第365話 サクラの呟き その10
「美咲ちゃん、晩御飯だー!」
「わわっ!? 姉さん!?」
配信の終了処理をし終えたら、姉さんが部屋に飛び込んできたよ!? まるでフルダイブを終わらせるのを待ってた……まるでじゃなくて、普通に待ってた気がする!
「……姉さん、抱き付かないでー。冷房が効いてても暑いから……」
「あ、ごめん、ごめん!」
ふぅ、普段はこういう事がないから意識から抜けてたけど、姉さんが帰ってきてる間の配信中は自分の部屋に鍵をかけとこ! 終わって早々、これはびっくりだもん!
「ちなみに晩御飯は、バーベキューだよ! 良いお肉が沢山!」
「おぉ! バーベキューになったんだー!」
「という事で、準備はほぼ終わってるから、急ぐよー!」
「はーい!」
うふふ、バーベキューなら庭でだね! お父さんがその辺の事が好きだから、張り切って準備してそう! 今回は姉さんが直接買ってきて量がおかしな事にはなってないはずだから、その辺の心配もいらないよね!
ふふーん、折角だからSNSで美味しいお肉の写真で、飯テロでもやっちゃおう! 携帯端末を忘れないように持っていって、バーベキュー開始!
◇ ◇ ◇
そして、やってきました、我が家の庭! 一応それなりのスペースはあるし、位置的には姉さんの部屋のすぐ目の前! 縁側もあるから、そこに焼くお肉やら野菜が準備されてるね!
我が家のいつもの4人分と姉さんと旦那さんの聡さんの2人分を合わせて、6人分だから結構な量がある! というか、お酒が沢山だー! ……飲めないの、年齢的に私だけだもんね。
「父さん、美咲も来たぞ」
「お肉の準備も終わりましたよ」
「おう、来たか! 火の準備できたし、始めるぞ!」
「手伝いますよ、お義父さん」
「お父さん、よろしくー! 美咲ちゃん、がっつり食べるよー!」
「うん! 姉さん、ありがとねー!」
「いえいえ、どういたしまして!」
もうほぼ準備は終わっていて、焼き始めるのみの状態になってるね! 姉さんの量の配分の間違えさえなければ、頭を抱える事なく普通に楽しめるのですよ! ともかく、これでバーベキュー開始!
◇ ◇ ◇
ふふーん、お肉が美味しいなー。野菜も色々美味しいなー! ちょいちょい携帯端末から写真をパシャリと撮りながら、美味しく食べていけてる! うふふ、至福のひと時!
「美咲ちゃん! はい、美味しいジュース!」
「サラッとそれを渡すな、バカ姉!」
「あ、痛!? 俊くん、何をするの!?」
「それ、酒だっての! 高校生に酒を飲ますな!」
「あ、ホントだ。アルコール弱めだから、気付かなかった!」
「……姉さん、思いっきりお酒って書いてるよ」
「あはは、ホントだ―!」
「葵、変な真似はするな。ほれ、美咲はこっちだ」
「あなた、それもお酒ですから!」
「……何?」
「酔っ払い2人は家の中に戻って、水でも飲んで少し休んでこい! 危なっかしいわ!」
「あー、俊くん酷いんだー!」
「俊、俺は酔ってなど――」
「……母さん、聡さん、少しここを任せていいか? 俺はちょっと、この2人を連れていくんで」
「俊くん、お願いね! ほら、あなたも葵もしっかりする! もう、変なとこが似ちゃって困るわね……」
「済まないね、俊くん」
お父さんと姉さん、完全に酔っぱらってるね!? むぅ……私だけお酒が飲めないから蚊帳の外だー! なんか兄さんが半ば強引に連れていったけど、まぁ完全に酔い潰れてはいないから、少しすれば戻ってくるかな?
それにしても、お母さんも兄さんも聡さんもお酒を飲んでるはずなのに、全然違う反応なんだよねー。まぁ大量に飲んでたのがお父さんと姉さんだった気はするけど!
「さて、お父さんも葵も予想通りになったし、ここでとっておきを出しましょうか!」
「おぉ! お母さん、そんなの隠してたの!?」
「ただ単に漬け込むのに時間がかかってただけではあるんだけどね? まぁ、少し酔いが醒めた頃には丁度いい頃合いでしょう」
「あぁ、あのスペアリブですね」
「ちょっと取ってくるから、聡くん、少しお願いね?」
「はい、分かりました」
とっておきは、お母さん特製のタレに漬け込んだスペアリブ! 骨付きの部位だよね! えーと、あれって豚肉だっけ? ふふーん、あれは結構好きなんだよね!
ふふーん、とりあえず今のうちにSNSに飯テロ写真を投下だー! あ、色々とコメントは来てるねー。軽くだけど見ておこうかな?
サクラ☆モンエボ実況配信中! #***
中継のアーカイブ保存をしました!
『【初見プレイ】Monsters Evolve part.10』を見てみませんか?
URL:*tp://***
***.jpg
コメント【12】拡散【140】いいね【223】
⇒【1】咲夜 #***
進化の光景!
まぁ、今回はこれだよな!
→ミナト #***
連写で上手く撮れてるよねー!
⇒【7】ミツルギ #***
配信、お疲れさん。
今日も色々あったもんだな。
→水無月 #***
明日も楽しみだねー!
⇒【10】チャガ #***
お疲れさん。
さて、今日の実況外のプレイはどうなるか。
→こんにゃく #***
果たして、あれには気付くのか?
→チャガ #***
それは動画が上がってきてからのお楽しみだな。
適当に流し見にはなるけど、軽くチェック! コメントの内容としてはいつも通りって感じ! まぁ元々が同じような投稿内容なんだし、それへの反応が極端に内容が変わる訳でもないよね!
だからこそ、いつもとは違うこの美味しいお肉の写真を載せるのさー! 飯テロ写真、いっけー!
サクラ☆モンエボ実況配信中! #***
現在、バーベキューの真っ最中!
食べ終わったら、実況外のプレイをやっていきますよー!
美味しいお肉.jpg
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ふっふっふ、これで飯テロはよし! さーて、そろそろお母さんと兄さんが戻って――
「美咲ちゃん、少し質問をいいかい?」
「いいですけど、なんですか?」
一時的にだけど私と2人だけになった時に聞いてくるってなんだろ? 姉さんには聞かれたくないような内容?
「率直に聞くけど、葵は……本当に迷惑にはなってないかい? 配信をしてる時に身内が常にいるのは、嫌なんじゃ――」
「え? あ、いえ! そんな事は全然ないですよ!? ……全然ではないかな? 多少は自重して欲しいとこはあるけど、基本的には迷惑だとは思ってないです!」
「……そうなんだね。あぁ、リビングで見てた件なら、ご両親は実際の配信は見てはいないよ。美咲ちゃんが映ってる動画を見てるって事は伝わってるけどね」
「あ、そうなんですか。……お父さんとお母さんは、配信の事は何か言ってました?」
「『自分の責任の範囲内でどうにか出来る事なら、自由にやればいい。何か問題が起きた時に頼られたら、その時に動くのが親の責務だ』だそうだよ」
「……そんな事を言ってたんだ」
そっか、お父さんとお母さん、そんな風に考えててくれてたんだ。ゲームの配信をやってる事で怒られはしないとは思ってたけど、なんだか大事にしてくれてるって感じがして、なんか嬉しいね。うん、自分の責任で出来る範囲の事は、自分の責任でだね!
「あぁ、そうだ。責任云々の話に関連してだけど、何度か写真を撮ってたけど、美咲ちゃん自身や葵の姿が映り込んだ写真はSNSには載せないように要注意だよ? どこから個人を特定してくるか分からないからね」
「あ、はい! それは兄さんに色々言われてるんで、承知してます! さっきのも、周囲の風景が映ってないのにしましたし!」
「あはは、まぁその辺は俊くんらしいね」
「なんだかんだと言いながら、兄さんは面倒見がいいですからねー!」
「それは確かにそうだね」
兄さんが本当に嫌なら、私が今まで色々と頼み込んだ事を断っててもおかしくないもんね。一部は手数料を取られたけど、それでもあれは格安って話! 姉さんは盛大に甘やかしてくるけど、兄さんもなんだかんだで優しいもん。
でも、あんまり甘えてばっかりってのも駄目なんだよね。姉さんが聡さんと結婚して家から出て行ったみたいに、兄さんだっていつまでも家にいるとは限らないもん。それに、私だって……まだ将来は分からないけど、ずっと家にいるとは決まってないし……。
「……それとなんだけど、美咲ちゃん」
「他にも何かあります?」
「中学生の頃にあった事は聞いたよ」
「ごほっ! ゲホゲホッ!」
なんで急にその話!? うぅ、変なとこに入って咳き込んだ! 水を飲んで……ふぅ、一息! あー、びっくりしたー!
「大丈夫かい!?」
「……大丈夫ですけど、なんでその話なんです?」
「この話題に触れられるのを嫌がるのは、本当みたいだね。トラウマになってるみたいだから、本当は下手に口を出さない方が良いとは思ったんだけど……」
「……それなら、なんで話題に出すんです?」
姉さんが甘やかしてくる事が増えた理由でもあるし、私にとっては思い出したくもない、嫌な出来事でしかない。一生懸命、自分で頑張って作っただけなのに、それを偽物扱いされたあの件。
そして、私としては誇らしかったプロになった姉さんを侮辱するようなあの件。そんなもの、思い出したくもない。
「……すまないね。でも、勝手に僕らの方で可能性を塞ぐのは本意じゃないし、この話を切り出すにはそこに触れるしかなくてね」
「えっと、本当にどういう話なんです?」
「美咲ちゃん、君にちょっとした仕事の話が来ている。『立花サナ』の妹としてではなく、『サクラ』としての君にね。俊くんが先に気付いて止めてくれて、今は僕が仲介に入ってはいるけど、ずっと黙っている訳にもいかないからね。……あそこは目を付けるのが早いというか……色々と思うところはあるけど」
「……え? えぇ!?」
ちょっと待って、ちょっと待って、ちょっと待って!? それってどういう事!? ただのゲーム配信をしてただけの私に、具体的な内容は分からないけど、そういう話がやって来るの!? え、何がどうしてそうなったの!?
「これは遊びの話じゃないから、荷が重いと思うなら詳細を聞かずに断ってくれても問題ないよ。ただ、話を少しでも聞くのであれば……あの『サクラ』のアバターの価値は、正しく把握してもらう必要がある。……まぁ、答えはすぐに出さなくてもいいから、じっくりと考えてみておくれ」
「……あ、はい」
私の『サクラ』としてのアバターの価値……? あれは確かに私なりの自信作だけど、それでも趣味の域は出ないものだと思ってるんだけど……それは違うの? うがー!? 急な話過ぎて、訳が分からないよー!?
「はーい、スペアリブを持ってきたわよー!」
「水を飲んだら、復活! さぁ、まだまだどんどん食べるぞー!」
「俺はまだ、酔っていない!」
「……どう見ても、まだ2人とも酔ってるんだが……はぁ、まぁこの程度ならいいか」
あ、みんな戻ってきた。……すぐに答えが必要って訳じゃないみたいだし、ちょっと考えてみようっと。私の『サクラ』の価値……そんなもの、本当にあるのかな?
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