第671話 サクラが知らない事情
うぅー! 完全に庭に出る為の草履の事を忘れてたー! どうしよう!? 別に現実じゃないんだから、そのまま出ても汚れはしないけど……でも、それじゃなんか色々と台無しな気もするし!
今から作る? 出来なくはないと思うけど、急いで作ったら雑な物になっちゃいそうだし……時間が足りるかも正確なとこは何とも言えないよね!? 他に何か手段は……。
「あっ! 姉さんの作った和室!」
「美咲、どうした?」
「兄さん! 姉さんが作った和室に、庭に出る草履があったよね! あれ、配信の方で使えたりしない!?」
「……データとしては使えるが、もし使うなら姉さんに一言かけておけよ? 作ったのは多分姉さんだろうが、もしそうじゃなかった場合は厄介な事になりかねないからな」
「うん! すぐに聞いてみる!」
もう衣装の着せ替えの件は受け入れる事にしたんだから、ここで姉さんの力を借りるのもありだよね! 環境が変わるからフルダイブはいつもより早めにしたいから、もうそんなに時間の猶予はないし!
「姉さん、すぐに出てくれるかな?」
まだお仕事中だったりしないといいんだけど……とりあえず、急に通話をしても出れない可能性も考えて、メッセージで聞いてみる! 『ちょっと急ぎのお願いがあるんだけど、通話しても大丈夫?』……これで送っておこー!
「わっ!? すぐに通話がかかってきた!?」
返事があってから私か通話をかけようと思ったら、姉さんからかかってくるのが早いよ!? でも、話がすぐに出来るのはありがたいよね! という事で、ササっと通話に出るのさー!
「美咲ちゃん、お願いってなーに? さっき俊くんから、衣装替えの件の話を聞いたけど、早速これからやっちゃいたい? 昨日見せた分なら、どれでもすぐにいけるからねー!」
「わー!? 今の用、それじゃないから!」
受け入れるのを決意はしたけど、今これからってのは勘弁ー!? あの数の服の中から、すぐに選べって言われても悩むもん!?
あ、でもあの中には浴衣もあったよね? ……今度、時間がある時に選ばせてもらおっかな?
「んー? てっきりその件だと思ったんだけど……そうじゃないなら、急ぎのお願いってなーに?」
「あ、うん! 和室の改装は出来たんだけど、庭に出る為に履く草履を作り忘れたのに今気付いて……姉さんが作った和室に置いてある草履、配信で使ってもいい?」
「あ、そういう話! うん、アレは私が作ったものだし、自由に使っちゃっていいよー! 完全にプライベートで作ったものだから、特に作成者のサインとかは入れてないしね」
「やった! 姉さん、ありがと!」
「どういたしまして!」
うふふ! これで、作り忘れた草履はどうにかなりそう! またどこかで改めて自分で作り直す……ううん、ここは折角だから姉さん作の草履を使っていこうかな?
「それはそうとして……着せ替えの件、本当にいいんだよね? 今回、私の暴走じゃなく、美咲ちゃんからのちゃんとした了承として受け取っていいんだよね?」
「あ、うん! でも、毎日着せ替えとか、変な衣装とかは勘弁してくれると……」
「加減は弁えておりますとも! あー! 聡さん、その呆れ顔は何さー!?」
姉さんだけなら加減なしになりそうだけど、聡さんが調整してくれそうだし、大丈夫かな? うん、そこに兄さんも加わるんだから尚更大丈夫! 姉さんの暴走を抑えられる人がいる、磐石な体制なのですよ!
「あ、美咲ちゃん。大真面目な話、何か衣装にリクエストとかある?」
「えっと、普段が和服だし、季節的にもやっぱり最初は浴衣辺りがいいかなー?」
「浴衣ね! 浴衣なら……あ、そっか。そういえばもう少ししたら夏祭りがあるし、あそこに話を持っていってみよっかな?」
「姉さん!? あそこって、どこ!?」
待って、待って!? 何か不穏な雰囲気を感じたんだけど、姉さんは一体何をする気なの!?
「ふふーん! 夏祭りと言えば浴衣! そして、そんなに頻繁に着る訳じゃない人の方が多いから、レンタルもある! 美咲ちゃん、サクラでレンタル浴衣のお披露目を何日かかけてやる気はなーい? あそこの商店街の中、そういうお店もあるんだよねー!」
「日替わりで浴衣を変えていくの!?」
「うん、そうそう! 聡さん、そういうのって出来るよね? あ、聡さんにも会話に参加出来るように設定変えるね」
「あ、うん」
これ、姉さんが思いつきで言ってるだけな気がする! でも、単なる着せ替えじゃなくて、宣伝に絡めようとしてる感じ?
「……まったく、葵は完全な思いつきで言ってくれるね。まぁあそこの商店街の人達は結構な人数が乗り気だから、企画として通る可能性はあるけども……美咲ちゃんとしてはどうなんだい?」
「えっと……」
まさか日替わりで浴衣を着替えるってパターンは予想してなかったんだけど……ありと言えばありなのかな? というか、今回のもいつものあの商店街のお店なんだね!?
「あぁ、ちなみにだけど……あそこは全国配送もやってるし、夏の時期は稼ぎ時でもあるから、宣伝費はしっかり出ると思うよ。そもそも、昨日の衣装の中に、いくつか混ざってはいたしね」
「そうなんですか!?」
「正直に言ってしまえば、葵が自慢するもんだから……美咲ちゃんはあの商店街ではかなり有名にはなってるよ。それこそ、商店街の看板娘として雇おうかなんて話も――」
「わー!? 聡さん、それはまだ極秘話ー!」
「……え?」
今、なんか凄い話が出てなかった? ……え、待って、待って、待って!? 私が、あの商店街の看板娘!? 何がどうしてそういう話になってるの!?
「葵、美咲ちゃんからすれば普段行っている場所ではない商店街から、連続して宣伝を頼まれるというのも異常事態ではあるからね。その裏にある理由は、そろそろ説明しておくべきだよ?」
「……それはそうかもだけど、もう少し美咲ちゃんが安定してからでも……」
「その安定への兆しが見えてきたからこその話だよ。僕としては、衣装替えの話を美咲ちゃんの方から今の時点で言ってくるとは想定してなかったしね」
「……えっと? 聡さん、どういう事です?」
なんだか、私が知らないところで何か話が進んでたみたい? え、私の何かを待ってたみたいな感じもするよ!?
「美咲ちゃん、時間もそれほどないけど……概要だけでも聞いておくかい?」
「あ、はい! お願いします!」
ここで聞いておかないと、スッキリしないもん! 何か大事な話な気もするし!
「こっちの駅の周辺の再開発があったという話は前にしただろう? その件も含めてなんだけど、今、僕らの住んでいる地域は地方分権の政策対象エリアでね。それで、元々ある商店街も活性化させて、都会の方からテナントも入れて活性化させようって動きの真っ最中なんだよ」
「……え? あ、そういえばそんなのもありましたっけ!」
私には無縁だと思ってたけど、姉さんが住んでる地域ってそんな感じなんだ!? あの辺、そこそこ都会だけど……そういえば、昔はそうでもなかったような気もする!?
「その一環で、まぁ頑張っている地方の若者を起用しようって流れもあってね? それで、商店街のイメージキャラクターとして美咲ちゃんの『サクラ』が候補に上がっているんだよ」
「えぇ!? 私、ゲームの配信をやってるだけですよ!? それも、まだそんなに長い期間じゃないですし!」
待って、待って、待って!? ちょっと思ってもみない方向過ぎて、理解がついていかないんだけど!?
「知ってるかい、美咲ちゃん? モンエボを作った企業の本社、去年辺りにこっちの地方に移転してるんだよ。いつもの商店街の近くでもあるし、再開発のスポンサーにもなっているから……完全な偶然だけど、全くの無関係とも言えないんだよ」
「……え? えぇ!?」
待って、本当に待って!? そういう繋がり方をしてくるの!? 私、モンエボの実況で、その開発会社が再開発のスポンサーをしている商店街の商品の宣伝をしてたの!?
というか、それって私の配信を見ている人の中に、公式の人が混ざってたりしませんかねー!? うぅ……その可能性、ありそう!?
「まぁ色々驚いただろうけど、今は気に留めておいてくれるだけでいいよ。流石に高校生に頼むには荷が重い案件ではあるからね」
「そうだよ、聡さん! 数年がかりで進めていく話だよね、これ!? 美咲ちゃん、まだ候補に上がったばかりだよ!?」
「……美咲ちゃんの成長が思っているよりも早いからだよ。他が本格的に手を出してくる可能性が出てきそうだから、状況の認識だけはしてもらおうと思ってね」
「うっ!? 確かにそれはありそうだけど……」
「……えっと、私はどうすればいいんですか?」
「当分は、今まで通りで大丈夫だよ。まぁ宣伝を頼む事もチラホラとあるだろうけど、まだそれ以上には進ませないからね。ただ、『立花サナ』との関係性が公になるのは防げそうにないし……僕ら以外からも、別の依頼や勧誘が来る可能性は覚悟しておいてくれるかい?」
「あ、例の記事!? え、他のとこからも何か話が来るんです!?」
「危ないと判断したのは、前に潰してるけどね。まぁ目立てば、それだけ利用しようと近付いてくる人は増えるから……。ただ、最終的に何をどうするかを決めるのは美咲ちゃんだ。僕らも相談は出来るけど、それだけは肝に銘じておいてくれるかい?」
「……はい!」
なんだか予想外の状況になり過ぎてて、理解が追いついてないけど……そもそも、最初に宣伝の話が来た時もそんな状況だった気がする!?
「ともかく、その話はまだまだ先の話! 美咲ちゃん、とりあえず今は目の前の事を頑張って! 配信、楽しみにしてるからねー!」
「あ、うん! 頑張るね!」
今は、目の前の事を……か! うん、まぁそれはそうだよね! 私がやってる事が評価されてるって事だし、ビックリはしたけど、悪い風に考えるのはやめとこ!
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