に就職する予定だった企業は社員寮のあるところで、今住んでいるアパートも今月中には契約が切れて退去しなくてはいけないんだけど……


引越すにしても、既に所持金はあまりなくて、引越費用などを捻出する事すら困難なレベルだった。


「勇者様」


「えっ?」


僕しかいない筈のアパート内で、突如として女性の声が聞こえたのでビックリして、声のする方へ振り向くと、そこにはキラキラと謎な輝きを纏い、薄手な白いドレスを着た美女が立っていた。


「ああ、ショックのあまり幻覚を見ているのか……」


彼女はおろか女友達すら作らなかった、僕のアパート内に美女が居るわけがないので、これは僕の脳が勝手に精神崩壊を防ぐために作り出した幻覚か何かだろう……


「勇者様、私は幻覚ではありませんよ。ほら、手の温かさも本物でしょう?」


幻覚と思われた美女は僕の手を取り、優しくにぎりしめてくれた。


確かに美女の手は柔らかく、暖かい。


「それじゃあ、あなたは誰なんだ? ここは僕のアパート内だぞ? まさか、次の入居者が見学に?」


あの貧乏人にはもの凄く厳しい大家ならば、まだ住んでいる部屋を見学させる位の暴挙はするかもしれないと思った。


「私は女神、アリステラです。勇者様には私が管理している世界を救って欲しいと思い、お願いに来ました」


「女神? しかも、僕が勇者? 勉強しかしてこなかった運動神経の無い僕に世界を救って欲しいって、悪い冗談だな」


「勇者様は以前、ファイナルオンラインというネットゲームで高レベルプレイヤーでしたよね。あのネットゲームは私の管理する世界を救える勇者様方を探すために、私の管理する世界を模して作られたものなのです。ですから、あのネットゲームで高レベルプレイヤーだった勇者様なら問題ありません。それにファイナルオンラインと同じ様にステータスなど言って頂ければ、向こうの世界に適した身体はこちらで用意します」


「マジか……確かにあのゲーム内と同じ様なステータスにしてくれるなら何とかなるのか? しかし、僕ははっきり言ってゲーム内で高レベルプレイヤーだったけど、戦闘職ではなくて鍛冶屋だったから、世界を救うなんて無理だよ?」


「それも大丈夫です。あちらの世界には他の勇者様も何人かお呼びする予定になっていますので、サポート役でも非常に助かります」


「そうなんだ……」


「ただし、あちらの世界にいくにあたって注意点が3つだけあります」


「注意点?」


「はい、まずあちらの世界に行くとこちらの地球には戻って来れません。そして、あちらの世界で死んでも蘇生は出来ないという事とレベルは初期値の1からになってしまう点です」


「なるほど、転移ではなくて新しい身体に転生するから、戻ることは出来ないって事か。それにゲームみたいにレベル1からなのは仕方ないね」


いきなり最強よりもレベル1から苦労して強くなるのも悪くないかもしれない。


「流石は勇者様、理解が早くて助かります。それで……」


「良いよ」


「えっ?」


「だから、その世界に勇者として行ってあげても良いよ」


「あの……お願いをしていて何ですが、もう少し考えなくても大丈夫なのですか? 一度手続きを開始してしまうとキャンセルは出来ませんよ?」


「うん、大丈夫だよ。どうせ、この世界に絶望していたところだったから、ちょうど良かった。それにゲームみたいな世界に行けるなんて夢のような事だしね」


僕は女神の頼みを聞き、ファイナルオンラインと似たような設定の地球に勇者として行くことになったのだった。

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