R.G.Bの日常 ~ダニエル番外編~

ふはい

一曲目 一夜限りの雪獅子

『それでは、この挨拶をもって学園祭を終了します。引き続き後夜祭を――』


ディオゲネスクラブの策略によりステージが破壊される騒動はあったものの、整備委員会モルフェウス部隊によって修復された為そのまま当たり前のように学園祭が進み、閉幕式を迎えていた。


「――あれ?ダニエル居ないな?」

「ホントだ!?ダニエル先輩いませんね…?」

「俺たちの中で一番デカいダニーが見つからないってそんな…居ないな?」


そして、その閉幕式のすし詰めな生徒席のどこか。

R.G.B.の面々は一纏めに集まって生徒として閉幕式に参加していたのだが、ただ一人――ダニエル・フロストの姿が彼らの傍には無かった。


「…一応、閉幕式開始まではいましたよね?」

「いたいた。小夜ちゃんや̪志音ちゃんを撫でまわしてたよな?」

「ついでとばかりに俺も撫でてたけどな。マジでこの辺りにダニー居ねぇんだけど…」

「せ、先輩!あれ、アレ見てくださいっ!!」

「へっ?」


辺りを見渡しても見失うはずもない白髪と長身の姿が見えないことにメンバーが心配していると、何かに気が付いたらしい志音が指さす方向からバラバラバラと風を切る音とどこか聞きなれた声と共にヘリが飛んできた。


『Ladies and gentlemen!!アカデミア全校生徒並びにその関係の皆々様、学園祭は楽しんでいただけただろうか!?』

『ただーし!まだまだ“お祭り”は終わらないよ!とぅ!!』


丁度ヘリがステージ上空に来たところで、花緑青色のファーの目立つ白のモッズコートを羽織り顔を隠すようにゴーグルを身に着けたが飛び降りる。

そのまま客席の上空を通り抜けていくヘリの腹部、もといヘリの下部には彼らの鬣と同じ色の正面を向く獅子のエンブレムと【Snow Lion】のロゴがプリントされていた。


『突然のsurpriseすまなかった。何処かの昼行燈のご要望で、俺達Snow Lionがやって来たぜ!!』

『今回のの復活だから、思う存分私達の演奏ライブに聞き惚れてよね!』


――突然のゲリラライブ。

数秒しんと静まり返った直後、客席のあちこちから歓声が上がる。


「「「「う、ウォォォォォォォォォ!!!!!!」」」」

「Snow Lion!?うっそだろ!?もう復活しねぇと思ってたのに!!」

「キャー!!スノウ様ー!!」

「レオちゃーん!!こっち向いてーー!!」


「だ、ダニー…?」

「レオナ先輩も居ますね…?」

「…よく分からないけど、原因が生徒会長なのは分かるね…?」

「アレいいんですか…?輝先輩…」

「多分会長からの“依頼”だろうし、今夜限りみたいだし、深くは考えずに楽しんだ方が早いと思うよ?」

「「「「えぇ……」」」」


なぜ、のか。それについては今から数時間まで遡る。


「――それで、“賭け”の結果はどうするつもり?」

「あー、それな。俺とライブしねぇ?」

「まぁ、“YES”っていう約束だし付き合ってあげても――えっ?ライブ?」


バトルステージの合間に『勝ったら一つだけYESと答える』と賭けていたレオナは、ダニエルからの予想外の言葉に思わず呆けていた。


「…な、なんでライブなのよ!?『お前にラブソングをー』とか言ってたくせにー!弄んでたってわけ!?」


普通に告白か、交際を申し込むセリフが来ると思っていたとばかりに、あまりにもなダニエルのセリフにレオナは顔を真っ赤にしながらも、ガっとダニエルのシャツの襟に掴みかかってがくがくと揺さぶり始めた。


「おいおいおい、まぁ待て。――俺が長期休みは“外”で家業の仕事してるのは知ってるよな?」

「…知ってるわよ、傭兵みたいな仕事でしょ?」


暫く揺さぶられたところでがくがくと揺さぶるレオナの手をそっと包むように外しては、ダニエルは背を屈めるようにしてレオナと目線を合わせる。

その視線から逸らすように、それがどうしたと言わんばかりにレオナは頬を膨らませた。


「そうそう、戦う仕事だからな…いつ“置いて逝く”か分かったもんじゃねぇから。だから、そう簡単に付き合ってくれーなんて言うつもりねぇよ?愛は囁くけど。」

「うぐ……」

「…ということで、俺に覚悟ができたら改めて返事くれよ。女神様ネヴァン?」

「うぐぐぐぐ…!」


あくまでも相手のことを尊重したいと、逸らす視線を引き留めるようにするりとひと房レオナの髪を手にとっては、ダニエルはそこにそっと愛おしむように口づける。


「もー!ダニーの言いたいことは分かったわよ…で?なんでライブなの?」


あまりにも慈しむような甘い対応に耐えきれないとばかりにべしーんとダニエルの手を振り払っては、さっさと本題に入れとレオナは腕を組んだ。


「まぁ、ざっくりいうとなー。あの昼行燈からの無茶振いつものりなんだよなぁ」

「……あぁ、ダニーってアイツと同じクラスだったわね…なんか納得。」

「納得いただけたようで何より。秘密裏に後夜祭のステージ頼まれてな、R.G.B.でやるのも良かったんだが…」

「ダニーのことだしどうせなら賭けもあったし、話題性あって“遊べる”方がいいって考えたんでしょ?」

「That's right、よく分かってんじゃん?色々融通はしてくれるみたいだから、派手に遊べるぜ」

「はぁ…分かった。久しぶりにSnow Lionとして一緒に“遊んで”あげる」


――ということが、今行われているライブの数時間前の出来事だったりする。


『それじゃ、最初からかっ飛ばしていくよー!!!』

「「「「イェェェイイイ!!!」」」」


ゲリラライブとは思えない熱狂の中、学園でもトップクラスのギターのメロディにオルクスとブラックドックの能力せいのうを存分に発揮したベースを主体としたが唸りを上げる。

数年前よりずっと、心身共に成長した雪獅子Snow Lionのライブは後夜祭の思い出に盛大な華を添えたのだった。

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